第30話

 好感度が見えるようになってから、数週間が経った。

 俺、影野一人の日常は、以前とは比べ物にならないほど騒がしく、そして色鮮やかなものになっていた。


 朝、教室に入れば、高嶺さんが「おはよう、影野くん」と、少しだけ柔らかい表情で迎えてくれる。【100/100】の好意は、もはや安定だ。

 隣の席では、白河さんが「……カズトくん、おはよう」と眠そうに呟く。【測定不能】の瞳の奥には、確かな親愛の情が見える……気がする。

 休み時間になれば、陽菜ちゃんが「カゲノーン! ねえねえ!」と弾ける笑顔で駆け寄ってくる。【オーバーフロー】な好意は、今日も絶好調だ。


 昼休みは、高嶺さんと二人きり(?)で弁当を食べることもあれば、陽菜ちゃんに引っ張られて賑やかなグループに混ぜられることもある。時には、白河さんが俺の弁当のおかずを無言で奪っていくこともあるけれど、最近はもう慣れた(諦めた)。


 放課後は、高嶺さんと一緒に本を探したり、陽菜ちゃんとカフェに行ったり、白河さんと(なぜか)猫カフェに行ったり……。

 もちろん、赤坂とくだらない話で盛り上がったり、ゲーセンに行ったりする時間も大切だ。


 相変わらず、彼女たちの好感度の異常さには戸惑うし、アプローチに振り回される毎日だ。

 勘違いやすれ違いも日常茶飯事。

 俺の心臓は、常にドキドキしっぱなしだ。


 でも、もう以前のように、ただ怯えたり、混乱したりするだけじゃない。


 高嶺さんのクールな表情の裏にある優しさや、不器用な一面。

 陽菜ちゃんの太陽みたいな明るさや、意外な純情さ。

 白河さんのミステリアスな雰囲気の中に隠された、深い情愛。


 数値だけでは分からない、彼女たちの魅力に、俺は少しずつ気づき始めている。

 そして、そんな彼女たちに向けられる、俺自身の気持ちにも……。


 この好感度可視化能力が、呪いなのか祝福なのか、その答えはまだ分からない。

 でも、赤坂が言ったように、この能力はただの「道具」なのかもしれない。

 大切なのは、俺がどう感じて、どうしたいか。


 俺は、彼女たちともっと仲良くなりたい。

 彼女たちのことを、もっと知りたい。

 そして、いつか……この気持ちに、ちゃんと名前をつけられる日が来るのかもしれない。


 まあ、今の俺には、まだそんな資格はないかもしれないけど。

 まずは、このバグったような日常を、全力で楽しんでみよう。

 彼女たちの好意に、不器用ながらも応えていこう。


 視界の端には、今日も今日とて、様々な数値が表示されている。

 クラスメイトたちの低い好感度。

 赤坂の安定した友情度。

 そして、三人の美少女たちの、異常で、愛おしくて、そして少しだけ厄介な、とてつもなく高い好感度。


「……さて、今日はどうなることやら」


 俺は小さく笑い、教室のドアを開けた。


 好感度が見えるようになった陰キャな俺の、波乱万丈で、ちょっと(かなり?)甘酸っぱい学園ラブコメは、まだまだ始まったばかりだ――!

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好感度が見えるようになった陰キャな俺。クラスの美少女たちの好感度が軒並みバグってるんだが、俺何かしたっけ? ネコ @hirukarayamaneko

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