ゆらゆらと神秘的で昏い響きに揺られるホラーです。海と死体と猫の群声で綴られる幻想曲をどうぞ御静聴下さい。ご心配には及びません。最後には現実の岸に引き戻してくれる此岸の声が聞こえますから。
本作、『猫魔岬變』の中の一場面なのですが、一編の怪奇幻想小説として、ずしりとした読みごたえがあります。昏い浜辺で聞こえてくる陰陰滅滅とした人魚の歌からの国道をさまようシーンはしびれるほどに甘美で、逃げても追いかけてくる歌声は、まさに悪夢です。目覚めても……! いや、本当に目覚めたのでしょうか?わずか二千字あまりの短編とは思えない力強さで幻想世界に引き込んでくれる一作です。
薄月夜の波間に思い出す、あの時に見た悍ましいもの。何処か物憂げな主人公は、昼間に見たそれに、僅かに己を重ね合わせます。 それは、もしかしたら……。 どこか詩的であり、背をそろりと撫でられるような恐ろしさをも伴う、夢現を揺蕩う掌編です。 この掌編は、一つの話として十分な力がありますが、この主人公の身上をお知りになりたいと思われたら、同作者様の『猫魔岬變』をお読みになってみて下さい。
人魚、猫、そして・・・この「お話」が、どうのように本編【猫魔岬變】へと紡がれるのか・・・完結を待つのもまた一興。しかし、リアルタイムを楽しむもまた有意義。どちらを選ぶのか、そして両方を得るのかはあなた次第。