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★16/16 陰キャンプスピンオフNO3 『木村 樹ルート』/シトラス=ライスの近況ノート - カクヨム
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★16/16 陰キャンプスピンオフNO3 『木村 樹ルート』

「本日よりこちらにお世話になります、香月 葵です! よろしくお願いしますっ!」

 念願の水泳トレーナーとなった俺へ、万来の拍手が送られた。

 その中でも、これから日々を共にする樹は一際、大きな拍手を送ってくれていた。

 この一年、俺は樹のオリンピック再出場を目指し、心身ともに支えてゆくこととなった。
ようやく夢が叶った瞬間だった。

……でも初日の夜は、俺と樹は、トレーナーと選手、いう立場を一旦脇へと、ホテルにて熱い夜を過ごすこととなった。

「葵、すごくいい体つきになったね……! 体力もものすごくなったし……」

 樹は俺の腕の中で満足そうな笑顔を浮かべ、そう言った。
この数年で樹もいい体に仕上がっていて、昔よりも遥に魅力的になったと感じている。

「そ、そりゃまぁ、人の体を扱う仕事だし、俺自身も鍛えなきゃいけないと思って……」

「嬉しかったけどさ……ぶっちゃけ今夜はすっごく大変だったよぉ……性欲モンスターの葵が、よりパワーアップしちゃったんだもん……僕、壊れそうだったんだよぉ?」

「わ、悪い。久々でその、嬉しくなってつい……」

「ってぇ、言ってる側からまたぁ?」

 樹はそう俺の体の一部を指摘し、おねだりを始める。

「お、おい、樹、お前……もうどうなっても知らないぞ!」

「きゃはっ♡」

 遠慮して欲しいのか、して欲しいのかよくわからない俺だったが……久々ということもあり、この後樹のことをまたしてもめちゃくちゃにしてしまう俺だった……。


ーーこうして俺と樹の過酷だけど、楽しい一年が始まった。

 時にトレーナーとして、恋人ととして、樹を心身ともに支えつつ、様々なところをわたり歩いた。

 樹は結果を出すために。

 俺は樹が良い結果を出せるように。 

 お互いを支え合いながら、ただひたすら、オリンピック再出場を目指して。

……だけど、残念なことに、この一年の樹と俺の頑張りは叶わなかった。
あと一歩のところで、樹はオリンピックの再出場を逃してしまったのだ。

 でも、俺、そして樹自身も、この一年で薄々ではあるが、そうなるような予感がしていた。

 だから、出た結果をすんなり受け入れることができていた。

 そして俺たちは新たな目標へ向けて、動き出すこととなる。


●●●


「ほれ、お肉焼けたぞ」

「ん。ありがと!」

 ダッチオーブンで焼いた鶏肉をお皿に盛って差し出すと、樹は満足そうに頬張る。

 俺も久々のキャンプの空気に懐かしさを覚えている。

 これまでお互いに忙しく、実に十年近くぶりのキャンプだったからだ。

「なぁ、樹、これで本当に良かったのか?」

 ふと、樹が決断をしてから、ずっと気にはしていたが、だけど聞けなかったことを口にする」

「ん、良いのもう。僕の夢は全部叶ったから」

 すると樹は間髪入れず、穏やかな表情でそう返してくる。

「オリンピックの出場に、金メダルの獲得、葵と一緒に駆け抜けること……全部できた。もう、水泳選手として思い残すことは何も無いよ」

 樹はオリンピック再出場が叶わなかったことを機に、競泳界からの引退を宣言していた。
これからは俺が専属トレーナーを務め、恵那子先輩が所属する実業団の水泳のコーチとして後輩の育成に携わって行く。

 実のところ、俺と樹は、お互いの時間が再び重なり合ったあの日に、これからのことを相談し決めていた。
もしも、オリンピックへの再出場が叶わなかった時は、新たな道を進もうと。

