Deprecated: The each() function is deprecated. This message will be suppressed on further calls in /home/zhenxiangba/zhenxiangba.com/public_html/phproxy-improved-master/index.php on line 456
★1/16 陰キャンプスピンオフNO3 『木村 樹ルート』/シトラス=ライスの近況ノート - カクヨム
[go: Go Back, main page]

  • に登録
  • 異世界ファンタジー
  • ラブコメ

★1/16 陰キャンプスピンオフNO3 『木村 樹ルート』

~時系列は第88話『マヴダチ』の終了直後となります~


――彼女持ちが他の女と一緒にいちゃダメ! 

そう樹に注意されキャンプ場を追い出された俺は、バスの中で1人その言葉を反芻し続けていた。

きっと樹は、俺と花音のこれからのことを考えて、そう言ってくれたのだ。

自分の本当の気持ちを堪えつつ……。

 樹の本当の気持ちーーそれは俺のことを、友達としてではなく、異性として好きという気持ち。
その気持ちを押し殺してまでも、樹は俺のことを送り出してくれた。

 花音の元へ戻れと強く促してくれた。

「あいつ……昔から、自分のことよりも他の人のことばっかりだよな……」

 中2頃だって、あいつはバカだった俺のことばかりを気遣って……逆に傷つけられて……

 いつもそうだ。俺は樹から笑顔を奪ってばかりだ。あいつを1番の友達と言っているくせに、いつも、いつも、いつも……樹へ深い傷ばかりを負わせてしまっている。

 それでもあいつは、こんな俺をいつも慕って、いつも味方になってくれ、いつも励ましてくれて。

 そんな風にずっと接してきてくれた樹へ、俺はこれまでなにか良いことの一つでもしてこられたのだろうか……。

「樹っ……」

 不意な胸の苦しさに苛まれた俺は、思わずあいつの名前を口にする。

 とたん、自分の中にある大きな扉が開き出したような感覚に陥った。

 まさか、俺は……俺の本当の気持ちのありかはひょっとして……?

「っ……」

 今、俺の握るスマホには、花音へ向けてのメッセージが入力途中だった。

 俺はバスに揺られつつ、しばし逡巡をし、内容を全て消す。

 今夜は1人でじっくり自分の気持ちと向き合った方が良さそうだ。

 とはいえ、残された時間は少ない……だから……


●●●

「おはよ!」

「ああ、おはようございます種田さん」

 樹とのキャンプから3日が過ぎた朝、昇降口で種田さんに挨拶を投げかけられた。

「元気ないわね。もしかして、かのと喧嘩でもした?」

 種田さんの口から、花音の名前が出た途端、胸に嫌な動悸が湧き起こる。

 ようやくインフルエンザの出席停止が終わり、今日から花音は学校へ来ている。
そして今日は水曜日なので、花音は定例の女子バドミントン部の朝練に参加している。

 正直、今日ほど花音が朝練で、朝から一緒ではなくて良かったと思った日はない。

「別に喧嘩なんてしてませんよ」

 俺は種田さんへ端的にそう告げて、彼女を横切った。

 そして昔のように、すぐさま席に着くと、眠そうなふりをして机へ突っ伏す。

 今日は放課後まで誰とも話したくなかった。というよりも、ずっと俺には緊張感がまとわりついているので、みんなとまともに会話をする自信が無かったからだ。

 それは彼女の花音も一緒。臆病な俺は、この日1日をなるべく花音と接触しなよう、心掛け行動をし続けた。

 そうして時は瞬く間に過ぎてゆき、放課後を迎えた。

 俺は意を決して席を立ち、花音のところへ向かってゆく。

「花音」

「っ!?」

 花音は驚いた様子でこちらを振り返ってきた。
しかしすぐさま、いつもの柔らかい表情となり……

「もう、ようやく話しかけてくれたぁ……しかもインフル中、全然RINEくれなかったし……寂しかったんだぞ?」

 もはやどう答えて良いやらわからない俺は、ただ口をつぐむだけしかできない。

「あ、あ! ご、ごめんね! 葵くん、優しいから気を遣ってくれてたんだよね? 私がインフルで辛いだろうって! 今日も一週間ぶりの学校だったし、みんなに挨拶があるだろうからって、遠慮を……」

「……話したいことがあるんだ」

 勇気を出してそう告げた。すると花音の作り笑顔にわずかながら亀裂が走ったように感じた。

「な、なにかな、そんな改まって……」

「行こう」

「ま、待ってよ、葵くんっ……!」

 俺が1人で歩き出すと、花音はカバンも取らずに俺の後ろをよろよろとついてくる。

 そうして、これまで2人で思い出を育んだ、元職員用喫煙所跡地にやってくる。

「なにかな、話って……」

 花音の弱々しい声が背中に響き、胸が痛む。

 その痛みは俺に躊躇いを生じさせる。

 だけどすぐさま、そうした弱音を本心という強い意志で塗りつぶす。

 そして花音へ振り返りーー

「……別れよう、俺たち……」

「え…………?」

 今日もまた、先日の冬キャンプの日と同じく、冬にしては異例の暖かさだった。
だけど、今俺と花音の間に吹き込んできた風は、真冬のそれよりも遥に冷たさを帯びている。

「え……? え? ど、どうしたのかな、急に……? じょ、冗談だよね……?」

「冗談でこんな失礼なこというもんか」

「なんで急に……?」

 濁った青い瞳がこちらへ向けられる。

 当然、そう質問をされることは想定済み。この話を持ちかけた時、どう答えれば良いかはこの三日間シミュレーションを重ねてきた。
でもいざこの場を迎えると、絶望に染まってゆく花音の姿を見ていると、二の句が繋げない。

