EYストラテジー・アンド・コンサルティング
リスク・コンサルティング 共同統括パートナー
小山裕介
サマリー:我々の生活を取り巻くリスク環境が日進月歩で変化している昨今、未来志向でリスクドライバーをどう捉えていくべきか。また、経営者はリスクマネジメント機能をどう進化させていけばよいのか。

企業に求められるリスクマネジメントとは、戦略の観点では、リスクを不確実性として捉えて、企業価値向上の源泉を活かす力量を上げることであり、ガバナンスの観点では、株主や顧客をはじめとするステークホルダーに対して、堅牢な経営基盤の姿を示すことである。

リスクドライバーの動向を捉える

 世界を俯瞰した時、多くのリスク事象が顕在化している。価値観や信条の違いからくる国家間の摩擦、日本を含む各国の社会インフラや各種規制にかかる政策の実効性、デジタル技術の発展による生活環境や企業活動のバリューチェーンの変容など、あらゆる組織体を取り巻く環境はさまざまなリスクイベントにより断続的に変化し続けている。EYのリスク・コンサルティングを率いる小山裕介氏は、複雑化するリスクドライバーのうち、地政学リスク、ESG、デジタル技術の3つについて、以下のように捉えている。

 1つ目の地政学リスクについては、「ポピュリズム、ナショナリズムの文脈で振り子のように揺れ動いています。2025年は米国で新たな政権が発足したこともあり、毎日のように同政権の動きが報道されていますが、一喜一憂に反応して、近視眼的に組織戦略を変える話ではないと思われます。むしろ、各業界のリーディングカンパニーは、すでに数年後の国家間の関係性に伴う市場動向や自社事業への示唆を考察した投資戦略を検討、もしくは適応するための事業再編や構造改革のアイデアを練っているのではないでしょうか」と話す。

 ESGの文脈においては、「グローバルで環境や資源保護の潮流が止まるわけではなく、一時的、または局地的にスローダウンしているということでしょう。逆に、いままでの進め方がやや拙速に見受けられる局面もありました。社会環境の保護に賛同しつつも顧客に選択肢を極端に狭めなかった企業は、むしろESGテーマを成長ドライバーや競争優位の源泉としてうまく活用していることは明らかです」と小山氏は語る。

 3つ目のデジタル技術の発展という観点では、「生成AI技術はあっという間に黎明期を終えて、向こう3~5年でまったく違う景色になると推察されます。わが国においては地殻変動的に少子高齢化傾向が起きている中、個々の生活環境、時間の使い方、仕事の仕方が変化し、もっと言うと世代間で物事に対する価値観や行動のギャップがいやが応でも著しく広がるのではないでしょうか。それらを背景とした新たな社会課題が副次作用で生まれ、解決するためのソリューションが創出されていくとともに、人的資本に対する戦略アプローチを起因とする企業間の競争環境も変化していくでしょう」と考察している。