第41撃:《告げられた真実》
言葉を失った紫音と柚葉に、魔族の男は静かに口を開いた。
その声は低く、しかし揺らぎなく、二人の耳に重く届く。
「君たち召喚された者が、セレフィーネに何を吹き込まれたかは、おおよそ想像がつく。
――魔王軍が、魔族が、人間に仇をなす。あるいは世界を滅ぼそうとしている。そう教えられたのだろう」
紫音と柚葉は、無意識に目を見合わせ、ゆっくりと同時に頷いた。
その反応を見て、男は短く息を吐く。
「だろうな。だが、それは出鱈目だ……いや、まったくの嘘でもない。
黒炎公グラウザーン――あの男は、魔族こそが最も優れ、この世界を統べるにふさわしいと考えている。愚かな思想だ」
「ちょっと待ってくれ……何がなんだか、理解が追いつかない……」
紫音は額に手を当て、困惑を隠せない。
隣の柚葉も、唇をかすかに震わせながら、視線を宙に彷徨わせていた。
男は二人の様子を一瞥し、周囲を素早く見回す。
戦場の喧噪と血の匂い、飛び交う怒声と剣戟の音――それらを背に、彼は短く告げる。
「あまり説明に時間をかけられない。必要最低限だけだ」
そう言うや、男は二人を導き、戦禍から少し離れた小高い岩陰へと移動させた。
エルサリオンの兵からも死角となる、静かな空間。
「先ほども言った通り、時間も余裕もない。最低限だが、状況を説明しよう」
男の視線は真っ直ぐで、言葉の一つ一つが鋼のように硬い。
「今の魔王軍は、穏健派と過激派の二つの派閥に分かれている。
我々、魔王派は穏健派。黒炎公グラウザーン派は過激派だ。
穏健派は他種族との共存を望んでいる」
紫音と柚葉は、思わず息を呑み、その先を促すように黙って頷いた。
「驚いているな。君たち異世界からの来訪者は、魔族が共存を望むと言えば、大抵は信じられない顔をするものだ」
柚葉は視線を落とし、小さく答える。
「……ごめんなさい。確かに、私たちの認識では、魔族は人間に仇をなす存在というイメージが強いです……でも……」
彼女の脳裏に、先ほどの光景がよみがえる。
剣を握りながらも、戦いたくないと叫んでいた魔王軍の兵士たちの姿――。
男はそれを察したように、ゆっくりと言葉を継ぐ。
「確かに、はるか昔はそのような魔族も多かったらしい。だが、少なくとも千年前からは違う。他種族との共存共栄を望む者も多い」
「千年前から……?」紫音が聞き返す。
「ふむ、思わせぶりで済まない。だが最初に言った通り、今は余裕がない。必要最低限だけだ。
グラウザーン派は君たち召喚勇者を利用し、我々穏健派を疲弊させようとしている。
奴らにとって、我々は邪魔なのだ。君たちは……そのための道具として利用されている」
紫音と柚葉の胸中に、怒り、恐怖、悔しさ、そして言いようのない悲しみが渦巻く。
それらを押し殺し、紫音が問う。
「……その、セレフィーネって奴の支配を解除する方法は、ないのか?」
男は首を横に振った。
「一度ここまで深く洗脳されれば、セレフィーネ本人が望むか、あるいは死ぬしかない」
二人の表情に、絶望の色が濃く落ちる。
それでも男は、冷徹な現実を突きつける。
「君たちは逃げたまえ。なぜセレフィーネの洗脳が効かなかったのかは知らない。だが、次も無事とは限らない。
奴の魔眼はスキルに干渉し、洗脳を根付かせる。仮に魔眼で足りなくても、薬を使い、より深い支配をかける。
もし君たちがセレフィーネの手に落ちれば……我々は、君たちも討たねばならない。我々も生き残らねばならないのだ」
紫音も柚葉も、絶望の淵に沈まぬよう、必死に心を踏みとどまらせていた。
戦場の喧噪は遠く、しかし現実は容赦なく近づいてくる――。
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