とある天才科学者の研究成果により、緑化手術によって人が光合成をし、地球温暖化問題が解決した世界。
主人公のサイカは、ブラジル政府の肝入り施設・プランティアで研究する若き女性化学者です。
ある日、プランティアへ緑化手術を受けた日本人の青年・イツキが被験者としてくるのですが、彼は心を閉ざしていて……。
近未来が舞台なのですが、そこに書かれている問題は、現代に生きる私たちが思わず考えさせられるものも多く含まれています。
また、作者様の科学に対する熱意がとても素晴らしいです！
いったいどこへ向かっていくんだろう、と思いもかけない方向へ展開していく物語をどうぞお楽しみください。
著者初のSFということで期待いっぱいで読ませていただきました。
結果は……期待以上の面白さ！
もともとストーリーテリングはうまいし、物語を盛り上げる構成なんかもきっちりとした作者さんでしたが、SFというジャンルにぴったりと嵌まっていました。
物語の基本となるのは『植物人間』。とはいっても、病気で寝たきりの人ではなく、体の細胞に植物細胞を融合させた新しい人類のこと。太陽を浴びるだけで栄養を作り出すという植物ならではの特徴を持ちます。さらに呼吸は二酸化炭素、地球温暖化にも対応しうる、まさに未来に求められている人類です。
ただ、その存在は世界的に認知されているわけではなく、その計画は世界的な問題として解決しないまま、さらに植物人間には宿命的ともいえる病状の解決もいまだに残っています。
ここから物語は展開していき、この植物人間の持つ可能性、そこから発生する社会問題、といった内容が展開していき、大きなうねりのあるストーリーが紡がれていきます。植物人間になったばかりの元・大学生イツキ、彼を研究対象にするグループの個性的な面々、そのメンバーを取りまとめている主人公『サイカ』。問題にぶつかりながら、メンバー同士でぶつかりながら、それでも植物人間の可能性を信じて研究を続けていく姿のかっこよさ。そんな彼らが織りなすドラマがストーリーを広げていき、クライマックスで驚愕の事実が明かされるのです！
この展開が実に見事です。
盛りだくさんの科学的な要素をまとめ上げ、ストーリーにしっかりと落とし込むのは本当に大変だったと思いますが、見事に面白い作品に仕上がっていました。
とにかく読ませるのが上手な作者さん。
この作品も本当に楽しませていただきました！
ＳＦってやっぱり面白い！ そんなことを再認識させてくれる作品です。
大学生活を謳歌しきれていなかった日本の男子大学生は、ある教授の話で緑化手術なるものを知る。それは人間の中に植物の細胞を入れて、光合成を行わせるというものだった。その手術を受けるため、男子大学生は単身、ブラジルにある研究施設に向かった。多種多様な研究者が集まる施設では、緑化手術の副反応の研究もなされていた。緑化手術を受けたマウスの中には、植物細胞に侵されすぎて動けずに亡くなるケースもあったからだ。そのため緑化抑制剤の開発は、急務だったのだ。
研究対象だった男子大学生は、この研究チームの面々と日々を過ごしていたが、その施設で爆破テロが発生する。その犯人は、緑化手術を受けた人間を植物人間として憎んでいた。そこで男子大学生の体調が悪化し、研究チームから引き離されることになる。
チームが悶々とする中、体調が悪化した緑化手術を受けた人々の行く末に、ある傾向がみられることが判明する。このままでは、男子大学生は……。
果たして、男子大学生の運命は？
そして施設に隠された大きな秘密とは？
人間と植物の境界を曖昧にする緑化手術という行為は、倫理的にどうなのか？
何故意見に差異があると、人は争うのか？
いや、むしろ似ているからこそ、境界を必要として争うのではないか？
そんな風に色々と考えさせられる一作でした。
是非、是非、御一読下さい！
人間の細胞内で葉緑体を培養し、それを人体に取り込む技術である、緑化手術が確立された世界。つまりは、人間が光合成できるようになるという技術です。
それにより地球の抱える環境問題は大きく改善されたのですが、全てがうまくいったかというとそうではありません。
倫理観の問題。それに、手術を受けた人たちが発症する特殊な病も存在しました。
それらに向き合うのが、科学者であるサイカや、彼女の仲間の研究チーム。
架空の技術、架空の問題を取り扱った作品ではあるのですが、その描き方がとても見事。もしも本当にそんな技術があったら。もしもそれがきっかけで世界の形が変わっていったら、どんなことが起こるのか。それは本当に正しいことなのか。
