第65撃:「叔母の抱擁」
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三人は必死に涙をこらえていた。一真の言葉に込められた、綾女に対する信頼と親愛が感じられ、油断すると涙が零れそうになる。
口を開いたのは紫音だった。
「そ、そういえばさっき、叔母さんのお陰で姫咲さんに出会えたって言ってたけど、どういう経緯で?」
一真は思い出したように頷いた。
「ああ、そういえばもともとは、姫咲さんとの出会いって話から始めたんだっけな。叔母さんと姫咲さんは、昔からの親友だったんだそうだ」
それを聞いた柚葉は目を丸くした。
「へぇ、そうだったんですね。なんだか、不思議な縁ですね。よろしければ、その辺りのことも教えてもらえますか?どのようにして、引き合わせてもらったのか」
一真は少し考えるように間を置き、そして答えた。
「ふむ、順を追って説明すると、少し気恥ずかしい気もするが……」
そう前置きしてから言葉を紡ぐ。
「俺は叔母さんに引き取られたあと、しばらくはひどく荒れていてな。やり場のない感情を持て余して、ひどく無茶をした」
晶と紫音と柚葉の三人は息を呑んだ。今の一真からは想像できない過去だ。
一真は三人の様子を見て、苦笑を浮かべながら続ける。
「我ながら酷かったさ。その頃の俺は、何もかもに絶望してた。家族と死に別れたというより、家族に置き去りにされて、一人ぼっちになってしまったと……そう感じていたんだ。世界中で、俺はたった一人だと」
それを聞いて晶はドキリとした。なぜなら、晶も家族を失った時、まったく同じ気持ちになったからだ。
焚き火の音がぱちぱちと弾ける中、一真の淡々とした声だけが場を支配する。
「毎日無茶をして、年がら年中喧嘩に明け暮れた。自分から危険に飛び込んでいった。それまでは面白がって俺とつるんでいた連中も、次第についていけないと言って離れていったよ」
事実をただ語るだけの調子。だからこそ、言葉には重みがあった。
「叔母さんはいつも俺を心配していた。俺が迷惑をかけたところに謝りに行って、俺の代わりに頭を下げることになっても、心配して注意をすることはあっても、俺を怒鳴ったり、見捨てたりすることはなかったな」
場に沈黙が落ちる。焚き火の音が、ますます鮮明に響いた。
「でもある日、俺は命を危険にさらすような真似をした。詳しくは伏せるがな。その時、叔母さんは初めて俺を怒って、そして叩いた」
三人の息を呑む気配が伝わってくる。
一真は表情を僅かに曇らせ、言葉を継いだ。
「俺を叩いたあと、力いっぱい俺を抱きしめて、震えながら……泣いていた」
ほんの一瞬、その顔に痛みが走る。
「叔母さんは震える手で俺を抱きしめながら言ってくれたよ。『どんな生き方をしても良い。でも、自分や人を不幸にするような生き方だけはしないで』ってな」
一真はさらに続ける。
「そしてその後、こうも言ってくれたんだ。『いい加減、あなたの背負っているものを、私にも分けてよ』と」
一真は三人を見やり、微笑んだ。
「さっき、お前たちが言ってくれた言葉と同じだな」
そして言葉を重ねる。
「その時俺を抱きしめてくれた叔母さんの力はな……驚くほどに弱かった。力いっぱい抱きしめてくれてるのは分かるのに、驚くほどに……弱かったんだ」
懺悔をしているかのような口調に、三人はただ耳を傾けるしかなかった。
「その時、俺の出来の悪い頭はようやく理解した。俺は一人なんかじゃなかったと。叔母さんは俺を引き取ってから、ずっと家族でいてくれたんだと」
そこで一真は顔を上げ、少し明るい声を出す。
「ま、それからだな。叔母さんが俺にとって二人目のお袋になったのは。さっきも言った通り、お袋とは呼ばせてもらえなかったけどな」
冗談めかして笑う一真に、三人の胸が詰まる。
「そこから俺は変われたんだと思う。今まで迷惑をかけてしまった人たちに謝って、喧嘩もやめた。はじめの方に言った通り、叔母さんは身体が弱くてな。その上で俺を育てるために頑張ってくれた。手料理も作ってくれて、遊びも付き合ってくれた。俺が休めって言っても、『子どもとこうするのが私の夢だったの』って言って笑ってな。……みるみる、衰弱していったよ」
一真の声が僅かに震えた。
「俺は叔母さんに、家族の残してくれた金を使うって何度も言った。でも叔母さんはそれを頑なに拒否した。ならばと、俺も働いて稼ぐと言っても、それも許しちゃくれなかった。どんどん弱っていく自身に活を入れ、俺を育てるために働いて、その上、空いた時間に武術も教えてくれた。親父と同じ、形意拳をな」
その瞳に映るのは、過去の情景。
「そんな生活を続けて、俺が十八歳の時に……叔母さんは倒れた」
言葉はそこで途切れた。焚き火の音だけが夜に響く。
もう少しだけ昔話が続きます…
退屈に感じてしまったら、申し訳ありません!