スカウトが振り返る、あの年のドラフト指名

「肩が万全ならおそらく…」今永昇太の“一本釣り”が成功した理由 元DeNAスカウトが明かすドラフト秘話

永松欣也

大学4年時に肩が万全でなかった今永だったが、DeNA入団後の活躍は多くの方が知る通り 【写真は共同】

 毎年多くのドラマを生むプロ野球ドラフト会議。あの年の1位はどのようにして決まったのか? あの選手をどのように評価していたのか? あの選手はなぜ指名しなかったのか? 2020年までDeNAのスカウトを務めていた吉田孝司氏に選手指名秘話やドラフト舞台裏などを振り返ってもらった。

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有原で行くか、山﨑でいくか

山﨑は先発要員として入団したが、中畑監督による抑え抜擢によって新人王まで獲った 【写真は共同】

 中畑監督の3年目のシーズン。結果は2年連続の5位に終わりましたが、筒香がクリーンナップを打つようになって打率3割でホームラン22本、梶谷が外野にコンバートされてホームラン16本で39盗塁。ピッチャーもFAで阪神から獲った久保康友と2年目の井納が二桁勝ってくれて、抑えは新人の三上が21セーブ。投打ともに若手も育って、少しずつ戦力が揃ってきていました。

 それでもやっぱりピッチャーがまだまだ足らず、即戦力のピッチャーが欲しい。1位で考えていたのは早稲田大の有原航平(日本ハム1位/現ソフトバンク)と亜細亜大の山﨑康晃でした。実力はどちらも同じくらい。「有原は競合するだろうから、山﨑を一本釣りで行こう」と高田さんとも話していましたが、池田社長は「いや、吉田さん。一番良いピッチャーで行きましょうよ」と、東浜を指名したときと同じことを言われました。池田社長はその年のナンバーワンに行きたい人だから(笑)。それで有原1位が決まりました。

 結果的には有原を外してしまいましたけど、外れ1位で抽選になった山﨑を中畑監督が引き当ててくれました。もしも山﨑も外していたら2位で指名した法政大の石田を1位に繰り上げていたかもしれないですね。

 山﨑はもちろん先発で使う想定。でも前年に抑えで活躍した三上が右肘の故障でスタートが遅れてしまって、それで中畑監督が山﨑を抑えに抜擢。そうしたら37セーブの大活躍で新人王まで獲った。中畑監督には抑え投手を見いだす才能があるのかもしれませんね(笑)。それにしても山﨑の活躍にはビックリしましたね。

 石田も初めから2位で狙っていたピッチャーでしたけど、体もあるしプロでまだまだ伸びる可能性があると思っていましたし、同じ左腕ではオリックスが1位指名した明治大の山﨑福也(現日本ハム)よりも私は石田の方を買っていました。

 前橋育英の髙橋光成(西武1位)も良かったですけど、やっぱりまだ上位で高校生を獲れるチーム状態ではなかったですから、初めから考えていませんでした。

 3位で獲った日本新薬のショート・倉本寿彦。これは2年前に1位で獲った白崎が「ちょっとショートは厳しいぞ」となっていましたから、それで「この年のショートで即戦力ナンバーワンは誰か?」となって倉本を指名しました。倉本も1年目から100試合以上出て、2年目からレギュラーも獲って頑張ってくれました。でもちょっと守備範囲が狭い。高田さんとしてはまずピッチャーを中心とした守り、センターラインから立て直そうという考えがあったから、そう考えるとやっぱりショートの守備はちょっともの足らなく映ります。翌年にも國學院大のショート柴田竜拓をまた3位で獲ったり、その次の年も秀岳館の松尾大河を獲ったりもしましたけど、なかなか安心してショートを任せられる選手が出てこないというか、それが今のベイスターズでも続いていますね。去年、終盤にようやく森敬斗が期待に応えてくれて、これでショートは当分大丈夫かなと思いましたけど、今年はちょっとね。森の話はまた改めてしましょうか(笑)。

 地元の選手では横浜隼人には宗佑磨(オリックス2位)がいて、これも良い選手でした。もちろん欲しかったですけどね、やっぱりまだ高校生を上位で獲っている余裕はない。ベイスターズに来てからの3年間は、良い高校生を見て「欲しいな」と思っても上位では指名できない、指名を見送るしかない。そりゃあやっぱりもどかしかったですよ。

