第64撃:「焚き火に揺れる面影」
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焚き火の炎が、夜風に揺れている。赤く照らされた一真の横顔は、どこか懐かしさを滲ませていた。
「叔母さんは変わり者ということで親戚にも通っていたからな。最初は叔母さんが親戚の集まりに顔を出したことにすら、親戚一同は驚いていたよ。普段はそういうことに参加するような人じゃなかったらしいしな」
それを聞いた柚葉が首を傾げる。
「そうなんですか? 一真さんの話から、勝手に穏やかで社交的な方をイメージしていました」
一真は炎を見つめながらゆっくり答える。
「穏やかな人だったよ。同時に厳しくもあった。ただ、親戚のことをあまり好ましくは思っていなかったらしくてな、ほとんど交流は無かったらしい。交流があったのは、俺の家族くらいか」
晶が静かに口を開いた。
「それなのに、その時の集まりには来てくれたんですね」
一真はうなずき、晶の方へ目を向ける。
「ああ。親戚一同に連絡がいった際、当然叔母さんのところにもいった。その時に、恐らくはそういう事態になるだろうと見越して、来てくれたらしい」
言い終えて正面を向き直り、焚き火を見つめる瞳が少しだけ翳る。
「叔母さんは身体があまり強くはなくてな、それに加えて親戚との仲の悪さもある。親戚は全員、叔母さんが俺を引き取るのを反対したよ。『まともに育てられる訳が無い』ってな」
紫音が思わず声を荒げた。
「一真さん、ごめんなさい。やっぱりオレ、一真さんの親戚たちは好きになれない。それぞれの事情があるのは分かるけど…やっぱり…ズルいよ。自分達は引き取りたくないって言っておいて、叔母さんのことを否定するなんてさ…」
一真は苦笑する。
「まあな。さっきはそれぞれの生活があるとは言ったけど、実は俺もあまり親戚たちは好きじゃなかった。親父たちも最低限の付き合いだったしな」
そう言って、イタズラっぽく笑みを浮かべる。
「だけどな、叔母さんは譲らなかった。『この子は私が引き取る』といって、頑なにな。親戚の中には『お前の目的は遺産だろう』って言って、叔母さんを罵った奴らもいたくらいだ」
三人は一斉に憤慨し、納得がいかない表情を浮かべた。
一真はその様子を見て、穏やかに手を振る。
「そんな顔するな。結果として俺は叔母さんに引き取られたんだ。それにな…叔母さんは、俺の家族が残した遺産には一切手を付けないで、すべて俺に残してくれたんだよ」
柚葉が驚きの声を漏らす。
「え? 一切ですか?」
「ああ、一切だ。衣食住のすべてを叔母さんが賄ってくれた。俺の家の管理も、わざわざ引っ越してきてくれて、叔母さんがしてくれた。病院代、学費、全部だ」
紫音が信じられないという顔をする。
「凄いな…一真さんの叔母さんって。失礼なことを聞いちゃうけど、お金持ちだったの?」
一真は苦笑混じりに答える。
「ははっ、気にするな。…貧乏って程じゃなかったけど、特別裕福という訳でもなかった。叔母さん曰く、ずっと一人暮らしで、特に趣味も無かったから、自然に貯まったって言ってたけどな……それは本当じゃなかった」
晶が小さく問い返す。
「本当じゃなかった…?」
「ああ。嘘ではなかった。しかし、全部が本当じゃなかった。叔母さんだって人間だ。やりたいこともあれば、欲しいものもあったはずだ。でも多くの『欲』を我慢して、何かあった時のために貯めていたんだ。その蓄えを…俺のために、全部吐き出した。それでも足りない分は働いて稼いでくれた。身体が悪かったのにな。俺が資産を使うと言っても、頑なに首を縦には振らなかった」
それを聞いた柚葉が、少しの間をおいて口を開いた。
「一真さんの叔母さんは、そこまで一真さんのことを…」
その言葉に一真は答える。
「ああ。幼い頃の俺は、あまり叔母さんには会ったことはなかったがな、それでも、会ったときには可愛がってくれた記憶がある。まるで、自分の子供のようにな」
三人は息を呑み、焚き火の爆ぜる音だけが夜に響く。
ふと晶が、申し訳なさそうに問いかけた。
「その…叔母さんはご結婚はなさらなかったんですか…?」
一真は苦くも優しい表情を浮かべる。
「そんなに気を使うな。…ああ、叔母さんは結局最後まで独身だったよ。生涯に一人だけ愛し合った男がいたらしいが、死に別れた。その後も、その人を想い続けていた」
柚葉が胸に手を当て、呟く。
「死に別れたなんて…悲しすぎます…。でも、一真さんの叔母さん、綾女さんって…本当に素敵な方」
一真は嬉しそうに微笑む。
「ああ。本当に素敵な人だった。俺の…もう一人のお袋だ。本人は最後の瞬間まで『お袋』って呼ぶことを許してくれなかったけどな。「お前の母親は義姉さんだけだ」って言ってな。最後に一度だけ、そう呼ばせてくれた」
焚き火がぱちりと弾ける音に、三人は泣きそうになりながらも、何も言えずに炎を見つめ続けた。