死んだ貴子が帰ってきた。
私と、鳴海と、貴子は、親友同士で、いつも一緒だった。
……好きになった男性も、一緒だった。
そして、どうやら貴子が死んだ理由は、鳴海にある。
そうして、死んだはずの貴子は、帰ってきた。
最初は、名作ホラー『富江』のような感じになっていくのかしらと拝読していたら、どうもそうではないようです。
まず、ホラーだと思った認識が間違えだったようです。
これは、より複雑で、より悲しい……はずなのに、
はずなのに……
何というか、そこに生きた人は一人もいなくなるという……。
高い文章力と心理描写から繰り出される、
ダークSF作品にございます。
ぜひ、ご一読を。
とても新しい視点で描き出された作品で、「なるほど」と読んだ後に感嘆させられました。
いわゆる、「人格の保持」という問題。
人間の記憶や人格を電子データとして記録し、アンドロイドなどの電子頭脳に移すことは可能かということ。
理論上は可能に思える。けれど、「生身の人間の脳」と、「電子的な頭脳」というハードウェアに違いがあった場合、「中身となっている人格」は、元の状態と同じようなものでいられるものなのか。
計算やデータ処理。それらの作業を行わせた場合、人間は絶対にコンピュータには勝てない。
要するに、生身の脳は、電子頭脳にスペックの面では勝てない。そんな風にハードウェアの性能が違った場合、「インストールした中身」は元の状態を保てるものか。
本作ではそんなポイントに目を向け、「ある出来事」が描き出されて行くことになります。
アンドロイド問題。人格の電子的な保持の問題。これまでのSFで語られてきたテーマに、新しい切り口を与えてくれる作品だと感じました。
一つ「気づき」を与えてくれる、とても斬新な物語でした。