 だけどこれ以上、このままでは先に進めないのは明らかだ。

 そして俺は決めたのだ。

 もう迷わない。自分に正直に生きる。そしてきちんと片付けをした上で、俺はあいつの元へーー

「ほ、他に……好きな人ができたんだ」

「ーーっ!?」

「ごめん、ほんと急に……だからもう、俺は花音のことを……女の子として好きじゃないから……もう君の好きって気持ちに応えることができないから……!」

 俺は自身への決意も込めて自ら一歩を踏み出した。
そして愕然としている花音の脇を過って行く。

「急にこんなことをいう、最低な俺のことなんて忘れてくれ……さようなら……」

 そう告げて、足早に2人の思い出の地から去ってゆく。

 可愛くて、性格が良くて、みんなの人気者な花音なら、俺のことなんてあっという間に忘れてくれるはず。
あっという間に新しい恋人を作って、幸せに過ごすはず。
だからなんの心配もない。なにも……。

 そしてこうして、花音との関係に終止符を打ったのだから、俺はこの先のことを考え始める。

 冬キャンの時に抱いた感触はあくまで俺の感覚でしかない。

 ひょっとすると勘違いなのかもしれない。

 玉砕してしまう可能性だってある。

 でも、それでも伝えると決めたのだ。俺の本当の想いをアイツに。

 だけど今、俺とアイツは物理的に距離が離れてしまっている。

 果たしてこの状況でどうしたら良いものか……そんなことを考えつつ、俺は1人家路に着く。

 丁度、今父さんと母さんは酒類メーカーさん主催の酒蔵見学で、関西の方へ出払っている。
だから補導のリスクと山道の運転さえ気をつければ、直接アイツのところへスーパーカブで向かうことは可能だ。

 方針は決まった。
なら少しでもリスクを減らすために、早く出た方が良さそうだと思い家路を急ぐ。

 すると、シャッターのしまった香月酒店の前にポツリと佇む人影が……。

「い、樹……?」

「お、おいくん!?」

 ダボダボのジャージを着た、いつもの樹が驚いた様子でこちらを振り返ってくる。

 まだ最後に話して数日しか経っていない。だけど、俺にとっては数年ぶりのような……再び、画面越しではない樹に会え、その声が聞けたことに強い喜びを感じている。

「何してたんだ? うち、今日は臨時休業日だぞ?」

「そ、そうなんだ……残念……。僕、もう色々忙しくてこっちに帰ってこられないから、おじさんとおばさんには、今までよくしてもらったご挨拶しようと思って……」

「悪いな、わざわざ」

「じゃあ、僕はこれで……」

「せ、せっかくだから上がってけよ」

 意を決してそう告げる。
一瞬、樹は驚いたような表情を浮かべた。しかしすぐさま、わざとらしく「はぁ〜……」といったため息を吐くのだった。

「あのさ、おいくん、冬キャンの時僕の伝えたこと覚えてる? そういうのは……」

「良いから来いよ!」

「ひゃっ!」

 俺は強く樹の手首を掴んで、家の中へ引きづり込んでゆく。

「ちょ、ちょっとおいくん!? 急にどうしたの!?」

「話したいことがあるんだ。だから頼む。大人しくついてきてくれ……!」

 抵抗する樹へそういった。すると樹はフッと力を抜いてくれる。

 俺は樹が躓いて転ばないよう、怪我をしないよう気をつけながら手を引いて、2階にある自分の部屋へ向かった。

 そしていよいよ、辛抱たまらなくなった俺はーー

「ひゃっ!? おおお、おいくん!? な、なんで!?」

 突然、俺に背中から抱きしめられた樹はひどく動揺していた。

 そんな樹を落ち着けるように、俺はさらに強く樹を抱きしめる。

「……好きだ……」

「えっ……?」

「俺は、樹が好きだ! 大好きなんだ! 女の子として、お前のことが!!!」

4件のコメント

  • ( ゚д゚)…
    花音タソと付き合う前から樹ちゃんルート入ると思ってたから驚いたわぁ…

    確かにシトラスしゃんが予防線はるワケだわぁ…
    (;´д`)
  • 花音と付き合う前でも彼女の気持ちは裏切るわけで、だからといって過去へ行ってやり直すのは唐突だと思いまして。

    葵が樹の気持ちを理解したのは88話〜なので、ここがスタートとなりました。

    書き手としても、こういうシチュエーションで展開をし、自らの幅を広げたいという意味もありまして。
  • そこからの分岐なのか!
    ヤッたあとに別れるルート、不謹慎だけど、お得?
  • ここからの分岐なのです。
    不謹慎ですが、仰る通りです。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する