第16話 姉ポジからの説教は効果的……?
黒ずくめを倒したあと、わたしたちはしばらくの間、森の中を進んだ。
それから足跡の上を100メートルくらい戻って、木の上にジャンプ。
そこからは枝から枝へと飛んで移動した。
たぶん裏組織の誰かに追跡されるけど、わたしたちの足跡が途中で消えるからうまく誤魔化せるはずだ。
メイルダースの人たちじゃなかったら枝から枝へと飛ぶように進むとは想像できないはず。アイーダによると身体強化魔法はメイルダースのものなのだから。
軽く1キロくらいは枝の上を移動してから地上に戻った。
そのまま森の中を歩く。
「……こうやって姫さまと森を歩くのは久しぶりですね」
「あー、そうかも。わたしが6歳の時が最後かな? アイーダと魔境の森に入ったのって」
「姫さまはわたくしを置いて家出なさいましたからね……」
「うっ……」
わたしは辺境伯の娘で一応は伯爵令嬢だ。
アイーダはわたしの侍女で、子爵令嬢でもある。
王都ならありえないのかもだけど、メイルダースでは貴族の令嬢が森に入る。
そして、なんと……サバイバル特訓を受ける。
マジでメイルダース辺境伯領ってすごい。
わたしが6歳の時の、はじめてのサバイバル特訓の時にアイーダは一緒に森に入った。
アイーダはその時は9歳で……わたしと同じように6歳の時にサバイバル訓練を経験済みだった。
つまり、わたしが6歳の時にはアイーダが先生役というか、お世話係として森に入ったのだ。
なんで6歳なのかはよくわからなかったけど……その時に生まれてはじめてホーンラビットを倒した。
あ、いや。倒したというか……殺した。
ホーンラビットというのは角があるウサギのことだ。
それも一匹じゃなくて何匹か殺した。
確か3匹目を殺したあと、4匹目との戦いがすごく楽になって……わたしはこの世界にレベルアップ的なものがあるんじゃないかと気づいたのだ。
別に頭の中でレベルアップのアナウンスが流れたりはしなかったけど。
そしてその日の夜。
明かりを消したテントの中で……「ステータス……」って口にして、何も出てこなかったことも思い出す。あれは恥ずかしかった……ひとりで悶えた。
もちろん「ステータスオープン」とかも試した。いろいろ試してもステータスは出てこなかった。
それでも、実感として間違いなくレベルアップはあった。
数値として分からないだけで、魔獣を殺せば確実に強さが増していったのだから間違いなくレベルアップは存在してるはずだった。
だからわたしは……次の年のイリーナの時のサバイバル訓練への参加を希望した。
それなのに……わたしはダメだと言われたのだ。
レベルアップしたくてしょうがなかったわたしは……家出して森に入った。
追手がくるのは予想できたから、魔獣を殺しながらどんどん奥へ。
サバイバル訓練でちゃんと学んだから、殺した魔獣をさばいて肉にするのも問題なかった。
殺せばレベルアップで強くなるから、どんどん魔境の森の奥地へとわたしは進んでいった。
魔獣が強くなってくると、魔法が必要になってくる。だから、いろいろな魔法を前世の知識の中からイメージして考え出していった。
そうして約3年。
10歳になったわたしは家に戻った。
泣き叫びながらわたしを抱きしめようとした父親……メイルダース辺境伯をワンパンで倒した。
さらに魔境の森の奥で殺したドラゴンを空間魔法の収納から取り出して……今後は自由に森に入る権利を手にしたのだ。
あれは本当に……長い戦いだった。
わたし、頑張った。
「昔はなつかしいとかいうほど、わたしたちは年寄りじゃないでしょ」
「たとえそうだったとしても、なつかしいものはなつかしいのですよ、姫さま」
「そう?」
「ええ、そうです。そして、置いて行かれたことへの恨みもずっと残っております」
「なんで!?」
「ずっと一緒にいると約束したではありませんか? それなのにまた今回も王都に置き去りにされてしまいました……」
「うぅ……」
アイーダの口調は淡々としたものだ。怒ってるわけじゃない。
だから、わたしにぐさりと刺さるのだ。
「姫さまが魔境の森で3年間も生き抜いたという事実は……いろいろな事情から伏せられているわけですけれど……」
「いや、単純に嫁のもらい手がなくなるからじゃない?」
「あの時……最初は誘拐の可能性もあったので、メイルダースはもちろん、周辺の他の貴族の領地でも盗賊などの悪党どもは城主さまたちによって壊滅に追い込まれたのです……」
「あー、そうだったのか……メイルダース周辺の人間の治安はよかったのはそういう理由か……」
単純にメイルダース辺境伯領の領軍が強いからだと思ってた。
わたしが誘拐された可能性があったから、メイルダースが一族で暴れたのか。
「……今は王都で王家やその他の貴族たちが追い込まれているでしょう」
「あ、うん。そうかも」
わたし個人としては別に恨みとかはないんだけど……。
まあ、仕方がないのかも。
あの王子が悪いでしょ。
「すでに滅亡している可能性もございます」
「あー、うん」
そこでアイーダは足を止めた。
わたしも立ち止まってアイーダを見つめる。
「……姫さま。殴ればどのようなことでも解決できるという考え方は改めて頂きたいのです」
「えぇ……でも、解決するでしょ、だいたいのことは」
「解決はするかもしれません」
「だよね?」
「ですが……必要以上に話が大きくなる可能性が高いと考えられます」
「うっ……」
それは、否定できない。
実際のところ、次から次へと殴っていけば全部解決できるとしても……殴る相手はどんどん大きくなったり、強くなったりするのも間違いないのだ。
魔境の森の奥でドラゴンを倒したみたいに……。
「……殴らずに解決する方法も姫さまは学んでいくべきです」
「でも……」
「姫さまは最強だと思います。どのような問題であっても殴ればいつかは解決できるでしょう。だからこそ……殴らない方法も考えるべきではございませんか?」
アイーダはたぶん正しい。
わたしにだって……殴らない相手もいる。屋台のおばちゃんとか。
普通に、まじめに生きてる人を殴ろうとは思ってない。当然だけど。
「殴らない方法、か……」
「そうです。最終的には殴るとしても、我慢ができるようにしてくださいませ」
「最終的には殴っていいんだ……」
「中には……話が通じない者もおりますので」
「あ、うん。そうかも」
わたしは父親であるメイルダース辺境伯を思い浮かべる。
「……城主さまは話が通じる部分もございますよ?」
「なんで分かったの!?」
「姫さまのことですから」
アイーダはそう言って微笑んだのだった。
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