第39撃:《血戦》
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もっと上手い言葉を言いたいですが、言葉が見つかりません…。
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――命が、消えた。
勇者の少年と、魔族の少女。その二人が戦場に血を流し、倒れ伏した瞬間、静かだった空気は裂けるように歪み、戦争は一気に激化した。
クラスメイトが命を落としたというのに、悲しみも、恐怖も、悔しさもない。
まるで感情というものが欠落してしまったかのように、他の勇者たちは冷ややかに前を見据えていた。
むしろ、その目には――興奮の色すら宿っていた。
紫音と柚葉はその異様な光景に、戦場の熱気とは別種の寒気を覚えた。
魔王軍の兵たちが次々と倒れていく。
これまで敵意のない言葉でこちらに語りかけてきた魔族たちも、もはや背に腹は変えられず、無言で剣を取り、迎撃に移っていた。
「なんで……なんでだ! なんでこんな戦いをしなきゃならないんだ……!」
一人の男性魔族が、剣を両手で握りしめ、嗚咽まじりに叫ぶ。
その隣で、女性魔族が震える声で呟く。
「これが……あいつらのやり方なのよ。過激派の連中……。あの子たち、まだ子どもなのに……こんな、こんなのって……」
混乱の最中、先ほど妹を失った男性魔族が、怒りと悲しみに突き動かされ、一人の上級勇者へと斬りかかった。
その目は涙で濡れ、何かを訴えるように見開かれていた。
しかし――その時、信じがたい光景が繰り広げられる。
上級勇者の少年は、傍にいた中級勇者の少年の襟首を掴み、躊躇なく自分の前へと突き出した。
「なっ……!」
魔族の剣は、中級勇者の少年の胸を正確に切り裂く。
「がっ……あ、ああああっ……!?」
「う、うそ……だろ……お前、なんで……!」
血を吐き、倒れ込む中級勇者の少年。その目は、裏切りに対する恐怖と疑問で歪んでいた。
それに対し、上級勇者の少年は唾を吐くように言い放った。
「俺は選ばれた勇者なんだよ! お前みたいな半端モンは、盾になるくらいしか役に立たねえだろっ!!」
その直後、彼は雷撃魔法を解き放ち、怒りと悲しみに満ちた魔族の男を焼き尽くす。
男は絶叫をあげ、肉の焼け焦げる臭いが戦場を包んだ。
それでも、男は死ななかった。
瀕死の身体を引きずり、血に染まった地面を這いながら、横たわる妹のもとへと辿り着く。
「……レイナ……ごめん……な……」
その手が妹の冷たい手に重なると、男の命もまた、そこで尽きた。
紫音と柚葉は、目の前に広がる地獄に、言葉を失っていた。
あちらこちらで同様の惨劇が繰り広げられていた。
戦場は、もう正気ではなかった。
エルサリオンの正規兵たちは、安全圏からそれを傍観し、時折無意味な攻撃を繰り出しては、戦っているふりをしていた。
その顔には、どこか楽しげな笑みすら浮かんでいる。
紫音は叫びながら、一人の中級勇者の少女を庇い、迫る魔族の剣を受け止める。
「待ってくれ! オレたちは……戦いたくなんかないんだ! もう剣を引いてくれ!!」
だが、魔族の兵士の顔には怒りが渦巻いていた。
「ふざけるなっ……! あんたたちが最初に仕掛けたんだろうが! 俺の友達を……あいつを……返せよッ!!」
その言葉が、紫音の胸を容赦なく抉った。
柚葉もまた、必死だった。敵を傷つけるのではなく、戦いを止めるために。
魔法を撃ち、わざと誰にも当たらないように弾道を曲げ、あたりに煙幕を張る。
その隙に、近くのクラスメイト――中級勇者の少女に駆け寄り、叫ぶ。
「お願い、目を覚まして! こんなの、絶対に間違ってるよ! 私たち、エルサリオンに騙されてるんだよ!!」
しかし――その同級生の少女は、血走った目で柚葉を睨みつけた。
「うるさいっ……邪魔しないでっ!! 私たちは、勇者よ!? あいつらは魔族!! 倒して当然じゃないのっ!!」
その声は、まるで呪詛のようだった。
その目に宿るのは、信念ではなく――狂気だった。
紫音と柚葉の呼びかけも、戦場の狂気の渦の中に、かき消されていく。
二人は、ただ祈るように願っていた。
誰かが、気づいてくれ。
この戦いが、間違いであることに――。
この先にあるのは、勝利ではない。
ただ、終わりのない地獄なのだと――。