3.左翼政党の多数派戦略は可能か(1)社会階層間のトレードオフと政策による選好構築 左翼政党、とりわけ社会民主主義政党の戦略決定は、政党研究の中でも以前から注目されてきたトピックである。 古典的地位を占めるのは、ポーランド出身の政治学者アダム・プシェヴォスキーらの研究である。この研究は、労働者にターゲットを絞った政策と、普遍的な政策とを区別し、労働者のみでは政権獲得に必要な過半数を得ることはできないが、支持基盤を拡大しようと普遍主義的な政策を採用することで、労働者以外の票は得られるものの労働者からの支持が低下するトレードオフがあることをモデル化し、一定の経験的な例示を与えたものである。 ここに生じる困難を、彼らは「選挙社会主義のジレンマ」と名付けた。そのトレードオフが厳しいものとなるか、緩やかなものとなるかが、労働組合による組織化など文脈的要因によることを示唆したことも、後の研究にうけ継が