『イースト村』2

「ディアお嬢様、これが小麦畑だ」

「あはははは。こんなの見てもつまらないでしょう?それでは、早く、帰りましょうー」


『ロン』と『アース』に連れてこられたのは、黄金色をした小麦畑だった。周囲は小麦畑しかなく、無限に続くかと思うような光景だった。


「綺麗…!!あ、あそこで収穫作業しています!!」

「ディアお嬢様ぁぁ、待ってください!!」

「あ、ちょ、待て」

「ちぃ、これだから貴族は…」


 後ろからあたしを呼ぶ声が聞こえたような気がしたが、あたしにとってそれどころではない。


 収穫作業をしている場所へ、足を運ぶとイースト村の方々が協力して集めたであろう小麦の穂で何かの作業をしてる途中だった。


 そのため、更に近づいて観察してみると、ちょうど、彼等は収穫した小麦を乾燥させた後に行う『脱穀』の作業中だったらしい。


「あたしも手伝いますねー!!」

「お、嬢ちゃん、助かるべ。でも、せっかくの綺麗なドレスが汚れてもいいんだべか?」

「気にしないでくださーい!!」


 まずは小麦を取って上下に叩きつける。この動作は、確か…『叩き付け』だったね。


「あの貴族、嘘だろ…」

「あははは!!貴族なのに平民に混じってるー」


 あたしに感心する暇があるなら、アースとロンも手伝いなよ!!と声を大にして言いたい。


「こっちの小麦の脱穀作業が終わりましたー!!」

「嬢ちゃん、助かったよ。次は腕を見込んで、こっちの分を頼めるべ?」

「はい!!是非、任せてください!!」


 結局、『叩き付け』を終わらせると、『イースト村』の方から次々と『脱穀作業』を任される事となり、あたしは一通り、終わるまで、小麦の穂を上下へ叩きつけ続けることとなった。


ーーーー


「まだ手伝えることはありますかー?」

「いいや、もうないべ」

「いえいえー。少しだけの間ですが、皆様のお力になれてよかったです」

「でも、そのドレスは…」

「いいえ。気にしないでください。あたしは『ベルンルック家』の『公爵令嬢』です。……それに汚れてしまったドレスは、買えば、なんとでもなりますが、こう言った経験は貴重ですからね」

「「「「「ええええええええ」」」」」


 小麦の脱穀作業していた全ての領民の大きな驚きの声が周囲全体に響き渡ることとなった。


「ロンとアース!!あんた達がついていながら、なぜ、止めなかったんだい!!」

「いや、俺達が止める前にディアお嬢様は脱穀作業をしてしまっていたんだ…」

「喧嘩はやめてください!!あたしがしたくてやったことですから!!」


『ロン』と『アース』はあたしの行動を予想できずに、止めるのが遅れてしまった。イースト村の方々は脱穀作業をしている途中だった。


 責められるべき人間は、『公爵令嬢』にもかかわらず、脱穀作業に独断で加わったあたしだ。しかし、彼等は立場上、あたしを責めれない。


 だから、あたしはこんな不毛な喧嘩を止めるために、少しだけ声を大きくして伝える。


「あたし、今日、イースト村へ初めて来ました。当たり前の様に食べていたパンの小麦はあなた方が納めた穀物です。だから、今日は感謝を伝えに来ました。本当にありがとうございましたっ!!」


 ヤジを飛ばされるかもしれない。

 怒られるかもしれない。

 驕りと思われるかもしれない。


 あたしは大きな声で深々とお辞儀をする。


 パチ

 パチパチ

 パチパチパチパチパチパチパチパチ

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ


 大きな拍手が聞こえてきたため、顔を見上げると、その場にいたイースト村の方々もシンリーも先程まであたしの事を悪く言っていたロンやアースまでもが大きな拍手を送っていた。


「ディアお嬢様っつたか?すまなかった!!俺はあんたのことをおままごとだと思っていた」

「あははは。ぼ、僕もごめんなさいー!!」

「いいえ。あたしのおままごとは間違ってないわ。実際、感謝を伝えに来ただけだもの」


 ロンとアースが深々とあたしに頭を下げてきたが別に問題ない。むしろ、あたしが謝るべきだ。


「それではディアお嬢様、戻りましょうか」

「え?うわぁ…日が暮れてる!!あたしのドレスを見たら、ディブロお父様に怒られるかな?」

「十中八九怒られるかと……」

「んー、仕方ないかな!!それでは、皆様、今後も頑張ってください!!また、お手伝いに来ます!!」


 脱穀作業へ夢中になっていたあたしはどうやら、夕暮れまで作業していたらしい。


 シンリーの提案であたし達は小麦畑からディブロお父様がいる方へ戻ることとなった。

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