スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「あのとき、獲っておけば…」元阪神スカウトが明かす"後悔" ドラ1左腕の先発起用は藤川監督の英断

永松欣也

日本ハムのドラフト8位で指名された北山亘基(写真後列の左から二番目) 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 昨年まで阪神のスカウトを務めていた熊野輝光氏に、選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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超高校級のスイングの前川、獲らずに後悔した北山

元阪神スカウト・熊野輝光氏「日本ハムが8位で獲った京産大の北山亘基も私の担当でした。ボールは確かに速かったですが...」 【写真は共同】

 2021年の一番人気は西日本工大の左腕・隅田知一郎(西武1位)でしたが、市立和歌山の小園健太(DeNA1位)、高知の森木大智(阪神1位)、天理の達孝太(日本ハム1位)、ノースアジア大学明桜の風間球打(ソフトバンク1位)など、高校生に良いピッチャーが揃っていました。

 阪神は1位で小園を選びましたがDeNAと競合して外し、外れ1位で森木を指名しました。私は外したことはむしろ御の字だと思いました。森木はフォームが良くてストレートも良い。絶対に将来先発の柱になる、高校生ナンバー1のピッチャーだと評価していましたから。今はちょっとフォームを崩しているのか、下でも結果が出せなくて育成になってしまっていますが、当時からするとちょっと信じられない思いです。

 関西では関西国際大に翁田大勢(登録名:大勢)がいました。担当は山本宣史でしたが私もよく見ていたピッチャーです。ボールは速かったですが、肘の使い方に柔らかさがなかったですし、最終学年はどこか痛めていてほとんど投げていませんでした。ウチは外れの候補にもなっていませんでしたから、「試合で投げられないんじゃボールが速くてもしょうがないよね」という評価だったと思います。巨人が隅田を外して外れで行ったときは「ずいぶん評価が高いんだなぁ」と思いましたね。

 プロ入り後は段々ヒジが柔らかく使えるようになって、1年目に37セーブを挙げて新人王を獲る活躍を見せました。巨人は2018年にも高校時代はアームだった戸郷翔征を6位で獲って上手く育てていましたから、ああいう肘の使い方を直せる自信があったから外れで行ったのかもしれませんね。

 広島が外れの外れで指名した関西学院大の黒原拓未も、私の担当でしたので何度も見ていました。良いピッチャーではありましたけど、身長も大きくなくて(173センチ)体つきもまだまだ。プロで体から作らないといけないタイプでしたから、私も1位では推せませんでしたし、3位くらいで獲れたらと考えていました。

 阪神は2位、3位で創価大の鈴木勇斗、新潟医療福祉大学の桐敷拓馬と2人の大学生左腕を獲っていますが、2人ともタイプ的には黒原に似ていて、リリーフで上手くはまってくれたらという感じのピッチャーでした。桐敷はその通りの活躍を見せてくれていますね。

 下位指名では4位で智辯学園の前川右京を獲っています。4位では先に広島が同じ左打ちの田村俊介(愛工大名電)を指名してますが、うちは前川の方を評価していました。スイングが超高校級でしたし、入ってきたときもスイング自体は二軍の選手達よりも上でした。それだけのバットを持っていながらこの順位で獲れたというのは、守備と足がなくて「打つだけ」だったというのがあると思います。森友哉や吉田正尚のときと同じで、セ・リーグの球団が手を出しづらい選手ではありました。

 日本ハムが8位で獲った京産大の北山亘基も私の担当でした。ボールは確かに速かったですが、ボールが全部高かったのが気になりました。頭が良くて性格も良い選手でしたので欲しいとは思いましたが「うちの投手陣に入ってどうかな?」という不安がちょっとありました。元々獲るなら下位という評価でしたが、5位の岡留英貴(亜細亜大)も含めて大学生ピッチャーはもう3人獲っていましたから、指名はちょっと難しかったですね。

 北山は日本ハムで1年目から開幕戦で先発したり、8位指名とは思えない活躍をここまで見せています。要因を挙げるとすれば、低めにしっかり投げられるようになったことでしょうか。あれだけのボールを持っていますから、それが低めに集まりだしたら、ある意味で当然の結果と言えるかもしれません。今年の交流戦でもあと少しでノーヒットノーランというピッチングもしていましたし、良いピッチャーに成長しました。

 スカウト人生の中で「あのとき、獲っておけば——」と思う選手を一人挙げるとするならば、このときの北山かもしれません。

高松商・浅野の外れ1位だった森下

浅野(現巨人)をくじで外した阪神だったが、外れ1位で獲得した森下はスカウトも驚きの活躍でチームの中心に 【写真は共同】

 2022年限りで矢野監督が退任になり、翌シーズンから監督には岡田彰布が就任することになりました。岡田監督とはオリックス時代に監督とスカウト部長という関係でしたが、苦い思い出がありました。

 2010年のドラフト会議で一緒に円卓を囲んでいましたが、1位で早稲田大の大石達也(西武1位)を外し、外れ1位では東海大の伊志嶺翔大(ロッテ1位)を外し、さらに外れの外れで履正社の山田哲人(ヤクルト1位)も外しという結果になり、これに岡田監督が「(スカウトの)調査不足や」と激怒。その年の12月、私は球団上層部から「来季の契約をしない」と告げられ、責任を取る形でオリックスを辞める事になったのです。

 ですが、元々私と岡田は大学時代から知っている同級生。私が阪神のスカウトになったときには「良かったね」と岡田の方から声を掛けてくれましたし、私達の間にわだかまりはありませんでした。逆に岡田が阪神の監督になったときには、私のことを色々気遣ってくれました。

 この年のドラフトに関しては、岡田も監督になったばかりでしたから、具体的にこの選手で行ってくれとか、そういうことはありませんでした。1位、2位グループの選手を見て「これはどういう選手や?」と聞くぐらいのものでしたね。

 このときは将来主軸を打てる右の野手が欲しいというのがありましたから、1位は甲子園を沸かせた高松商の浅野翔吾を1位で行きました。それが巨人と競合して外して、外れは同じ外野手、中央大の森下翔太で行きました。

 浅野はスカウトみんなで何回か見に行っていましたし、高校生でしたが「これだったら早くに出てくるんじゃないか」と思いましたし、森下よりも評価が高かったですね。

 森下は、今はもう大活躍ですけど当時はここまでの選手になってくれるとは思っていませんでした。彼の良いところはどんなボールでもフルスイングができるところ。ですがプロであそこまでスイングできるとは、正直思っていませんでした。

 2位から5位までは高校生になりましたが、この年は野手もピッチャーもメンバーが揃いつつあった時期でしたので、その次の世代のことを考えて高校生中心の指名になったと思います。5位で獲った天理の戸井零士もそろそろ出てきて欲しいところですね。

 他球団の下位指名選手では、甲子園を沸かせた近江の山田陽翔を西武が5位で獲りました。投打に非凡なものがありましたが、体のサイズや伸び代を考えるとプロでやるには厳しいだろうと思っていましたので、阪神では候補には挙がっていませんでした。西武もよく獲ったなと思っていましたが、それが3年目の今年、中継ぎとして頭角を現しています。早く出てきたことにも驚いています。

 山田と同じ5位では巨人が西濃運輸のサイドスロー、後に新人王に輝く船迫大雅を獲っています。私も見ていましたし、会議でも名前は出ていました。実際良いボールも投げていましたが、いかんせん年齢が26歳。若い湯浅や浜地が出てきているときでもありましたから、彼らより年上のピッチャーをわざわざ下位で獲らんでも良いだろうという事になりました。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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