-6- 海の見える場所
祠へやってきた。海からの風は寒く、冷たい。寒さから逃れたくて、マフラーに顔を埋めた。
ハンカチから釘を取り出し、祠に入れた。なんとなく、祠と視線を合わせるように座り、手を合わせて願った。
(どうかこれ以上、何も起こりませんように)
「────かえろう」
ここはこんなにも寒いから。早く家に帰ってしまおう。
「──かえろう」
ここはこんなにも孤独だから。みんなの下に還ってしまおう。
「かえろう」
気が付くとそんな言葉が口から漏れていた。それが、何処へ対する言葉なのかはわからないまま立ち上がった。
足は、知らず冬の海に向いていた。
ザブザブと足は水をかき分けていく。冷たい海水は白いしぶきを上げて新たな仲間を歓迎している。
頭上には灰色の重い空。ぼう、とその厚い雲を眺めながら足を進める。
ふくらはぎにズボンが不快に張り付く。ふとももが冷たく足を進めることが重くなっていく。腰から冷たい海水が入っていく。胸に当たった波の飛沫が頬に飛んだ。マフラーが重く濡れていく。口に海水が入った。塩辛いと思った。
ぶくぶくと目の前に現れては消えていく泡。ついには、灰色の空さえ見えなくなった。
目の前には泡の星。それも、少なくなって消えていく。
もう、冷たさは感じなかった。
最後の泡は、誰にも見られずに弾けて消えた。
手紙 先崎 咲 @saki_03
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます