大人しく目立たない葵生と、ヤンキーのケンは、唯一無二の悪友どうし。
ある日、性悪な神様によって葵生が美少女の姿に変えられてしまったことから、物語は動き出します。
しかしそれは、あまりにも濃密で、そして深い1年間の始まりでした。
物語が進むにつれて明かされる二人の関係は、友情や恋愛といったありふれた言葉では到底表現できません。
互いが互いにとっての世界そのものであり、他のすべてを必要としない閉鎖的な絆で結ばれています。
家庭や学校に居場所を見つけられず、社会から疎外された二人が、互いの傷を舐め合うように寄り添う姿は、危うさと同時にどうしようもなく美しく、読む者の心を強く揺さぶってきます。
葵生が抱える内なる破壊衝動と、それを受け止めるケンの不器用な愛情のコントラストが、物語に深い奥行きを与えています。
本作は「現代版心中物語」と呼ぶにふさわしい側面を持っています。
古典的な悲恋の物語が「義理と人情」の板挟みで主人公たちを追い詰めたように、この作品では「家族の機能不全」や「社会からの疎外」といった現代的な問題が、二人を逃げ場のない悲劇へと追い込んでいきます。
抗えない運命の中で二人が選ぶ道はあまりにも切なく、胸を締め付けます。
社会の「普通」から逸脱し、二人だけの世界を築き上げていく過程は、破滅へと向かう悲劇でありながら、純粋な愛の物語でもあります。
家族や社会、そして抗えない運命。
二人を引き裂こうとする力は、あまりにも強大です。
しかし、その力が強ければ強いほど、二人を結びつけようとする絆もまた、強いものに変わります。
綺麗なだけではない、愛の複雑で深い形が「噛み跡」として表現される点は非常にインパクトがあります。
そしてこの物語は、破滅と再生の物語でもあります。
二人の運命が結末を迎えた後も物語は続き、そこには確かな希望の光が灯されています。
すべてを失ったかのように見える場所から、再び立ち上がり、前を向いて歩き出そうとする姿は、不思議な温かさと感動を与えてくれました。
愛が形を変え、受け継がれていく様子は、この物語が持つ救いを象徴しているように感じます。
キャッチーなタイトルから想像される物語は、多くの場合、明るく楽しい青春の一幕でしょう。
しかし本作において、その予想は鮮やかに裏切られます。
ラブコメの体をとった、あまりにも純粋で痛切な青春物語。
ガラスを割る衝撃的な出会いから始まるこの物語は、読者の心を掴んで離さない、深い人間ドラマでした。