売買は自己責任、そのことを学びました。本作は鏡越しに自分自身に怒鳴りかける医者の姿から始まります。彼は自身を侮っている様子でした。ただ、まだその理由はわかりません。読み進めることで判明してくる新事実。一つの選択が回りに回って自分に返ってくる。救いようのなさに、思わずため息をつかされる一作でした。
落ちぶれた医師が “病気を売る老人” と契約したことから、嘘の薬で世界的成功をつかみ、そしてその嘘ゆえに破滅していく――本作は、欲望と自己欺瞞を鋭く描いた皮肉劇だ。「患者は信じるから治るが、自分は信じられない」という逆転構造が非常に巧みで、ラストの自己説得の狂気は印象的。寓話的なテーマとホラー的緊張感が短編として美しくまとまり、読後には強烈な余韻が残る。シンプルな設定ながら人間の弱さと愚かさを深く突きつける、完成度の高い一作。
人を騙し、自分を信じさせる事は意外に容易であったりします。しかしどうでしょう。あなたは自分自身を騙し、信じさせる事が出来ますか?この物語をただの寓話だと思うべからず。自己暗示と言うものがそう簡単では無いことを改めて思い知らされると同時に、安易に人を貶めてはならぬと教えてくれています。人を呪わば穴二つ──。
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