第9話
「由良また後でね。」
自分の教室の前まで着くと、憂太はそう言った。
「うん、憂太。お昼は一緒にお弁当食べよ?」
「もちろん。じゃあ行くね。」
「うん。」
私が頷くと、憂太は私に背を向けて自分の教室へと歩いていった。
「みんな、おはよう。」
教室へと入って、クラスのみんなに声をかける。
「あっ、由良おはよー!」
「由良、今日も神凪君と一緒だったんだー。いいねー、らぶらぶだねー!」
教室にいる友達が話しかけてくれて、
胸がズキッっと痛いのに、顔は自然と笑顔を作っていて…
「うん、幼馴染だし。ずっと変わらないよー」
笑って答えた。
変わらない。そう思ってたのに。
自分の机に座って、携帯を取り出す。
『今日、会える?』って文字入りのスタンプを送った。
ピロンッ♪
すぐに返信が返ってくる。着信音の少し間抜けな軽い音。
私の後ろめたさが軽くなる気がして救われる。
『いいよ。何かあったなら聞いてあげるね。』
『ありがとう』ってスタンプを送る。
『放課後、ウチで良い?』
『おっけー』ってスタンプを送る。
スタンプは楽ちん。
出来るだけ心が痛いのは少ない方が良くて、
本気じゃないし。
私は先輩に心の澱みを吐き出して
代わりに
先輩は私の身体を使ってる。
先輩に初めて話しかけられたのは2ヶ月前
「君の彼氏って如月と知り合いなの?」
学校の廊下で突然呼び止められて、そう尋ねられた。
「えっ?」
「ああ、突然ごめんね。君と一緒によく居る男子、君の彼氏でしょ?」
「あっ、はい。そうですけど。」
「その男子が如月と一緒に歩いているのを夜に見かけたから…大丈夫かなって心配になって声をかけたんだ。」
私のことを気遣うように真剣な顔で…
先輩は私達の世界を壊した。
「大丈夫です。憂太からアルバイトが一緒の時は家まで送ってるって聞いてますから。」
「心配じゃないんだ?」
「何でですか?」
「如月ってヤリマンで有名なヤツだから。もしかしたら彼氏浮気してるかもしれないよ?」
「ありえないです。憂太は浮気なんかしません。」
「そっか。うん、ならいいんだ。俺は君が心配なだけだったから。もし何かあったら、その時は声かけてね。相談のるからさ。」
その時はそれだけだった。
話は憂太から聞いていた。
バイト先にそういう先輩がいるって。
でも違うんだよって。
先輩の言葉を聞いてから、私は憂太にその女の影を探すようになった。
疑い始めたら…それは沼だった。
一つ一つの言葉…仕草…視線…
女の影はすぐに見つかって。でも影はあくまで影のままで、実体を持っていなかった。
憂太は浮気をしてない。だけど…
不安は染みのように消えなかった。
2週間くらいして…また先輩に話かけられた。
「大丈夫?辛そうな顔してるよ。」
きっと…
そこまで酷い顔はしていなかったと思う。
だけどその言葉は…私の何かを満たした。
「相談…乗ろうか?」
「・・・はい。」
歪みはどんどん加速していった。
憂太がアルバイトの日に会うようになった。
最初はファミレスで。
相談っていうカタチで、私は先輩に憂太には言えない自分の澱みを吐き出した。
それを先輩は聞いてくれた。
ある日、先輩に
「今日はウチで聞くよ」と言われた。
断ることが出来なかった。
その日初めて先輩と身体の関係を持った。
それは代価だった。
もし…憂太と別れることになったら…
先輩は殺そう。
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