大学生の九条マコトは所属するオカルトサークルのメンバーとともに、島根県にある真理弥村を訪問する。その村では人身御供に関する言い伝えが残されており、さらに宿の女将からは教会の鐘が鳴ったら決して外には出ないようにと言い含められ……とホラージャンルで人気の因習村要素を踏まえた内容になっているが、本作ではそこにドロドロの人間関係を描いたサイコホラー要素が絡み合っているからより恐ろしい。
この恐ろしさの中心に堂々と鎮座しているのがマコトの恋人である新田ヒナ。具体的な理由を言わないまま「ママになりたい」と言い続け、街で妊婦を見かけたら突き飛ばしたりもする超激ヤバ物件である。激ヤバなのでマコトへの執着も当然強い。それなのにサークルにはマコトの元許嫁である西洞院アイも所属しており、彼女は彼女でマコトに未練タラタラなのである。こんな環境、因習村とか関係なく絶対ヤバいことにしかならないって! 実際、時々フラッシュバックするマコトの回想では、明らかに××を処理している様子まで描かれているし……。
因習村! サイコな彼女! 怪しい過去! と不穏な要素でゴテゴテにデコレーションされていながらも、ただ設定を盛っただけに終わらず、これらの要素が不気味に調和しており、一度読み始めたら最後、一気に読み続けること請け合いの怪しい雰囲気と勢いを持った作品だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)