30代フリーターとしてうだつの上がらない日々を送っていた主人公・玉枝無月。気晴らしに買った宝くじがなんと高額当選。一生遊んで暮らせる額を手に入れた彼は、心を救ってくれたVTuberへの恩返しとして、賞金のほとんどを使い「VTuber専用マンション」を建設してしまいます。防音室や高速ネット回線など配信環境を徹底的に整えたマンションに、次々と入居する個性豊かなVTuberたち。
しかし住人たちがネットで炎上するたびに、なぜかマンションも物理的に火災に見舞われ、そして時間が巻き戻るという異常事態に直面します。こうして主人公は、ネット炎上を回避してマンションを守るためにループを繰り返す、過酷な日々に身を投じていきます。
本作は「VTuber×ループ×コメディ」の合わせ技と、現代社会の孤独や承認欲求、人間関係の絆を描いた、「推し文化」を軸としたヒューマンドラマを本筋に据えた作品です。推しへの恩から人生を変える主人公の行動力。このテーマはファン活動の持つ癒しと依存、そしてその危うさをも浮き彫りにしています。
一方で「ループ」という仕掛けは物語全体の構造を支える装置として機能しており、主人公が何度も試行錯誤する姿はまさに「運命への挑戦」と言えます。
主人公・玉枝無月は「推しへの愛情」を軸に行動する献身的な人物ですが、その裏には孤独や葛藤が常に潜んでいます。また一癖も二癖もあるトンデモ住人たちは、時に主人公にとって代わるほどの存在感を見せつけます。
問題や葛藤を抱え、自分自身と向き合い、新しい未来へ進む姿勢。そんな彼ら同士の交流や衝突がこの物語を奥深い人間ドラマにしており、彼らによって主人公自身も変化していく様子は、本作最大の見どころと言えます。
またユーモラスな各話タイトルにも注目です。インパクトに富んでおり、読者の興味を引きつける工夫がされています。それぞれのタイトルから話ごとのテーマや雰囲気が伝わってきており、本文読後にタイトルを振り返る楽しみもあります。
「推し」「信仰」「救い」といったテーマを巧みに絡めながら、人間関係や再生への希望を描いた本作。ユニークな設定と個性的なキャラクターたちによるドラマが読者を引き込み、多くの示唆を与えてくれます。ループの仕掛けもうまく機能しており、ラストまで飽きずに楽しむことができます。
そして何より、本作はVTuber文化への入り口としても優れており、知識がなくても楽しめるだけでなく、新しい興味や関心を引き出してくれる作品です。