スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

【元スカウトが明かす秘話】阪神のドラフト戦略が「超変革」した瞬間 情報流出させない幹部会で決まった大山、近本の指名

永松欣也

阪神は白鴎大の大山悠輔をドラフト1位で指名 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 昨年まで阪神のスカウトを務めていた熊野輝光氏に、選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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私も驚いた大山の1位指名

大山は金本監督(当時)の「右で将来四番が打てるバッターが欲しい」という希望もあって1位指名された 【写真は共同】

 金本監督の1年目が4位という結果に終わった2016年。この年から阪神のドラフトが変わりました。それまでの阪神は、ドラフトで誰を何位で指名するかがすべて外部に漏れており、当日のスポーツ新聞では1位から6位くらいまでバーっと全部出てしまっていました。スポーツ新聞の記者が会議の中にいたのかなと思うくらい、ほとんど当たっているのです。それはスカウト達もみんな嫌でしたし、誰が外部に漏らしているのかと疑心暗鬼になるのも嫌なものでした。他球団にしても「阪神は〇位でこの選手を指名する予定なのか」と分かったら戦略も立てやすいですしね。

 金本監督はそれを改善するために、ドラフト前日に監督も含めた関係者全員が集まって、そこで1位・2位グループ、3位・4位グループにこういう選手がいますということを各スカウトから報告を受けて、それを踏まえてドラフト当日に球団社長、球団代表、金本監督、スカウト部長などの幹部で集まって決めるようにしたのです。この年以降はずっとそうしています。それで情報が一切外に漏れないようになりました。

 そうして迎えたドラフト。金本監督が当日の「幹部会」で白鴎大の大山悠輔1位を決めました。ドラフト会議場で『阪神、大山悠輔』と読み上げられた時には、会場のファンから「えー!」という驚きの声が挙がりました。当日のスポーツ新聞の予想は創価大の田中正義(ソフトバンク1位/現・日本ハム)や桜美林大の佐々木千隼(ロッテ1位/現・DeNA)などの大学生の即戦力ピッチャーが有力と書かれていたと思いますから、それもあってファンには驚きだったのだと思います。そういう私もファンの皆さんと同じくらい驚きましたが(笑)。

 前日時点では大山は3位・4位のグループだったように記憶しています。金本監督から「大山ってどうなの?」という話が出て、担当の平塚も「それなりには打っています」というような報告はしていましたが、それでも1位、2位候補として名前は挙げていなかったと思います。最終的には当日の幹部会で、金本監督が「右で将来四番が打てるバッターが欲しい」という希望があって、それで2位だと残っていないかもしれないので、1位にしたということなのでしょう。

 この年は鳥谷も36歳になってちょっと数字も落ちてきていましたから、「ポスト鳥谷」も欲しいところでした。そういう面では、中京学院大から巨人に外れ外れ1位で指名された吉川尚輝は私の担当でしたので欲しい選手ではありました。統括の佐野さんも含めてみんなで何度も見に行きました。ただ線が細くて背中も痛めていたり、ちょこちょこ怪我もしていましたし、ショートとしては肩がもう一つという、引っかかる部分がなかったわけではありませんでした。ただ守備の動きは本当に素晴らしくて、大学の先輩でもある広島の菊池涼介並みの動きをしていました。それで「これは1位か2位じゃないと獲れませんよ」という話をしていました。

 先に書いたとおり、この年から指名選手は当日の幹部会で決められる事になりましたので、私としては「吉川の1位もひょっとしたらあるかも分からんぞ」とちょっと期待した部分もありました。最終的には「ポスト鳥谷」を獲るか「将来の四番」を獲るかという選択で、金本監督が後者を選んだのですから、担当としては仕方がないですね。

