それはまた別の副作用?
「……大人と子供の違い……だよなぁ」
ふとそう呟いたのは、リリスやセレンたちとのことを考えたからだ。
今の俺は子供なので何かしなければならないことはないため、優雅な自宅での生活を満喫している。
悪く言えば暇でもあるのだが、この暇が時にもどかしい。
「おいそれと会いに行けるもんでもないからなぁ」
リリスは学院の教員だし、セレンは研究所の副所長だ。
リリスはともかくセレンは普通に会えるだろうけど、流石に職場に顔を出すのはな……それに周りの勘繰りも凄まじいことになりそうだし、今のところは遠慮しておくか。
「……アリオスに会いに行くか?」
いやいや、それこそダメだろうと首を振った。
リリスとセレンがダメでなんでアリオスは良いと俺は思ったんだ? リリスたちも王国の重要人物だがアリオスは王様だぜ……もっと会いづらいっての。
「でも……いつでも来いって言われちまったしな」
アリオスたちからもらったパスもある。
これはまだ使ったことがないけど、本当にこれを見せるだけでスムーズに会えるのだろうか?
「体が子供だからか、或いは親友と再会したからか……遊びたくて仕方ないのかねぇ」
そんな日本に居た頃の小学生時代じゃあるまいし……でも、やはり同性だからこそってのはあるかもしれないな。
旅の途中で会った人たち……そして今の近所の人たち。
知り合いになった人はそれなりだし世間話もするが、アリオスのように話せる相手は今のところ存在しない……そうなると、暇潰しがてらアリオスに会いたいと思うのもおかしなことではない。
「……行ってみるか?」
……よしっ、行ってみよう。
そうと決まれば軽く支度を済ませ、リビングで編み物をしている母さんへと声をかけた。
「母さん、今から城に行こうと思うんだけど」
「アリオスとリリーナに会いに行くのか?」
「うん。母さんはどうする?」
「もちろん私も同行しよう」
手を止めた母さんはそう言って横に並んだ。
向かう先は王城だというのに母さんは緊張した様子もなく、むしろ新たな友人となったリリーナに会えるということで楽しみらしい。
それからすぐ俺たちは城へと向かった。
城に近付く者は誰でも警戒されるものだが、俺のような子供と母さんのような美女を前にした騎士は、少しばかり警戒心を下げてくれた。
「御用は何でしょうか?」
「これを」
懐からカードを取り出し、騎士の兄ちゃんに見せた。
すると分かりやすく顔色を変えた兄ちゃんは、隣の騎士に声をかけて頭を下げた。
「アリオス様よりお話は聞いております。すぐにお連れしましょう」
「う、うん……ありがとうございます」
「私が言うのも何だが、簡単に通して良いのか?」
通してくれるのはありがたいが、確かに俺もそれは思った。
そもそもどういう風にアリオスは門番の騎士に話を通したのか……そこはずっと気になっていたので母さんの質問は助かる。
「アリオス様が仰ったのです。そのカードを託した存在は、自分にとって大切な存在なのだと……あの方を慕う我らにとって、その言葉だけで十分なのです」
「……へ、へぇ」
「それに、そのカードは特別な物です。リリーナ様の魔力も込められているため、複製も不可能……正真正銘その一枚のみです。であるならば何故それをあなた方が、と言う話になりますが……それを深入りするのは野暮以外の何者でもないでしょう」
この兄ちゃん……良い人だな。
俺と母さんが何者なのか、きっと気になっているはず……それなのにアリオスの言葉だからとその一点だけで俺たちを信じてくれるのだから。
それからアリオスの元へと通され、今度はこちらから出向く形での再会となった。
「よく来たな、トワ」
「おう。暇だったから遊びに来た」
「ははっ、俺と同じかよ」
暇だから王様に会いに来る奴は俺くらいだろ。
気が合うなとケラケラ笑う俺たちを、母さんとリリーナが微笑ましそうに見つめていた。
「何とも微笑ましい光景だ」
「そうね……いつ見ても涙が込み上げてくるわ」
「王妃と言えど泣きたい時は泣けば良い。胸を貸してほしければ、落ち着くまで貸してやるが?」
「あら、私はもうそういう年頃ではないのだけど?」
「私からすれば人間など子供に等しいぞ」
「そう……じゃあ少しだけ」
「あぁ」
そして、今度は俺たちが彼女たちを微笑ましく見つめる番だった。
母さんとリリーナが温かい空気を醸し出す中、俺たちは俺たちで会話に花を咲かせた。
「子供が出来るってどんな感じだ?」
「そりゃもう幸せってもんじゃ言い表せねえよ。守るべき存在が増えたことで、俺はもっと頑張れるようになったからな」
「そうか」
「アーサーとカトレアは本当に良い子なのは確かなんだが……二人ともちょい癖があるというか、まあそこはどうにかしたいとは思ってる」
「……なるほどね」
俺は既にアーサーとカトレアを一度見ている。
