第56撃:「焚き火の灯りの下で」
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一真はナイフを手に取り、ブレードブルの解体を始めようとした。だが刃は体毛に阻まれ、皮膚にすら届かない。
「ふむ……普通のナイフじゃ無理か。仕方がないな」
そう呟くと、一真は軽く息を整え、封神拳の呼吸法を始める。
仙気が練り上がり、指先に集束していく。その手を刃物のように鋭くし、
「よっ! ほっ!」
軽快な掛け声とともに、まるで紙を裂くように体毛と皮を剥ぎ取っていった。
「え、ええ……? 嘘だろ……」紫音が目を見開く。
「剣すら通らなかったのに……素手で……」
柚葉も声を失い、ただ目の前の異常を凝視する。
そんな二人を横目で見ながら、焚き火の準備をしていた晶が、穏やかに口を開いた。
「最初はビックリしますよね。一真さんと一緒にいると……常識ってなんだろう、って思っちゃうんです」
そう言いながら、キリモミ式で火を起こそうとする晶を見て、柚葉がハッと気づく。
「あ、晶くん。火なら私が!」
手を差し伸べ、小さな魔法の火を生み出す。それを枯れ枝に近づけると、すぐに焚き火がぱちぱちと燃え始めた。
「わぁ……! 千歳さん、すごい!」晶の顔が子供のように輝く。
「ふふっ……晶くん。もうそろそろ、下の名前で呼んでほしいな」柚葉は少し照れながら笑みを浮かべた。
紫音も我に返ったように加わる。
「そうだ。いい加減、名前で呼んでくれよ。寂しいじゃないか」
晶は戸惑い、そして少し申し訳なさそうに言った。
「で、でも……ボクなんかが……いいんですか?」
紫音は笑って肩を叩く。
「同い年だろ? 敬語もなし! もっと肩の力抜けって」
柚葉も柔らかく微笑んで頷く。
晶はためらいながらも、ぽつりと口にした。
「じゃ、じゃあ……紫音……柚葉……」
「ふふ、やっと名前で呼んでくれたね。嬉しい」柚葉が目を細める。
紫音も満足げに頷いた。
焚き火の温もりに包まれて、三人の間に和やかな空気が生まれていく。
一真は解体を続けながら、その光景を見て心の中で思った。
(晶のことを気にかけてくれてた子たちも……ちゃんといたんだな)
胸の奥に、ほんの少し温かいものが広がる。
やがて、一真の手によって巨大なブレードブルは鮮やかに解体されていった。ナイフが通らぬ部位は、指先に作った仙気の刃で切り分ける。皮や毛皮、刃角は綺麗に外し、魔石も丁寧に取り出す。
掌に収まった魔石はロックスネークよりも大きく、鮮やかな紫色に輝いていた。
「お? 紫か。こんなのは初めてだな。後で誰かに聞いてみるとしよう」
そう呟きながら、大切に横へ置く。
いつの間にか、三人は会話に夢中になっており、解体が終わったことに気づいて慌てて振り返った。
「ご、ごめんなさい! おじさん、話に夢中で!」紫音が頭を下げる。
「おじさま、他に何かお手伝いできることは……?」柚葉も慌てて続ける。
一真はいたずらっぽく笑い、肩をすくめた。
「気にするな。大した手間じゃない。それより――“おじさん”や“おじさま”は勘弁してくれよ」
そして、真っ直ぐに二人を見て名乗った。
「俺の名前は草薙一真。よろしくな」
紫音と柚葉は、一真の自己紹介に返す。
「オレは天城紫音……敬語は苦手で……なるべく気をつけるよ…気をつけます」
「私は千歳柚葉。よろしくお願いしますね、草薙さん」
「俺のことは一真でいい。その代わり、俺も紫音と柚葉って呼ばせてもらう。いいか?」
そう笑顔を浮かべて言った。
二人は少し頬を染め、視線を逸らしつつも小さな声で「……はい」と返事をした。
そんな様子を見ていた晶の胸に、言葉にならない思いが込み上げる。
(む~……一真さんの……ばか……)
だが、すぐに一真の声がそれをかき消した。
「よし、とりあえず飯にしようか。封神拳を使ったら、もう腹が減って仕方ない」
「封神拳……」紫音が食い入るように問う。
「さっきの、あのとんでもない力のこと?」
「一真さん、教えてください。あれは……スキルじゃないんですよね?」柚葉も続く。
一真は焚き火の炎に照らされる三人を順番に見回し、にやりと笑った。
「ふむ、その辺りの説明は……飯を食いながらにしよう。互いに積もる話もあるだろうしな」
少し日が傾きかけた森に、焚き火の火花が舞った。
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