あの夜、ひとりの若者が泥の中を這っていた。
腿を裂かれ、血に濡れ、激しく冷たい雨が顔を叩く。
それでも彼は、砦を目指し、前へ進んだ。
ナブリオーネ・ディ・ブオナパルテ。
のちに「ナポレオン」として世界を制する男の、まだ『誰でもなかった頃』の物語である。
革命に揺れるフランス。
無能な上官のもとでくすぶる若き砲兵士官は、
ある日、一枚の絵を見て、作戦という『絵図面』を描き始める。
名もなき士官が、ベラスケスの名画を読み解き、
恋文を伝線させ、戦略を手紙に忍ばせ、
やがて軍を動かし、砦を落とす。
戦ったのは、銃と剣だけではない。
権力、芸術、知恵、執念――そして自らの価値そのもの。
これは、
歴史に埋もれていた『トゥーロン攻防戦』の真実を、
緻密な筆致と濃密な心理で描き出す、
若きナポレオンの『最初の勝利』の物語。
歴史に名を刻む前のナポレオンが、絵図面に託した夢と野心――⚔️🖼️
四谷軒先生の「画(え)と王と ~トゥーロン攻囲戦、ある内幕~」は、1793年の南仏・トゥーロンにて繰り広げられた攻囲戦を舞台に、“若きナポレオン” が歴史の表舞台へと躍り出る瞬間を緻密に描いた本格歴史小説です🪖🖋️。
物語は、共和国軍の将軍・カルトーのもとに、若き砲兵士官ナブリオーネ(のちのナポレオン)が奇策を提案しに訪れる場面から幕を開けます⛩️📜。
三話構成ながら、文学的かつ構造的な完成度が非常に高く、人物描写、思想、場面転換のすべてに洗練された知性が宿っています🔍🧠。
絵の筆先が歴史の始点となる――その瞬間に立ち会う体験をくれる作品です🖋️👑。
本作が参加した自主企画・三題噺のお題は「姫」「策」「勝負」。このお題が示されたとき、四谷氏は必ず参加される、おそらくは戦国時代か古代中国だろうと勝手に予想し、公開前日の近況ノート予告を固唾を飲んで待ち構えておりました。
そして予告された作品タイトルは「トゥーロン攻囲戦」。ナポレオンの立身出世の足掛かりとなった戦いで、舞台は日本どころかアジアですらありませんでした。
いろいろ疑問が浮かびますが、最大の疑問は「姫」。ナポレオン伝説の初戦ともなれば「策」も「勝負」もアリですが、トゥーロン攻囲戦のどこに「姫」がおるんじゃ! と突っ込みたくなりまして、その勢いで本作を読みました。
……ちゃんといました、姫。この時点でも十分「姫」ですが、将来は国王の義妹になったり、さらには王妃にまでなったりするのですから、文句なく「姫」です。最終的には「婚約破棄されたので元カレの帝国包囲網に加わります!」という、最近流行りのラノベ展開も真っ青なリアル王妃です。
そしてもう一つの謎は、キャッチコピーの「ベラスケスの画」。スペインの宮廷画家とナポレオンがどう関係するのかも、本作の見どころの一つです。
のちに天才的な軍人として世界史に名を残すナポレオンの天才キャリアの始まり、それがトゥーロン攻略戦ですが、いかな天才といえども、しかるべき権限と兵力が与えられなければ、まさに画にかいた餅。
しかし「ベラスケスの画」が、餅ではなく天才を描く運命に導いたのです。
何を言ってるかわからねーという方、是非本作をお読みください!
1793年、ナブリオーネ・ディ・ブオナパルテ――のちのナポレオンは、トゥーロン攻囲戦に参加する。
これは彼が初めて名を上げた戦いです。
この作品は、そのナブリオーネが負傷した砲兵隊長の後任となって、この戦いの指揮を執っていたカルト―将軍に面会することから物語が始まります。
このカルト―将軍が実際はどういう人だったのかはわからないけど、この作品ではとても魅力的なキャラで、蟹の絵を描きながらナブリオーネと会話したりする、ちょっと変わった人として描かれています、
二人の会話が面白くて、実際にこのような話がされていたらいいのにな、と思ってしまいました。
ナブリオーネはカルト―将軍の作戦が不満で、違う策を提案するのですが、カルト―将軍はそれを無視してしまう……というのが史実みたいですが、この作品では少し違った展開になります。
どうなっていくかは、語りすぎになってしまう気がするので、ご自身の目で確かめていただきたいです。
また、この作品は作中に出てくる絵と物語がうまくリンクしていて、とても感心させられました。
作中でベラスケスの絵画がいくつかでてきますが、その絵を知っていると、より楽しめると思います。
知らなくても検索すれば出てくるので、絵を見ながら読むのをおすすめします。
史実にオリジナルの要素をうまく加えて面白く仕上げていて、非常にクオリティが高い作品なので、是非読んでみてほしいです。