確かにあの二人は一癖……いや、二癖はありそうな気がしたけど良い子なのは俺も感じたことだ。
かつての俺とは違い、アリオスとリリーナは子への愛を持っている。
ならばあの二人もこれからずっと幸せだろうし、何かあってもきっと大丈夫なはずだ。
「やっぱ家族ってのはそうじゃないとな……幸せなのが一番だ」
「……………」
「……なんだよ、その顔」
「いや、家族と言われたらな……」
「俺の元家族のことを考えたのか?」
アリオスは言葉を詰まらせた。
どうやら俺の考えたことは合っていたらしく、今彼の頭に浮かんでいるのは俺の大大大っ嫌いなヘイボン家のようだ。
「ヘイボン家……言った通りの連中だっただろ?」
「……まあな。一度だけ玉座で怒鳴り散らかしたことがある――俺の大切な友を馬鹿にするなと、薄ら寒ささえ感じさせるその口でトワの名を口にするなってな」
「……城にまで来て色々言いやがったのか」
「奴らはいまだにトワが受け取るはずだった褒賞に囚われてる。何とも情けねえというか、恥ずかしい連中だと思ってるよ。一応貴族でもあるし、犯罪をしたわけでもないから首も落とせないしな」
「あはは……」
一国の王が首を落とすとか物騒なことを口にするくらいに、俺の元家族の印象はアリオスにとって最悪なようだ。
というよりもそもそもヘイボン家そのものが嫌われているらしく、その点に関しては当然だと思うし俺としてはざまあみろって感じだな。
「……まあなんだ、苦労するだろうけど」
「分かってるよ。あれでも国の一員だからな……悪事を働かない限り、何かするようなことはない」
「ありがとう。ってそれに安心するのも変な話だが」
「お前のことだし、ヘイボン家より俺のことを考えてくれたんだろ? あんな連中のために手を汚すなとかさ」
「正解、よく分かってるじゃん」
「俺を誰と思ってやがる。お前の親友だぞ?」
やれやれ、頼りになる親友様だ。
「ねえトワ、ちょっとこっちに来てよ」
「え?」
なんだ?
リリーナに呼ばれたので近付くと、何を思ったのか彼女は俺のことを抱きしめてきた。
突然のことに理解が及ばなかったが、これは一体……?
「いやほんとに……トワって抱きしめると安心するのよね。フィアもそうだしリリスやセレンも言ってたけど、何か特別な力があるのかしら」
「ほう? まさかお前もブライトオブエンゲージか?」
「馬鹿言うんじゃないわよ。私は人間だから発動しないっての」
母さん……頼むからそんな冗談は止めてくれな?
「そ、そうだよな……リリーナは俺からトワに乗り換えたりしない……よなぁ!?」
ってなんでアリオスは不安になってんだよ!
案の定リリーナはそんなわけないでしょうと呆れた表情をしており、この状況を作り上げた母さんはケラケラ笑っている。
いやいや、絶対にないから安心してくれアリオス。
俺はあれだ……NTRとかそういうのマジで嫌だから! するのもされるのも嫌だからな!
「大丈夫だからアリオス! 何も心配すんな!」
「……そうだよな? いやだってよぉ……魔王を倒す旅の時、お前が話を聞かせてくれたじゃねえか。故郷に幼馴染を残して旅立った主人公だったけど、幼馴染が寝取られる話……お前笑いながら話してくれたけど、俺は結構心に来てたんだぜ?」
「……あ」
そういや、そんな話をしたこともあったな。
アリオスと仲良くなって嬉しかった俺は、かつて日本に居た頃に読んだことのある物語を読み聞かせたんだ。
よくある寝取られと復讐の物語……あれ、結構傷になってたんだ……ごめんアリオス。
「……っ!?」
その時、背中に寒気が走った。
何だ今のは……そう思った瞬間、俺は窓の向こうに浮かぶリリスを見た――サキュバスとしての角や翼を展開し、ユラユラと飛んでいる。
彼女は焦点を失った瞳で俺を見つめたかと思えば、舌なめずりをして笑うのだった。
「リリス?」
「何してるの?」
「……なんかヤバそうじゃね?」
ヤバそう……確かに何か様子が変だ。
まるでサキュバスとしての本能に突き動かされているような……いや分からないけど、性的に食われてしまいそうな若干の怖さがあるぞ……?
「あれはもしや……ブライトオブエンゲージの更なる副作用か?」
「え、何それ――」
「ト~ワさ~ん♡」
むにゅりと、頭の後ろから何かが俺を捕らえた。
同時に鼓膜を震わせたのはリリスの声……これはもしかしなくてもリリスの仕業だ。
でも君……さっきまで窓の向こうに居たよね……?
一体どうなってる……?
「あぁ……もう我慢出来ません♡」
その瞬間――リリスにズボンを脱がされた。
「……え?」
「あ、あらぁ……」
「な、何をしてるんだお前は!」
「……やっぱりか」
……あまりに唐突過ぎて逆に冷静だわ俺。
でもなんでアリオスが一番ピュアな反応してるんだろう……お前がマジで変わりすぎだろ。
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