第8話



ピンポーン♪


インターホンの鳴る音が聞こえて…



「由良〜、憂太君が来てくれたわよー!」


「うんっ、今行くー!」


お母さんに返事して、部屋の鏡でサッと身嗜みを整えて…


階段をタッタッタッっと駆け下りて、大好きな幼馴染の元へ向かう。


玄関で靴を履いて、


「じゃあ、お母さん行ってくるねー!」


そう言って玄関のドアを開けると、門の前に憂太がいつものように立って私を待ってくれてて



「憂太、おはようっ!」


「あっ、うん。由良…おはよう。」


少しだけ暗い声。


あれっ?なんか憂太…元気ない?

どうしたのかな…そう思って、



「憂太、大丈夫?身体の調子でも悪いの?」


なんとなく聞いてみる。


「いや…そんなことないよ。うん。あっ…

でも、やっぱり少し調子悪いのかも。あははっ。」


「そっか。無理しちゃダメだよ。今日はバイトあるんだっけ?」


「ああ、うん。だから今日も一緒には帰れないかな…ごめんね。」



気まずそうな…申し訳なさそうな顔をして、私に謝ってきて、


少しだけ寂しいなって思うけど…前はもっと寂しいって感じてた。


今は…頭のどっかで、じゃあ先輩と会えばいっか。そう思っている自分がいる。



それを自覚して、胸がズキッとするけれど…


少しずつその痛みも軽くなっていて…



彼に優しく、微笑みながら…



「うん、大丈夫だよ。気にしないでね。」


そう答えてあげられる自分がいる。



「じゃあ、学校に行こっか?」


そう言って、彼の手を握ろうとして、


触れた瞬間…ビクッって…


磁石が反発するみたいに、彼の手が小さく跳ねた。




心がザワザワって騒いで…それを抑えつけるように、彼の手をギュッと握った。


一瞬の間があって…彼は私の握り返してくれた。


「どうしたの?」


私が尋ねると、




「ううん。なんでもないよ。」



感情を押し殺したような平坦な声。



トクトクトクトクトクって…


心臓の音が早くなった。



それから学校に着くまで…何を話したのか全然覚えていない。


憂太とはクラスが違うから、昇降口で一旦別れて上履きに履き変えて、


廊下に出ようとしたトコロで…



髪をシルバーアッシュに染めた女が、私の前を通り過ぎていった。



「先輩っ、おはようございますっ。」


憂太の声が聞こえた。


そして私が廊下に出ると…

その女は歩いたまま…憂太に顔を向けて、



「んっ。おはよー。」


その右手は憂太に向けて…小さく振られていて



憂太は笑っていた。



私はあの女を知ってる。


一個上の先輩で、


憂太のバイト仲間で、


学校で有名なヤリマンで、


私の憂太に色目を使うクソビッチ。



あの女の所為で…私の世界は歪んだ。


憂太がバイトなんてしなければ…


あの女に会わなければ…



「ねー、憂太っ?早くクラス行こっ?」


あの女の背中を見ている憂太の腕を掴んで、

自分の方に振り向かせる。



「あっ…うん。」



憂太の顔は笑ってなかった。



心が軋んで。痛いのか…苦しいのか…


よく分かんない。






私の視界の端に映る…


こちらに背を向けて歩いていくクソビッチが、私達の方を振り返って、



クスッって笑ったのが見えた。






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