コラム:中銀の政治化は危険、トルコから日本まで5つの事例

コラム:株式市場には有効も長期金利高騰には無力な「FRBプット」
 9月4日、現在の金融市場に漂う不安感の根源にあるのは長期国債利回り(長期金利)の高騰で、株式市場に比べて長期国債市場を落ち着かせるのはずっと難しいだろう。写真は改修中の米FRB本部。8月撮影(2025年 ロイター/Brian Snyder)
[オーランド(米フロリダ州) 27日 ロイター] - 現代の中央銀行が実際に独立性を有しているか否かについては正当な議論が存在するが、金融政策の露骨な政治化――米国で現在起きているようだ――が危険だという点では、ほぼ全員の意見が一致している。なぜだろうか。
中銀は本質的には政府の機関であり、世界金融危機やコロナ禍に際し、多くの中銀はその国の財務省と緊密に協力した。従って、絶対的な独立性というのは、やや神話に近い。
しかしトランプ米大統領が現在行っていることは、その範囲を大きく超える。パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の更迭をちらつかせ、クック理事の解任をせっせと試み、自らの利下げ要請に共感する人物で理事ポストを埋めようとすることで、FRBが表面上保ってきた運営上の独立性まで粉砕している。
金融政策の露骨な政治化の歴史をひもとくと、それが控えめに言っても最適ではない結果を招き得ることが分かる。信認の失墜、為替レートの下落、インフレ高騰、債務増大、リスクプレミアムの上昇、そして借り入れコストが大幅に上昇する可能性がある。
これらの事が米国で必ず起こるとは言い切れない。しかし金融政策の過度な政治化が何を引き起こす可能性があるのかは、以下のような過去の事例から分かる。
<トルコ>
2014年から大統領の座にあるエルドアン氏の非正統的な経済理論・政策、「エルドアノミクス」は、金融政策の政治化の好例だ。金利の「敵」を自認するエルドアン氏は、高金利はインフレを招く、従って金利を下げればインフレは下げると発言したことが記録されている。
同氏は2019年から24年にかけて5人の中銀総裁を交代させた。その理由は利上げをしたから、もしくは利下げを拒んだからだ。
インフレ率が20%前後で推移していた21年末、中銀はエルドアン氏の圧力に屈して利下げを行った。その結果、通貨リラは暴落し、インフレ率は85%超に跳ね上がった。
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<アルゼンチン>
現代において、アルゼンチン中銀(BCRA)ほど明確に事実上の政府機関として機能してきた中銀はまれだ。歴代政権は「お金を刷る」ことによる財政ファイナンスをBCRAに大きく依存し、その結果は予想通りだった。アルゼンチンは幾度も経済危機を繰り返し、数十年にわたりハイパーインフレと格闘している。
BCRA総裁の任期は短命に終わることが多い。21世紀に入って13人の総裁が誕生した。また、メネム大統領の政権の最初の7年間である1989年から96年には7人も入れ替わった。2000年代初頭のキルチネル大統領も、債務返済に外貨準備を使う計画に反対したとの理由でBCRA総裁を更迭したことで悪名高い。
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<インド>
モディ首相の政権下、インド準備銀行(RBI、中銀)に対する圧力は強まった。2018年12月、パテルRBI総裁は就任からわずか2年余りで突然辞任した。これに先立ち、政府は数カ月間にわたってRBIに金融緩和を迫るとともに、総選挙を控えて政府が支出強化のために外貨準備に手を付けやすくするよう圧力をかけていた。
パテル氏が辞任する前の数カ月間に、モディ氏は複数のRBI理事を解任して自らの支持者を後任につけ、投資家を動揺させた。この結果、通貨ルピーはドルに対して当時の最安値を更新し、翌年のインフレ率は前年を3倍強上回る8%近くになった。
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<日本>
日本の状況は少し異なる。日本の政治指導者はしばしば、円安と物価上昇を積極的に追求してきたからだ。それでも政府と日銀の密接な関係は、日本の長期的な経済的健全性に悪影響を及ぼしてきたと言って差し支えない。
日本政府と日銀はほぼ一体となって働き、長年の間に複数回の為替介入を実行してきた。2012年に安倍晋三首相(当時)の「アベノミクス」が始まると両者の関係は深まった。
アベノミクスの核心は、日銀基準に照らしても前代未聞だった金融緩和政策だ。日銀はバランスシートを大規模に拡大し――未だに対国内総生産(GDP)比率はFRBの6倍近い――何年間もマイナス金利政策を実施した。
効果はあったのか。「無かった」と言う批判が多い。なぜなら成長は停滞を続け、格差は拡大し、日本は今や世界最大の債務に足かせをはめられているからだ。
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<米国>
最後に登場するのは意外なことに米国自体だ。1970年代初頭、インフレ圧力が高まっていたにもかかわらず、ニクソン大統領はバーンズFRB議長に対し、72年の大統領選を控えて緩和的な金融政策を維持するよう圧力をかけた。
ニクソン氏はまた、1969年に、任命したばかりのバーンズ議長に、前任のマーティン議長は政策決定が常に6カ月遅かったと告げたと伝えられている。「君なら景気後退を防いでくれると頼りにしているよ、アーサー(バーンズ)」と言った後、「独立したFRBなどという神話があるのは承知しているがね」と付け加えたという。
バーンズ氏は1978年まで8年間議長を務め、その間にインフレ率は爆発的に上昇して80年代初めまで完全に沈静化しなかった。多くの専門家はバーンズ氏を、FRBの歴史上最も成功しなかった議長だと見なしている。
言うまでもなく、米国はその他の国々とは異なる。米国の経済と資本市場は諸外国を圧倒する規模で、ドルは世界の準備通貨であり、米国の金利と債券市場は世界の借り入れコストの指標だ。
つまり、トランプ氏の政治干渉による市場や経済への影響度合いが、過去の混乱に比べて小さくなる可能性は十分ある。しかし米国の世界的影響力の大きさを考えれば、こうした動きによる世界への影響が当時よりずっと大きくなる可能性もある。
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(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

トムソン・ロイター

Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the US again. His experience and expertise are in global markets, economics, policy, and investment. Jamie's roles across text and TV have included reporter, editor, and columnist, and he has covered key events and policymakers in several cities around the world.