本人はたんたんと出来事を書いているだけなのかもしれませんが、この手紙を読んでいる貴兄や読者は、非日常な第三者の体験にのめり込みます。おそらく貴兄は手紙だけを読んでいる時は「これ、本当に?夢を語っているのではないか」と疑っているのではないかと思います。はなから「はい、嘘」と判断しないのは、あまりにリアリティを感じるからです。異国の空気に触れて新鮮な気持ちになりました。
手紙形式で綴られる物語は、旅先の描写から一気に不穏な幻想へと移り変わり、私たちを奇妙な体験へ誘います。温泉や保養地のリアルな情景と、水族館での不可思議な一夜の対比が絶妙で、読後には現実か幻想かが曖昧になる、なんとも言えない余韻が残りました。ときどきユーモラスなやり取りもあり、古典的怪奇譚を思わせます。日常の隙間に潜む異界を覗き見たような、背筋の寒くなる読書体験でした。このレビューが、物語への第一歩となれたら幸いです。
落ち着いた、その場で語り掛けるかのような文体が、舞台風景や主人公が見ているものを想像させ、すぐさま世界観へ取り込まれる。その世界は、現実離れしつつも、一貫されたリアリティがある不思議な世界。突然の展開に本来であれば驚きそうなものだが、主人公の語りぶりに取り込まれた読者は、静かに続きを読みだしてしまうだろう。
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