現実にはなく、答えのない議題。だからこそ理屈や登場人物それぞれの考えをしっかりと出してきて、物語に深みを与えていきます。
パンドラの箱とでも言うべき技術が登場した時、人類は、そして世界は、どこへ向かっていくことになるのでしょう。
もし人間が光合成できる未来が訪れたとして、地球のためにその緑化手術を受けた植物くんが不治の病気を発症したら？
そんなifに科学の力で斬り込むのは天才女性科学者サイカ・パラレル。ブラジルに建造された先端科学都市プランティアに勤める彼女は世界に先駆けて全能性の治療薬、緑化抑制剤を開発した研究チームのリーダーだ。
不思議なことに、この作品はバリバリ理系の世界観なのになぜか読みやすく、映像的で、臨場感があり、理系音痴の私でもストーリーを追っていくうち自然と物語の世界に浸っていて、気づけばハラハラドキドキむしろ面白い。
はて全能性とは？ 緑化抑制剤とは？ あれ、SFええやん〜✨と、序盤から物語の世界を知らず知らず楽しんでいる自分がいました。
その背景には作品を楽しんでもらいたいという作者様の様々な試行錯誤があったんだけれども、読んでるときはただ面白くて頁をめくるので、まあ気づきませんよね笑。後になって、あ、それであの人は文系出身の設定だったのかとかいろいろ気づくことも多々ありました(執筆する方とか作品の裏側が気になる方はエッセイも併せてご覧になると面白いかもしれません📕✨『そうだ、カクヨムコン１０へ参加しよう！』https://kakuyomu.jp/works/16818093086027211743)。
他にもＧＭＤ測定器や想定マウスなどなど。色んなガジェット？(私はSF音痴でもあるので単語の使い方からしてよくわからない笑)が登場しますが、もはや今の私にはどちらも実感をもって語ることが出来るくらい物語に浸っているぜ、といった感じです(*´艸｀*)
しかしこの作品を拝読するにあたり私が一番興味を惹かれたのは『この作者様の描く未来ってどんな世界だろう？』ということ。
脳内に浮かぶ映像や登場人物たちのやり取りをそのまま映し出す術がない以上は、作家にもある程度の物真似力というのか演技力、それから映像的なこと、そうして心に浮かんだ世界を文字で再現する能力がある程度必要になってくるのではないかと個人的には思っているのですが、この作者様はそれはもう色んな役になりきって体当たりで演じながら書いてきた。
そんな演じる痛みさえ厭わない作者様の描く他人事ではない未来の話。緑化手術に対する是非は科学と宗教の対立を引き起こし、手術を受けた人たちに対する偏見もある。さらには違法薬物や貧困と問題は未だ山のようにあります。
相容れない存在はつい白黒ハッキリつけたくなってしまうものですが、どちらもそのまま描くことが出来る作者様の描く物語は遥か未来のことを書いているようでいて、むしろ今を生きる私たちの世界をいっそうリアルに照らし出しているように思います。志ある人たちの姿にはどこか『誰にとってもディストピアにはさせないぞ』というような気概、確かな強い輝きを垣間見た気がしました。
エンターテインメント性溢れる人類と科学の可能性を追求したＳＦ作品、ぜひ一度ご覧になってみては?✨
地球環境を改善する一助になればと、緑化手術を受けた人々がいる近未来。手術を受けた人々のなかに『全能性』という死に至る病を発症する者があらわれだす。
天才科学者のサイカ・パラレルは全能性の治療法を研究するため、緑化手術を受けた日本人青年イツキ・ウラガを被験者としてむかえるのだが……
温暖化なんですかね。この夏もめちゃくちゃ暑かった。。。地球環境がどんどん悪くなってるんじゃないか？わたしは、こんな不安を抱えながら今を生きています。
本作は上記のような現実世界の問題を色々と考えさせられるSFです。
すごく深いテーマを取り扱ってらっしゃると、読んでいて感じました。SFだけど、めちゃくちゃリアリティがある！
それでいて個性的なキャラがいっぱいで、キャラを楽しむ小説とも言えると思います。孤独を抱えたクールな青年。冷静に見えて実は熱いハートを持った女性。ケンカごしだけど、気心が知れると頼りがいのある男。などなど、キャラが立った登場人物の掛け合いは面白く、深刻な問題をあつかう物語をときに軽妙な語り口でわたしたち読者に伝えてくれます。
このレビューを書いている時点で４０話目前なのですが、緑化手術に関連した新たな事実が分かりそうな気配がしていて、そこにもわくわくしています☆
ジュラシックパークみたいな欧米のSFエンタメがお好きな人に特にオススメな作品です！
