概要
孫権の皇太子たちが対立する中、陸遜は魯王ではなく皇太子の地位を保証することを孫権に直言する。孫権は聞き入れず、陸遜は流罪になる。
陸遜のもとへ今日も孫権の使いが来て詰問の書状を読み上げ、彼を責めなじる。
陸遜はそれを聞きながら、劉備を撃退した夏の日を思い出す。その記憶は主君孫権に対する追憶へとつながっていく。
陸遜は赤烏八年(245)春二月、六十三歳で死去した。
参考文献
陳寿 裴松之 注 今鷹真・井波律子・小南一郎 訳「正史 三国志」(ちくま学芸文庫)
小川環樹 金田純一郎 訳「完訳 三国志」(ワイド版岩波文庫)
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!正しさとは何なのか
呉の知将・陸遜。
三国志はとても多くの人物が走り抜けて行きますが、正しい人って少ない。
やはり乱世ですから、その正しさというのはとても危ういというか。
だからこそ、皇帝も覇王も、皆、正しさを求めて、智将を登用するのだろうと思います。
私の浅い知識ですが、陸遜という人は、正しい事を目指した人で。
民を救おうと、農業や産業にも力を入れたり。
けれど、その正しさが、ではどんな状況、どんな人にも通用するかというと、決してそうではないという悲しさ。
昔だから、自分にかけられた嫌疑や罪状は、一族郎党にも回るんですよね・・・。
信じて尽くして来た主からの仕打ち。
失意、絶望、義憤を冷徹に切り取ったお…続きを読む - ★★★ Excellent!!!蒔いた種は誰が喰らったか
静かに始まり、しかし燻るように燃え渦巻く物語でした。
歴史を知る方なら、冒頭で語られる「あの方」が誰で、「俺」が誰であるかをすぐに察するのでしょう。私は無知ゆえにそれを知らずに読み進めましたが――それでも、肌の裏が爛れるような感覚がありました。
語りは抑制され、理知的で、整然としている。それだけに、淡々と剥いだ皮のように折り重なっていく怒りと、静かに膨れ上がる熱が、かえって切実に迫ってきます。
じっとりとした汗の感覚、赤い烏の幻影。いずれも象徴として深く刻まれ、読後には確かに喉の奥に何かが残る。その積み重ねの末に置かれた、最期の決断――あの瞬間、すべての比喩が報いとなって悪果を結びます…続きを読む - ★★★ Excellent!!!陸遜の壮絶なる最期、怒りと絶望が織りなす底冷えするほどの読後感!
三国志での陸遜について、一般的に夷陵の戦いで劉備を破った、若き俊英のようなイメージをされる方が多いと思います。この作品での陸遜は、呉の末期の頃――孫権との関係が破綻していた頃の物語となります。
作品の見どころとして、構成の素晴らしさがあったように思います。登場人物は陸遜、孫権からの使者で、孫権は出てきません。使者は孫権の理解しがたいお気持ちを代弁します。そして、陸遜は孫権への憤りを深めていくのです。修復できないほどの関係性の破綻を見事に表現されていました。
陸遜が憤る気持ちの表現に圧倒され、終盤に向かうにつれて鳥肌が立つ感覚がありました。熱や汗という言葉がしきりに登場しますが、読んでいて…続きを読む - ★★★ Excellent!!!歴史と忠誠、そして裏切り…『赤い烏』が導く壮絶な結末!
『赤い烏』は、歴史の重みと個人の葛藤を見事に描き切った短編や!📜✨
主人公が仕えてきた主君との関係、忠誠と裏切り、そして時代の波に翻弄される人間の姿……これらを濃密に描いた、胸に刺さる作品やった!
物語の中で繰り返し登場する「赤い烏」という象徴的な存在が、読者に強い印象を与え、ラストの展開をより深く感じさせる。この作品は、単なる歴史小説ではなく、心理描写の妙と詩的な表現が光る、文学的にも優れた作品やで!✨
🔹 作品の魅力
1️⃣ 主人公の心理描写が圧倒的!
主人公の視点で語られる物語は、過去の栄光と現在の屈辱の対比が鮮やかで、読み手に深く共感させる力がある。
使者の言葉がどん…続きを読む - ★★★ Excellent!!!怒りの赤は濃く、強く
三國志は呉の将軍、陸遜。
君主である孫権に仕え、名将として重用されながらも、後継者問題に端を発して袂を分かち、失意の下に憤死したとされています。
あまり聞き慣れない「憤死」という死因ですが、怒りのあまり血圧が上昇したり心臓に発作を起こして倒れる…という直接的な場合もれば、怒りの勢いで自ら命を絶つ、抗議の意味で絶食したまま命を落とす…等、間接的な場合もこれに含まれるそうです。
さて、陸遜の「憤死」はどうだったのでしょうか。
この物語の彼の最期に、私は真実の一端を垣間見た気がしています。それほどまでに、死を前にした感情の奔流が凄まじいからです。
忠臣であったが故の失意や落胆が怨恨へと変…続きを読む - ★★★ Excellent!!!あの呉の知将、陸遜の最期を描いた物語
三国志というと劉備、曹操、孫権、諸葛亮、関羽などという英雄たちを思い浮かべる人は少なくないだろう。少し三国志を知っていれば一度は耳にしたことのある呉の知将「陸遜」。だが、彼の最期を知る人は少ない。
本物語は「さいかわ葉月賞」というテーマが設けられた自主企画に寄せられた作品だった。そのため、テーマである「夏」と物語をリンクさせなければならなかった。
誰が陸遜の最期と「夏」を連想しただろうか。
三国志ファンならもちろんのこと、三国志を知らない人であっても読んでいただきたい一作である。陸遜の最期を知ってから、陸遜という人物がどんな漢《おとこ》だったのかを知るのもまた面白いかもしれない。