第二章 自由の翼
ボクの研究対象
第31話 修羅場
「……どういうこと、ユーリ? ちゃんと説明してくれる?」
「お兄様……もしかして、また私とお別れするつもりなのですか……? ねぇ──」
ひ、ひぃ……! リアとイヴの二人は、一切の光も宿っていない瞳でブツブツと何かを言っていた。
「なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで? 私はずっと、ずっとユーリに尽くして来たのに。どこで選択を間違えたの……? なんで? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?」
「お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様、お兄様……? どうして? 私が来たから? 私のせいなの……? またお別れになるの? 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ」
最終戦でテオとは合流すればいいし、ここで別に別れる必要もないか……! ここで二人と別れると大変なことになると俺は本能的に悟る。
「な、なーんちゃって……! 冗談だよ。冗談! はははっ! もちろんこれからも俺たちは同じパーティーさ!」
「本当……っ!?」
「お兄様……っ!」
俺が乾いた笑いでそう言うと、二人とも思い切り抱きついてきた。リアの体は震え、イヴの目からは微かに涙がこぼれ落ちていた。
「ユーリ……冗談でも二度ととそんなことは言わないでね──?」
「お兄様。私はこれから一生お兄様についてきます。だから捨てるなんて──二度と言わないでください」
きっと俺のことを頼ってくれているんだよな? 別に他意なんてないよな? 俺はなぜかこのとき、改めて自分の死亡フラグを再認識することになった。
二人を落ち着かせた俺は、テオとソフィアの元へ向かう。
「ユーリ? 何か揉めていたようだが」
「大丈夫なの? ユーリくん」
「は、ははは! あぁ。別に何の問題もないさ! あ。そうだ。夜は一緒に食事を取らないか? 積もる話もあるしな! もちろん、新しく仲間になったあの二人も紹介するよ」
「お、それはいいな!」
「うん。私も楽しみだよ!」
ということで俺たちは今晩は、テオと一緒に食事を取ることになるのだった。
ここ水上都市オルディナは世界最古の都市としてあまりにも有名だ。
街中には無数の水路とアーチ状の橋が張り巡らされている。この都市内では小舟が公共交通機関の役割を果たし、幾つもの船が往来している。街の外周には薄い神聖な水の結界が張ってあって、魔物は通過することはできない。
水と共に生きる都市──それがここ、水上都市オルディナだ。
「私はソフィアと言います」
「リアです。ユーリと同じパーティーを組んでるわ」
「イヴです。お兄様の妹です」
「まぁ、ユーリくんってばこんなに可愛い二人に囲まれているんですね」
俺たちは少しだけ奮発してちょっと高いレストランにやって来ていた。
水路沿いにある白と青を基調とした建物。店内に入ると清らかな水音とハーブの匂いが鼻腔に抜ける。床はガラスの下に魔法で薄く水を張っているようで、歩くたびに柔らかな波紋が広がっていく。
オルディナは水上都市としても有名だが、魔法都市としても有名だ。水と魔法が共存し、ここでは独自の魔法研究もされている。だからこそ、レストランにもこのように魔法が応用されている。
「ユーリ」
テオが俺の肩をトントンと叩いてくる。現在、俺とテオは横並びで正面には女性陣三人が座っている。話が合うのか、三人の会話は非常に盛り上がっていた。
「どうした、テオ」
「お前、あんな可愛い二人とパーティー組んだんだな」
「いや、別に顔採用じゃないが。まぁ成り行きさ」
「へぇ。そうかぁ」
ニヤニヤと笑っているテオは絶対に勘違いをしている。待ってくれ。俺は別に色恋に興味があるわけじゃないんだ、と弁明できるわけもなく。俺ははぁ……と軽くため息をついて正面の三人の様子を見ると──なぜか、リアとイヴと視線が合う。
ただじっと横目で俺のことを見つめて来ていたが、すぐに視線を逸らして二人は会話に戻る。本当に一瞬だけだったが、凝視されていたような……?
それから俺たちはオルディナの食事を楽しんだ。ここは海産物が有名で、非常に美味かった。特に調味料などは出汁を使っているので、元日本人の俺からしたら馴染み深い味で良かった。
「ユーリ。ちょっと歩かないか?」
「あぁ。軽く涼むか」
女子三人組は何でもパジャマパーティーをするらしく、宿に向かって歩みを進めていった。俺とテオは残されたが、二人でこの街中を軽く歩くことにした。
「ユーリ。パッシブスキルはどうにかなったんだな」
「あぁ。まぁな」
「流石だな。やっぱり、ユーリは凄いやつだよ」
どこか遠くを見据えてテオはそういった。けれど、今は以前ような明るい笑顔を見せることはない。俺は知っている。テオもまた帝国の暗部と戦い、そしてそこで初めて人の死を目撃することになったことを。
「テオは、これからどうするんだ?」
知っているが俺は敢えて尋ねることにした。テオは橋に手を掛けて、その質問に答える。
「この世界には──俺の知らない闇がある。そして俺には力がある。この才能はきっと人々を助けるために与えられたんだと思う。だから俺は、もっと強くなって人々を守れるように進んでいくよ」
「そうか」
それこそ主人公のテオだ。彼は世界の闇に触れても絶望はせず、真っ直ぐ強い心で進んでいく。
「俺は北に向かうよ。そこで魔物が活性化しているらしいからな」
「ん……? そうか?」
「あぁ。ユーリはどうするんだ? ユーリさえ良ければ、また一緒のパーティーで活動しないか? 思ったよりも早い再会になったが、ユーリの問題は解決したみたいだしな」
原作の展開と変わっている……と俺は気がついた。本来、テオはこのオルディナ滞在してヒロインの一人と出会うはず。ただやはり──俺が介入することで流れが変わって来ているのようだな。
「いや、俺は俺でやるべきことをやるよ。だが──最後には絶対、テオと共に戦うことになる。そう確信しているよ」
それがそういうとテオは少しだけ驚いた様子を見せたが、その後ニヤッと笑みを浮かべて拳を差し出してくる。俺も拳を差し出し、コツンと合わせる。
「そうだな。ユーリがそう言うなら、きっとそうなんだろう。お互い頑張ろうぜ!」
「あぁ」
テオとの話はそこで終わり、彼は宿へ戻っていった。一方の俺はまだ一人で散歩をしていた。
水上都市オルディナには非常に頼りになるヒロインの一人がいる。テオは多分、今回は彼女と接することはない。今までの流れ通り、俺が接触しておくか。ただし彼女の場合は今までのように戦い方を教えることはない。なぜならば──
「うわ……っ!」
「ん……?」
「そこの人! ボクのことを受け止めてくれないか!」
上から女性の声が聞こえてきた。え……何で上なんだ? と思っていると、白衣を身につけた一人の女性が上空から落下してくる。俺は身体強化をしてその女性の体を受け止めるは、その体はあまりにも軽かった。
「ふぅ……危なかった。また実験は失敗かぁ……でも今回は良いデータを得ることができた。早速メモを取らねば。記憶は新鮮なうちにアウトプットしなければいけないからね」
お姫様抱っこの形になっているが、彼女は手元にあるメモには走り書きをしていた。俺は──彼女のことを知っていた。
深海のような青い髪を腰まで流し、前髪は目元を軽く覆うように真っ直ぐ整えられている。瞳は透き通るアクアブルーでそこには確かな知性が宿っているようだ。白衣の下には黒のハイネックと蒼銀のベストを着こなし、腰にはポーチを携えている。全体的に小柄で細身だが、どこか研ぎ澄まされた知的な雰囲気をまとっている。
そしてお姫様抱っこされたまま、彼女は自己紹介をしてきた。そう彼女はヒロインの一人であり、その名前は──
「あぁ。すまない。助けてくれて、ありがとう。おっと、自己紹介がまだだったね。ボクの名前は──アリス。偉大な若き天才魔法研究者さ! ガハハ!」
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