ずっと置泥になりそこねて

何か大きな出来事があるわけでもない（いや事故は大事だけども）エッセイですが、繊細な胸の内が文章として流れ込んできます。

空気感や気持ちを表す言葉選び、わずかなニュアンスの違いから伝わる印象の深さは、名人芸のようです。

物言わぬとしても、世界を細やかに見ているから出せる文章は味があり、じんわりと胸に沁みてきます。

繊細で細やか。世界の中では、とてもちっぽけな存在であり出来事かもしれない（それは僕もそうだけど）

でもどこかで、見られたくなくとも、ひっそりと咲いているんだ。

そう思えるだけで、なんか少し嬉しい。

パーソナルスペースに、土足で入られることが、嫌だったそうです。

私は相手の事を知りたい時に、「好きな音楽は？」と聞いてしまうことがあるのですが、
それを嫌がる人もいる……という事を初めて知りました……。

自分を知られるということは、裸にされる感覚になる。なるほど。そうなのかもしれません。
本屋では、挙動不審……という言い方があっているのかは分かりませんが、
あたりを警戒しつつ、ご贔屓の作家先生の本を買うのだそうです。

これも、クラスメイトに、普段の自分を見られるのが嫌だったからだそうなのです。

それは、他人を寄せ付けたくない。独りでいたい。
そういう気持ちでは決してなくて、

どうや…続きを読む

将来の夢も決められない、「置泥になりそこねた」主人公の一人称が、とにかくうまいです。
軽口まじりの自虐なのに、ところどころでグサッと刺さる一文があって、読んでいるうちに気づけば自分の黒歴史まで勝手に思い出させられます。

交通事故も、古本屋バイトも、雨の日の記憶も、どれも「大事件」じゃないのに、描き方ひとつでここまで愛おしくて、苦くて、可笑しい出来事になるんだ…と感心しました。

ビニール傘という“どうでもいい消耗品”を通して、
「人生なんてこんなもんかもしれない」という諦めと、
「それでも誰かと笑いたい」という小さな希望がちゃんと残る。

派手な展開はないのに、読後感はびっくりするほど豊か…続きを読む

進路に迷う少女が、ある日ふと交通事故に遭い、病院や警察署でさまざまな大人たちと関わる物語です。

事件そのものは大きいのに、主人公の内面はどこか世界から距離を置いたまま進み、語りは淡々と自嘲を混ぜつつ綴られていきます。

壊れたビニール傘やヘッドホンなどの象徴が、外界との薄い隔たりを静かに描き出し、出来事が意味へと変換されないまま積み重なっていく構造が印象的でした。

最後に残るのは、変わらない自分をそっと見つめる、そんな余韻でした。