概要
売れない画家のイーゼル。
恋をしたコーヒーミル。
作家の書斎机。
フランス人形の記憶。
閉店する店の懐中時計。
名もなきオブジェが呟く、ささやかなひとりごと。
1話完結のオムニバスです。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!パリの蚤の市で、付喪神のように古道具さんたちが、ささやくってよ。
みんなのレビューがすごい。
人気の柊圭介さまの短編作品を紹介します。
パリの蚤の市(骨董市)と聞くと、
アトリエや店舗を持つ目利きの古物商が営む
アンティーク雑貨・家具、古美術品が並んで洗練されたイメーですが……。
このお話の舞台となる蚤の市(ブロカント)は、
どちらかというとフリーマーケットに近いかな。
店舗を持たない古物商や一般人も出店しています。
本やおもちゃ、食器、カトラリー、日用雑貨など。
高価でない物も売っているので敷居も低く、
使わなくなった古道具が並んでいます。なんなら値切ってもいいかも。
そんな気軽な雰囲気の骨董市にまぎれ、人知れず心を宿した古道具たちが、
店に並ん…続きを読む - ★★★ Excellent!!!パリで生きる人々の営みと心が、オブジェたちの呟きを通して見えてくる
人間が「人生」という歴史をそれぞれ持つように、パリの蚤の市に並んだアンティークや小道具たちも、個々が数奇な歴史を秘めています。
本作では、五つのオブジェたちの歴史が、硬質で美しい筆致で繙かれています。
寡黙な芸術家である持ち主の元を離れて、蚤の市に流れ着くまでの変遷。安価な値段で買われた先で、経年を感じる色合いで変化していった恋心。現代のアイテムと思想を知る日々の中で、次第に燃え盛っていく信念の情熱。そして、激動の時代を生きる人々が見せた顔の裏表を、静かに見つめ続ける、エナメルの瞳――。そこには、血が通った人間と何ら変わらない、他者と共生してきたからこそ生まれる苦楽がありました。
思いや…続きを読む - ★★★ Excellent!!!五つの物に宿る魂を、繊細な感性で描いた物語
パリの蚤の市には、長い歴史を乗り越えた古道具が並んでいる。アンティークとは呼べないような、地味で、使い古され一部破損しているようなものだってある。
それらをじっと眺めていると、まるで何かを語りかけてくるようだ。
彼らが愛用され、持ち主と一心同体だったあの頃のことを。まるで人間が「一番良かった時代」を語るように。
人と人が愛情を交わす瞬間、憎悪や諦観、引き裂かれるような別れ。時代の変遷にためらいつつも、モノ達はそれらを受け止めてきたのだ。
五つのモノに内包されたそれぞれの世界を、筆者様の繊細な感性と鋭い洞察力で描いた五つの物語。ぜひ、ご堪能ください。 - ★★★ Excellent!!!もしその聲が聴けたなら。
『一期一会』という言葉がある。
千利休の言葉らしい。茶道における心得、携えるべき覚悟なんだって。
―― 一生に、たった一度きり ――
よくよく考えれば。なるほど、確かに。
あらゆる瞬間は、二度と再び訪れることはない。すべては、一生に一度きり。掛け替えのない瞬間に違いない。
そうと心得えたなら。
あらゆる事物が愛おしくなりそうだ。
敬いたくなるはずだ。
道端の石ころにも、縁を感じよう。
…もしも出逢いしそれが、星霜を重ねた古きモノならば?
彼らは、一体どれだけの瞬間瞬間を得てきたのだろう。
歓喜、無情、凄惨、親愛。
ありとあらゆる、風景。
この作品は、古きモノたちの声ならぬ聲を…続きを読む - ★★★ Excellent!!!古道具たちは、時代を生きた持ち主のことを語る
パリの蚤の市に並べられた、たくさんの古道具。その中から、
イーゼル。
コーヒーミル。
書斎机。
フランス人形。
懐中時計。
が、それぞれの思い出を語ります。
五つのエピソードそれぞれに味わいがあり、まるで蚤の市の中からお気に入りのものを見つけるかのような楽しさです。
オブジェたちが語る思い出は、いいものばかりではありません。長く生きるということは、暗い時代や、別れの寂しさや、人間の醜さを知ることでもあります。
もしこれが人間だったら、長生きしなくてもいいと絶望するかもしれません。
でも、現代は「物」の消費サイクルが速く、スマホも家具もおもちゃも、百年を耐えうる仕様にはなっていません。
お手…続きを読む