第74撃:師弟の食卓、出立の刻
少し昔を思い出すだけのつもりが……。
何故か過去回想になってしまいました!
なぜこんなことに…。
苦手な方ごめんなさい!
それとブックマーク、高評価、たくさんのリアクション、本当に有り難う御座います!
皆様の支えがあって、いま頑張れてます!
姫咲のイラストですが、カクヨムの近状ノートの方にはアニメ風バージョン姫咲を載せてますので、よろしければそちらも見てくださいね!
一真と姫咲はテーブルに向かい合って腰を下ろすと、静かに食事を始めた。箸を手に取った一真が料理を口に運ぶ。舌の上に広がるのは、深みと優しさを兼ね備えた絶品の味だった。
姫咲に弟子入りしてからの数年、食事はほとんど姫咲の手によるものだった。最近は一人で家事の一切を担おうとする彼女に、一真が「俺もやる」と申し出ても、決まって返ってきたのは「いいから、修行に専念しなさいな」という言葉。よほどの時でなければ、一真が家事に関わることはなかった。
この家――世界各地に点在する姫咲のセーフティーハウスの一つ――での暮らしは、修行漬けで外界との接点などほとんどない。外食なども当然なく、必然的に食卓を彩るのは姫咲の料理だった。
だが、その腕前は一流と言って差し支えない。味だけでなく栄養バランスも考え抜かれ、一真の好物までもが巧みに盛り込まれている。さらに家事全般を完璧にこなし、なおかつ修行の相手まで務めるのだから、彼女がいつ眠っているのかすら分からなかった。
一真は無言で、しかし夢中になって料理を口へと運び続ける。気づけば、かき込むように食べていた。
ふと、手を止めて向かいを見ると、姫咲が頬杖をつき、微笑ましげにこちらを見つめていた。
「ふふっ、どう? 美味しい?」
からかうでもなく、ただ純粋に嬉しそうに尋ねるその声。
一真は一瞬たじろぎ、視線を逸らしながら頬を掻いて答える。
「……まあ、美味いよ。っていうか、姫咲さんは食わないのか? これから戦いに行くんだろ? 食っとかないと持たないぜ。封神拳は燃費が悪いからな」
その心配に、姫咲は唇をつり上げて小さく笑う。
「私は大丈夫よ。あなたより気の運用が得意だもの」
「へいへい、どうせ俺はまだまだですよ」
一真が肩をすくめて苦笑すると、姫咲は目を細めて笑顔を深めた。
「あなたのために作ったんだから、全部食べなさい」
その言葉に、一真の耳まで赤くなる。再び箸を取り、無言で料理をかき込むその姿に、姫咲の笑みがさらに柔らかく広がった。
やがて食事を終えると、二人は出立の準備を整える。先ほどまでの柔和な笑みを消し、姫咲は真剣な表情で一真に向き直った。
「一真。今日の戦いは、あなたに担当してもらいます。今までの私との組手の延長線上にある相手だと考えたら……命を落とすわ」
その言葉に、一真の胸の奥が冷たくなる。数年にわたる修行の日々――だが実戦で他者と戦うのは久方ぶりだ。緊張を誤魔化せずにいる一真を見て、姫咲はふっと表情を和らげる。
「油断は駄目。でも、そんなに固くならなくても大丈夫。私がこれまであなたに叩き込んだものを思い出して戦えば……今のあなたなら必ず勝てるわ」
その言葉に励まされ、一真は頬を両手で叩いて気合を入れた。
「……よし!」
その姿を見て、姫咲も一つ頷く。
「それじゃあ、行きましょう。悪神の使徒を倒しに――もとい、下っ端退治のデートにね」
そう言ってウインクする彼女に、一真は苦笑を浮かべつつも気を引き締める。
家を出ると、竹林に囲まれた清冽な空気が二人を包んだ。人里離れた地にひっそりと建つこの隠れ家は、修行に最適な場でありながら、どこか現実離れした静謐さを漂わせている。
「それにしても、本当にここが日本か、たまに疑いたくなるな」
一真が呟くと、姫咲は楽しげに返す。
「探せば結構あるものよ。こういう人目につかない場所はね。私たちは世界中を飛び回る必要があるから、隠れ家を各地に用意してあるの。山奥とか洞窟の奥深くとか……海の底なんてのもあるわよ」
「海の底ぉ? 本当かよ……」
半信半疑の声に、姫咲は愉快そうに笑った。
「いずれ案内してあげるわ。楽しみにしてなさい」
一真はふと気になり、問いを投げる。
「さっき“戦う者たち”って言ったけど……悪神と戦ってるのは、姫咲さん一人じゃないのか?」
「当然よ。いくらなんでも私ひとりじゃ世界中を見きれないわ。裏で協力してくれる人たちが大勢いるの」
そう答えてから、姫咲は表情を引き締めて言葉を続ける。
「さ、本題に戻りましょう。これから悪神の使徒を討伐に向かいます。場所は――この日本。上手くいけば日帰りも可能ね」
一真は眉をひそめ、問い返す。
「……で、どうやってそいつのところまで行くんだ? 走ってか?」
姫咲は小さく微笑み、さらりと言い放った。
「そうね。走って、よ。ただし――」
そこで一度言葉を切り、わざとらしく楽しげに続ける。
「天駆空歩で、空を駆けてね」
その瞬間、一真の顔がげんなりと歪んだ。
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