SF作品というものは、書く側にとっても読む側にとってもハードルが高いもの……だと、個人的に思っています。
読者を納得させる世界観を作る技術だったり、作り込まれた世界観に入り込む集中力だったり……。
私自身があまりSFに触れてこなかったというのもあって、初めは緊張しながら読んだ記憶があります。
読んでみてまず思ったことは、凄く丁寧に描かれているということでした。
情景が浮かびやすく、まるで映画を観ているような気分になりました。
気が付けば主人公のサイカや植物くんに感情移入できるほど物語に入り込めている自分がいて……。
作者さん自身がたくさん模索しながら執筆している結果なのだとしみじみ思います。
考えさせられるストーリーに、圧倒的な世界観。
皆さんも入り込んでみませんか？
もし、人が自分の身体で酸素を作れるようになったら？
温暖化は解消されるかもしれない。
でも、倫理的な問題は？
世の中は単純じゃない。
こっちが引っ込めばあっちが出てしまう。
この作品を読んでいると、そんな思いが湧いてきて、深く考えさせられてしまいます。
たとえば、光合成ができるようになっても、必要以上に植物化が進んでしまう人がいます。
主人公のサイカは「緑化抑制剤」を開発しますが、まだまだ臨床試験中。
薬の被験者との交流が丁寧に書かれていくなか、「あなたはどう思う？」と作者様に問われているような気分になってしまいました。
こんな重厚な作品、なかなかないのではないでしょうか？
重いテーマにしっかりとした科学的な知識。
読み応えばっちりの、とても面白い作品です！
環境問題が解決の兆しを見せている世界で、新たに生まれた問題に挑む科学者達の研究を描いたSF作品です。
温暖化に対抗するため、とある科学者は植物の光合成を人間に取り入れる研究を発表しました。
その行いは疑いようもなく肉体改造であり、倫理、宗教、医学の面で大きな論争を巻き起こしました。
しかし、結果としては大成功。酸素の放出量が増えたおかげで、地球の環境は大きく改善を迎えます。
けれども、肉体改造の裏目か。肉体の機能が植物へと傾きすぎてしまう人々が現れます。
主人公達の目的は、そんな人々を救済すること。
大功の影に埋もれてしまった人々に、主人公達は新たな光を与えられるのか。
ぜひ読んでみてください。
ほとんど、九九パーセントの動物は、息をせずにはいられない。少しくらいなら止めていられるが、植物のようにはいかない。
動物の中で、科学技術を産み出し、実行するのは人間だけである。猿が道具を使うことはあるが、それは手段であって技術ではないだろう。
で、酸素を消費する人間が、より酸素を消費する科学技術を使う。かくて二酸化炭素は指数関数的に増え続ける。
そんな下り坂に、本作で描かれる科学技術はつっかい棒をかける。ただし、『善意かつ自発的な志願者』の協力において。
軍縮条約から環境保全まで、およそ人間の業……『あなたが先にやれば私もやりましょう』は無数に存在する。それをゼニカネの力だけで解決しようとすると、必ず破綻する。
破綻を免れる唯一の手段は、冷徹な計算と熱烈な人類愛の合致のみである。
必読本作。
温室効果ガスとしてやり玉にあがる二酸化炭素。
現実でも国際的に排出量に関する取り決めが行われています。
この小説は「緑化手術」によって人間が光合成できるようになった未来の物語。
緑化手術を受けた人間は太陽が出ている昼の間、二酸化炭素から酸素を作り出せるのです。
しかし違法の緑化促進剤が出回ったことで、一部の人々において植物化が進みすぎる病が現れるようになってしまった。
物語の主人公サイカは、その病の特効薬「緑化抑制剤」を開発した若き天才科学者。
ただし緑化抑制剤はまだ臨床試験中。
緑化手術を受けた人に被験者となってもらって、効果を実証しているところ。
その被験者となった青年と、サイカが反発しあいながら心の交流を積み重ねてゆく姿が描かれます。
光合成について学んだ子供時代に、動物や人間も光合成ができたら便利なのになーなんて考えたことのある人は多いと思います。
それを科学的な根拠と共に上質なSFに昇華している本作は、読み応えバッチリ。
また、緑化手術の副作用として病が設定されていたり、違法薬物が出てきたりと、気になる要素がたくさんあって惹きつけられます。
病が進行した先で、人間はどうなってしまうのか？
そもそも、人間が光合成をおこなう倫理的問題は？
など、リアルな物語が繰り広げられます。
不穏でありながら目を離せないテーマに、釘付けになってしまうはず。
SF的な理屈もしっかり描かれていて面白いので、ぜひ読んでみてください！