「なんかさ、よく考えてみると、僕と葵って、長い付き合いのはずなのに、そんなに一緒にいる時間が長く無いんだよね……」

 確かに樹の言う通りだった。
 俺たちは知り合ってもう十数年経過しているが、実際にこうして時を重ねているは、3年にも満たない。

 しかもいっときは、本当に心が離れてしまっていた時期もあるのだ。
こんなのでよくこれまで付き合い続けられていたな、と我ながら思ってしまう節もある。

「いままで寂しい思いをさせてごめんね」

 すっかり髪が長くなり大人っぽくなった樹は、俺の肩へもたれかかってくる。
そんな樹が愛おしくてたまらなくなり、俺自身も彼女のことを抱き寄せる。

「もう葵には寂しい思いはさせないから。ずっと、こうやって葵のそばにいるからね」

 先日送った、樹の左手の薬指にはまるシルバーリングは、目の前で燃える焚き火の炎を宿し、赤い輝きを放っている。

「葵……僕のことを選んでくれてありがとう……! 僕のことをお嫁さんにしてくれてありがとう……! ずっと、ずっと、君だけを愛し続けて行くって誓います……!」



★おわり★

4件のコメント

  • 樹ちゃん良かったわねぇ
    (´;Д;`)
  • 紆余曲折はありましたが、ようやく、といったところです。
    ちなみにこの展開・結末は企画当初よりあったものですよ。
  • ほろ苦さのある恋愛ルートって感じがしましたよ。
    花音ちゃんと別れたことで、葵君の学校生活には暗さがでてしまいましたし。
    留学をしたことで、二人が離れ離れになってしまいましたし。
    最後までどうなるのかな……と心配しながら読みました。

    う~ん、最後まで読むとおさまるところにスポッと入った感じですね。
    だけど、このルートを最後まで読む人はどれだけいるのかな、と心配になります。
    分岐点を花音ちゃんと付き合う前にしたほうがスッキリするだろうし、好まれると思いますけど、う~ん……

    最後まで読んで振り返れば、ああなるほどとか思ったりしますよ。
    本篇が甘々なので、このルートは苦みのあるのは、なかなかバランス良いと思うし。
    分岐を花音ちゃんと付き合う前にしたら、本篇と同じ感じになったと思うし。
    これだから近況ノートになのかな、と納得もしました。

    人気を求めるなら、分岐は花音ちゃんと付き合う前で、樹ちゃんと甘々な恋愛するのが良いのでしょうね。
    それか花音ちゃんと樹ちゃん、両方と付き合っちゃうハーレムルート。
    だけどな、ハーレム物って完結まで書くモチベーションを保てるのか、ちょっと疑問だったりします。
    多いのですよ、エタってしまうハーレム物って。

    人には樹ちゃんルートを読んだら、また本篇を読んでほしいと言いたいですね。
    たぶん、そうしたら樹ちゃんルートの価値というか、意味みたいなのわかると思うのですよね。

    書いてくださって、ありがとうございます。
    途中どうなるのかメチャ心配になりましたけど、最後まで読んだら面白かったですよ♬

  • ありがとうございます。
    気持ちを精巧に汲んでいただき本当に感謝です。
    まさに仰る通りのルートでした。

    正直、ムーミンさんとママさんさえ最後まで読んでくれりゃ良いかな、なんて思っておりました(笑) とはいえ、これで5万文字ですんで、かなりの労力で、もうちょっと興味持ってもらえたら嬉しかったな、とは思っておりますが、内容がこれなんでしかたないですよね。

    まぁ、付き合うまでに戻して甘い展開にしても、結局は恩人である花音ちゃんを、このルートよりもズルい形で裏切ることになるかなって。自分的にはそれってどうなの? と思いました。

    中学時代へ戻すにしても、そのころは気持ちがわからなかったらああなったわけで、いきなり「ああ、俺の本当の気持ちは!!!」なんて、覚醒するのは無理がありすぎるかなと。

    だったらいっそのこと、全部綺麗にして、ずっと我慢してて、ずっと想ってくれていた子に人生全部捧げろ、と思いこうなった訳です。

    たぶんこういうのって”チラシの裏にでも書いてろ”的な感じだろなと、思って、じゃあチラシっぽい近況ノートに載せた、というわけです(笑)

    ハーレム物は自分も手を出して、全然締まらないと思っちゃいました。まぁ、WEB掲載は締まること自体が人気低減のリスクで、延々と続けられるものが、良いんだな、というのが個人的な見解です。
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