第三章 ほら吹きなゾンビ
第一話 やってきました北の都
博物誌
彼女の手伝いをするのが、冒険者パーティー〝果てを歩むもの〟の主な役目ってのは聞いたとおりだ。
とはいうものの、その仕事は
リーダーである赤髪の剣士ラオ・ブリンガー
「エルフの時間感覚で期日を考えると死ぬだろうね、こちらが、寿命で」
とのこと。
これに当人たるテレーズ先生は「弁明はしないの。私は多種族に理解があるので。ところでポッケから乾パンが出てきたのであげるの。大丈夫、最大でも四十年ぐらいしか経ってないの」と、言い返していたが、冗談だと思いたい。
冗談で、あってくれたら、いいんですがねぇ……。
はてさて、そんなわけでして、私たちにいっときの時間が出来たという次第でございます。
そうしてこの貴重な
そう、ドラゴンが教えてくれた北の町へ、デュラハンの首から下を探すために付き合ってくれるらしい。
オー、言っていて涙が出そうとはまさにこのこと。
無論、嬉しくて。
「大げさねぇ……」
なんて苦笑するのは、主に私の持ち運びを担当してくれているクロノの
魔法と
というか、手の空いてるのがクロノかテレーズで、テレーズには私を持ち続けるだけの筋力が無かった。
なんて哀しい消去法だろうか。
「贅沢言わない。おねーさんががなんとかしちゃるから」
まったくありがてぇ話だ。
また涙が出そうときた、今度はテメェの情けなさでだ。
「でも、キリィの魔法が有用なことは、みんな認めてるわ」
北の町へとやってきた私たちは、現在別行動をしている。
ラオとテレーズは、冒険者ギルドを通じて、新しい依頼が無いか、前の依頼の続報が届いていないかの確認を。
私たちは、物資の調達をといった具合だ。
もちろんこれには、身体の探索も含まれているのでたいそうありがたい。
涙が(略)。
「魔法、ですかい」
「他にもあるけどね。でも、わかりやすい長所じゃない?」
長所、ですか。
けれども、この旅路の中で色々と試行錯誤をして結果、やはり私が自力で飛翔したり移動たりすることは難しい。
回復行為も出来ないし、筋力をかさ増しするというのも出来ない。
火矢を飛ばしたり、相手の一部を凍らせたり、土地の形を一時的に変えたり、風向きを操ったり、雷を降らせるというのが精一杯だ。
「それだけできれば十分すぎるでしょ。戦闘なんて一瞬の隙が命取りだし。あと、夜営が楽になったわね。水は出してもらえるし、雨が降ってても焚き火をたけるようになったし」
オー、思ったよりも実用的。
なんてサバイバル向きな能力。
繰り返すが、身体がないのでひとりじゃ生き残れないのが難点である。
「なによー、だからあたしたちがいるでしょー」
なんて言いながら、彼女は必要な物品の買い付けを済ませていく。
主に消耗品。着火剤であったり薬品であったり、そして食料であったり。
「おじさん、このリンゴ真っ赤ね。多めに買うから少し安くして? あとドライフルーツと干し魚売ってる店、教えて」
「買い物上手だねぇ、お姉ちゃん。気風もいいし、いいぜ、おまけしとこう!」
前世でも、こういう買い物が出来る人間は地元で愛されていた記憶がある。
クロノには人好きされる
「マジで言ってる?」
無論ガチな話で。
この感覚は、なんでしょうね……歴戦の主婦とかを想像してしまいやすが。
「あー、まー、わかんなくはない。うちって大家族でさ……って、この話前もしたか」
「是非続きを聞かせてくだせぇ」
「物好きねェ。家はそこそこの名家だったけど、使用人を雇うほどじゃなくてね、弟と妹の面倒は全部あたしが見てたわけ。あのまま弟妹が立派になってたら、今頃家でふんぞり返ってたんだろうけど」
なにかあったと?
「
「後者を選んで冒険者になったと」
「そ。当時は色恋なんて考えられなかったし……あー、でも」
彼女が右斜め上を見上げる。
一陣の風が吹き抜けていった。
「ラオのことを思い出しているのですか?」
「びゃっ!?」
落とされかけた。
思いっきり髪を鷲づかみにされて、ケモい顔の前まで持ち上げられる。
「な、なななな、ななっ」
逆にここまで来るとこっちが恥ずかしいぐらい、彼女は真っ赤で、しかもパニクっているのでございやした。
頭頂部の狐耳なんか、さっきからあちこちをキョロキョロしている。
モフい。
こんなとき指があれば、存分に触っていたものを……っ。
「思い出してない! ラオのことなんて!」
「市場で大声を上げられるのはちょっと……」
「キリィが変なこと言うから!」
でも、姐さんはラオが好きなわけで。
「しゅきぃ!?」
……ちょっと心配になるぐらい赤面&テンパる狐の姐さん。
え? アレで隠してるつもりなんですかい?
鈍感の帝王の二つ名を持つ私が、ここしばらくの旅で気が付けたことなのに?
「違うわ、言ったでしょ、色恋とかわからないって」
「じゃあ嫌いですかい?」
「そんなこと言ってないでしょ!?」
涙目で否定しなくとも……。
しかし、これは……思ったより
「アー……よかったら、相談に乗りますが? いま、他のメンツいませんし」
「…………キリィは、れ、恋愛経験、豊富……?」
「人並みですかねェ」
「……………………よし。ちょっと、飲み屋に行きましょう」
というわけで、私たちは場所を移したのだった。
§§
「――どうやって愛を告げればいいかわからないのよ」
すでに酒杯を重ねまくったクロノが絞り出してくる声は、ひどく重たい色合いを帯びていた。
どう考えても先ほどまでの、キャッキャうふふの恋バナトーク全開! みたいな雰囲気ではない。
そもそも恋バナで、愛とかいうド重い単語は出てこない。
「あたしは、ズッと想ってるの。でも迷惑でしょ、ただの仲間に好きとか
別段そんなことはないとさっきから言っているが、聞き入れてもらえない。
こっちの話など、すでに彼女の耳には入っていない。
だって、両耳とも、へにゃっと垂れている。
尻尾だけが、ブンブンと力強く振られ、座っている椅子と、ときたま後方を通りかかる客を吹き飛ばさん勢いだった。
ここは町の中程にある酒場。
私たちは、その端の席に陣取って恋バナ……だったものを繰り広げている。
「ラオは訳有りなの……何かすごく苦しい過去があるってわかってって、踏み込めないわけ。そこに女の人の影がある。たぶん、剣の流派の関係、きっとドラゴンにまつわること、他人が触っちゃダメな部分。でもね、あたしはそれでもって思っちゃって――」
長く続く話。
ときに
ただ、その対象は目前の泥酔系愛が重いケモケモお姉さんだけじゃなかったわけで。
デュラハンとしての優れた集音能力は、周囲で囁かれている言葉も、漏らさずに聞き取ることが出来たからだ。
その中には、いくつか気になるものもあって。
「出たんだってよ〝ジャック〟が」
「ジャック?」
「〝首切りジャック〟――夜な夜な人の首を
「おまえ、バカか? ありゃあ、ほら吹きんとこの――」
そこまで、話を聞いたときだった。
バン! と大きな音を立てて、酒場のドアが開いた。
全員の視線が入り口に集中する。
そこに立っていたのは、まだ年若いヒト種の兄弟で。
彼らは、叫んだ。
ありったけの、大声で。
「〝バケモノ〟がでたぞー!」
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