 ショートの候補としてはトヨタ自動車の源田壮亮(西武3位)も見ていました。でも打順が九番でいつもセーフティーバントをやっていた印象しかないくらい、それくらい打つ方が弱かったですね。守備はもちろん良かったですけど、鳥谷の後を任せるショートが守備だけの選手だったら、ちょっと厳しいなと思っていました。中日が2位で獲った日大の京田陽太(現・DeNA)もそこまで上位評価ではなかったですから、やっぱりショートの評価としては吉川がダントツでした。

山本由伸より評価した才木浩人

才木が早くから活躍できた理由に、野球への深い探求心がある 【写真は共同】

 この年3位で獲った須磨翔風高の才木浩人は私の担当でした。当初は4位で指名された同じ高校生右腕の福岡大大濠高の浜地真澄(現・DeNA)の方が完成度も高く評価が上で、3位・浜地、4位・才木という順番で獲る予定でした。でも浜地が腰かどこかを痛めて他球団がちょっと敬遠気味になり、逆に夏の兵庫大会が素晴らしかった才木は他球団の評価が上がっていました。それでまずは才木を確実に獲るために3位に上げ、浜地は4位でも獲れるだろうということで順番が入れ替わりました。

 才木は公立高出身のピッチャーでありながら1年目から上で投げて2年目には6勝しました。途中でトミージョン手術も経験しましたが昨年は13勝しています。早くから活躍できた要因は練習が好きなことにあると思います。野球が好きというのは単に練習をたくさんするということだけではなく、体の使い方などをしっかり勉強して、どうやったら良いボールを投げられるかを熱心に探求する、そういう意味での練習が好きだということですね。

 話をしたら「将来はトレーナーになりたい」と言っていて、そのために「プロでやってみたい」という選手でした。それくらい体のメカニズムやトレーニング方法など、日頃からよく勉強していました。

 技術的には投げ方、肘の柔らかさですね。ドラフトの年の1月に見たときは、140キロは投げられていましたが、腕がアーム式で肘が全然使えなくなっていました。その後もちょこちょこ見てはいましたけどそれが直っていなくて、もう候補リストから消そうかなと思っていたくらいでした。それが6月に見た試合では肘から先がビュンと伸びた投げ方になっていて、見違えるような投げ方になっていたのです。

 それでちょっと遅いくらいなのですが、6月後半に部長にも見てもらいましたし、147キロを出した最後の夏の報徳学園戦は球団本部長にも見てもらいました。地方大会二回戦で負けてしまいましたが、もしも甲子園に出ていたら外れ1位くらいの評価になってもおかしくなかった、それくらいのピッチャーでした。

 5位ではJX-ENEOSの糸原健斗を獲っています。鳥谷も含めた二遊間の選手の年齢が上がってきていましたので、二遊間が守れるユーティリティーな選手が欲しかったというのがありました。上位で吉川が獲れなかったこともあって、一人は抑えておきたいというのもあったと思います。糸原も1年目から戦力になってその後はレギュラーとして活躍もしてくれるほどになりました。

 他球団の下位指名ではオリックスが4位で都城の山本由伸(現・ドジャース)を指名していますが、阪神の中ではそんなに名前は出ていなかったと思います。肘の使い方がアーム式で、上背もなかったですから、見るスカウトによって評価は大きく変わったと思います。阪神では才木と浜地の方が評価は断然上でした。

 オリックスは6位でも敦賀気比の山﨑颯一郎を指名していますが、私の担当でしたので何度も見に行きました。ただ夏の大会でのここ一番での気の弱さ、ボールの弱さがちょっと気になりました。体もまだまだできていない。そのためリストからは最後に消しました。それがドラフト前にブルペンで見た際には、ものすごいボールを投げていたのです。「試合のときにこのボールを投げんかい!」と思いましたね(笑)。

 そのときに思ったのは、山﨑はプレッシャーがないときは凄いボールを投げられるタイプなのかもしれないということ。でも阪神でやっていくためには、特にその辺のメンタルがとても大事になりますから、山﨑はうちではちょっと難しいのではないかと思いましたね。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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