SFってなんらか科学的見地における仮定的な世界観設定を前提に物語を展開を行う手法、だと自分は理解しています。サイエンス要素を色濃く持ったフィクションってことです。
そして、「AIが今よりも人間社会と密接な関係を気づいたら」という、世界観設定である点で、本作はSF、フィクションと言って差し支えないのでしょう。
しかし、そんな本作の世界は、現実世界における思想、文化の描写をも追求しており、限りなく現実社会に近い世界観であり、ありうべき未来の想像というよりも、ほとんど現代社会の行く末のシミュレーションに近い密度を持っていると思います。
そんな世界観の中で投げかけられる問いかけは、ほとんど現実世界を生きる読み手にも向けられたものである、そう思えてなりません。SFという一見クールな見た目で語りつつも、その実、めちゃくちゃ熱い魂の叫びを秘めた作品だと思います。
SFとして楽しむのも大いにありでしょう。しかし、この世界のことについて、大なり、小なり、あれこれ悩んだ経験のある人には、是非挑戦してみてほしい。己自身の思考を試される物語だと思います。
本作『EmberFlight』の魅力は、個性豊かなアシストAIと、そんな彼らの存在を背景にした、「語ること」「語らないこと」への問いにあります。
例えば、人と人とのコミュニケーションにある普遍的な力学……会話の空気を変える質問、場を整える配慮、あえて言葉にしないという選択。
それが教室や講義のちょっとした会話から鋭く発せられ、読みながら自分の立ち位置を問われている気持ちになります。
その個人的なテーマが、火星に生活圏を広げた社会を舞台に静謐に語られます。
群像劇としての視点切替も巧みで、価値観の揺れがテンポよく伝わりました。
大きな事件を見せ過ぎない、静かな予兆も効いています。
読みやすく、次に何が語られるのかを楽しみに追える連載です。