ドラフト後に安心した、今永の快投

ドラフト1位で指名された今永昇太(写真前列の左から3番目) 【写真は共同】

 中畑監督の最後の年となる2015年は、一時は首位に浮上したりもしつつ前半は勝率5割、首位と0.5ゲーム差につける戦いぶりを見せてくれていました。打線は筒香がどっしり四番に座り、その前後を梶谷と巨人から移籍のロペスが座って、3年目の宮﨑が出てきたりしていましたが、課題はやっぱり投手陣でしたね。抑えに抜擢されたルーキーの山崎が37セーブで新人王は獲りましたけど、先発陣がコマ不足で、最終的には10年連続のBクラスとなる最下位に終わってしまいました。

 そうなると欲しいのはこの年も即戦力の先発ピッチャーです。山崎も抑えがハマって大活躍してくれましたけど元々先発のつもりで獲っていましたしね。

 ドラフト会議直前にはスポーツ新聞に『ベイスターズは東海大相模の小笠原慎之介!』みたいに報道されていたように記憶していますけど、高校生ピッチャーを1位指名なんて全く考えていなくて、私の中では最初から駒澤大の左腕・今永昇太(現カブス)1本でした。但し、肩の状態さえ良ければでしたけど。肩が万全ならおそらく指名が重複する、それくらいのピッチャーでした。4年春のリーグ戦は投げられなくて、その後肩の状態をずっと気にしていました。それが秋のリーグ戦で復活して、対戦相手は忘れましたけど第1戦で投げて、その後の第3戦でも投げたんです。それを見てもう肩は大丈夫なんだなと判断しました。それで1位は今永で行こうと決めました。

 肘、肩の状態は担当スカウトにいくら「徹底的に調べてくれ」と言ったところで、そんなに正確に分かるものじゃない。私の経験上、最終的には投げられているのかどうか? そこがやっぱり一番の判断材料ですよね。

 今永の良さは腕の振り。真っ直ぐとカーブだけだったけどスプリット系のボールとシュートをプロで覚えればいい。フォームも悪くないし、シャープさがありましたね。あとは最初に見た時の第一印象が良かったこと。これも大事なことです。

 ドラフトではやっぱり肩の状態が気になったのか、他球団は手を引いてベイスターズが単独で指名することが出来ました。ドラフト後には入れ替え戦があって、第1戦に今永が先発して3安打12奪三振で完封勝利。それを見て安心しました。いざ指名して獲ったは良いけど「本当に大丈夫かな? 開幕から投げられるかな?」というのは心のどこかにやっぱりありましたから。

 今永は1年目からローテに入って8勝、130イニングくらい投げた。活躍はイメージ通りでしたけど、その後の成長、活躍はイメージ以上のものを見せてくれました。

 2位指名は残っている中で、一番良い即戦力ピッチャーで行こうとなって仙台大の熊原健人を指名しました。ちょっと投げ方が独特だったですけどボールが速くて投げっぷりが良かったですね。こちらも先発として考えていました。プロで結果を残せなかったのは投げ方も含めた器用さが足らないというか、ピッチングが硬かったのが理由かもしれません。融通が利かないというか、ちょっと一本調子になってしまうところがありました。調子に乗っているときは良いボールを投げるんだけど、そうじゃないときにガタッときて、それを試合の中で修正できる柔軟性が欲しかったですね。

 3位では守備の良い國學院大ショート・柴田竜拓。前回お話したように、倉本が打つ方はいいんだけど守備範囲がちょっと狭くて。柴田は倉本とは逆で守備が良いけど打つ方がちょっと足らない。柴田は今も頑張っていますけど、打てて守れるショートというのはなかなかいるものではないですね。

 4位はNTT西日本のキャッチャー戸柱恭孝。2年前にも嶺井を獲っていましたが、キャッチャーは何人いても良いですから、獲れる順位で良い選手がいたら獲っておこうという考えがありました。戸柱は駒澤大時代にも指名を検討していたのですが、NTT西日本にもう決まっているということで手を引いていたのです。

 この年は阪神が2位で明治大の坂本誠志郎、中日が3位でトヨタの木下拓哉を獲っていましたけど、こっちは上位はやっぱり即戦力のピッチャーと考えていましたから、キャッチャーを獲るなら下位。下位で獲れそうなキャッチャーで一番良いのは誰だと考えたら戸柱でしたね。坂本は2位で獲るような選手なのかなと、当時は阪神の指名にちょっと疑問も感じましたけど、プロに入って頑張って高い評価に見合う選手になりましたね。

 広島5位、王子のショートを守っていた西川龍馬(現オリックス)もバッティングは良かったです。でもショートとして考えたらちょっと守備がもの足らなかった。タイプ的にも倉本と被りますから、それよりも守備力のある柴田を私は評価しました。プロでは外野になりましたけど、広島でよく練習をして鍛えられて、良い選手になりましたね。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』『回想 ドラゴンズでの14年間のすべてを知る男』など。

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