第21撃:《死神》
一真は油断せず、無言のまま、静かにガズラとの距離を詰めていく。
焦りを滲ませたガズラは、じりじりと後退しながら叫んだ。
「ち、ちがう! 俺の命令じゃない! 部下の独断だ……アイツが勝手にやったんだ!」
その言い訳に、一真は表情一つ変えず返す。
「それも含めて、貴様の責任だろう」
静かだが、決して逃れられない重さを帯びた声だった。
さらに一歩、一歩と、一真が迫る。ガズラは怯えた眼で周囲を見渡し、先ほど自分が乗っていた漆黒の魔獣を探し出す。
――いた。
すがるような動きで背を向け、魔獣に飛び乗ろうとする。
「逃がすと思うか?」
一真の低い声が空気を震わせた瞬間、漆黒の魔獣は地面に落ちていった。
すでに首が捻じ切られ、命を絶たれていた。逃げることすら、許されない。
その光景に、魔王軍の残党たちは声も出せず、ただその場に凍りつく。
一真の静かな殺意が、空間ごと支配していた。
「た、頼む……命だけは……まだ死にたくない……」
ガズラは再び命乞いを始めた。涙を流しながら許しを乞う。
だが――
一真の目に、慈悲の光はなかった。
それは、もはや人のものではない。
力強さも優しさも消え失せ、そこにあるのはただ、静かで、冷酷な、処刑者の眼。
地上から見ていた晶たちには、空にいる一真の表情までは見えなかった。
だが、見えなくて正解だったのだろう。
「駄目だ。命を持って償え」
その低い声に、場の空気が一層沈む。
ついに、一真がガズラの目前に到達する。
右腕が、ゆっくりと、確実に、逃げ道を断つように、ガズラへと伸ばされた。
ガズラは形振り構わずに叫ぶ。
「お前ら! 俺を助けろ! なんでも褒美をくれてやる! 早くせんかぁ!!」
だが、誰も動かない。
いや――動けない。
ガズラの顔が、一真の掌に掴まれた。
「い……いやだ……こんな……死に方……誰か……助けて……」
絶望が滲んだガズラの悲鳴を、一真は無言で聞き流し――
「死ね」
それが、ガズラの耳に届いた最後の言葉だった。
次の瞬間、鈍く、乾いた音を立てて、ガズラの頭部が消えていた。
胴体だけが残され、ぐらりと揺れて――大地に向けて落ちてゆき、どさりと音を立てて地面へとぶつかる。
それを合図にしたかのように、魔王軍の残兵たちが、一斉に絶叫しながら逃げ出した。
「じょ、冗談じゃない……あんな死に方……」
「いやだ……いやだ……いやだぁぁぁっ!」
「だずげでぇ……しにだぐない……っ!」
中にはその場で失禁し、震えながら逃げ出す者もいた。
体裁も誇りも捨てて、ただ背を向ける。それだけが唯一の、生き延びる手段であるように。
静かに立つ一真の背が、それだけで“死神”のごとく映っていた。
一真は怒っていた。だが、叫ばず、暴れず、冷静だった。
怒りに任せて感情をぶつけることはない。ただ、怒気が、濃密に漂う。
無事とはいえ、晶に危険が降りかかった――
その事実が、一真の奥底にある怒りの核を刺激していた。
(……俺はなぜ、あの子をここまで守ろうとしてる?)
思考のどこかで、自問する。
晶は、かつての自分と似ていた。家族を失い、孤独の中にいる――
あの頃の自分を、晶に重ねている。それは確かにある。
だが、それだけではない。
この少年を、どうしても守らなければならない。
理由は分からない。ただ、そう“感じる”のだ。
(……不思議な子だ。だが、嫌な感じじゃない)
一真は思いながらも、確実に動いていた。
逃げ出す敵を、一人残らず狩っていく。
空に浮かぶ敵は、残り一体。
その魔族は背を向けていたが、恐る恐る軋む首を回し――
一真と目が合う。
その瞬間、魔族の瞳には、魔族を殺す“死神”が映っていた。
空の敵は殲滅。
地上の残党も、ビルたちがすべて討ち取った。
サラとリューネは、晶とその母子を警戒を解かずに護衛し続け、ビル、ザック、ハンクの三人で、丁寧に、一体ずつ片付けていた。
最後の一体が崩れ落ち――
ここに、魔王軍・空軍部隊との戦闘は終結した。
だが、それはもはや「戦い」ではなかった。
一方的な“蹂躙”――それが、現実だった。
これにてガズラとの戦闘が終了となります。
思っていたより長くなってしまいました。
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