第94撃:黒き魔石と揺らぐ心
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また今日も遅くなってしまいました…ワタクシ反省です…。
一真は慎重に横たわるダスクハウンドに近寄り、しゃがんでその生死を確かめた。
「……よし、今度こそ大丈夫だな」
気配を探っても、確かに何も感じない。息絶えているのは間違いなかった。安堵の吐息を洩らし、一真は立ち上がると、三人へと声をかける。
「おーい、もう大丈夫だ」
だが三人はすぐには動けなかった。
一真と出会って間もない紫音と柚葉はもちろん、この世界で行動を共にしてきた晶ですら、先程の一真の戦いぶりを目の当たりにして言葉を失っていたのだ。
紫音は心のなかで驚愕の事実を反芻し、戦慄する。
(オレはいったい、何を見たんだ……? あんなの、漫画やゲームの中の戦いじゃないか…。この世界でレア度の高いスキルを得ているならともかく……)
そこまで考えて、紫音は自らの思考を否定する。セレフィーネの思惑通りに魔王軍の穏健派と戦ったとき、同級生には上級勇者も何人かいた。剣王の資質、雷の支配者、武王――そう呼ばれるスキルを授かった者もいたはずだ。
それらのスキルを授かった者たちの戦闘力は目を見張る物があった。
平和な日本の学生であるクラスメイトたちは、同然のことながら命をかけた戦いの経験など無い。
紫音は家が剣道道場を経営していることもあり、紫音自身も幼少期の頃から、父により剣道を仕込まれてきた。しかしそれも、命をかけたものとは違う。
強力なスキルを得たクラスメイトたちは、紫音とは違い武道の心得すら無い者たちだ。精々学校の授業で習った程度。そんな者達がスキルだよりで、戦場ではやりたい放題をしていた。
紫音自身、自らの剣術適正というスキルと、上位スキルとの格差に辟易としたほどの強さを誇っていた。
だが――今見た光景は、その価値観を根底から打ち砕いた。
(……剣王の資質? 武王? ……さっきの一真さんの戦いと比べたら……)
常識が崩れ去る音を、紫音は確かに聞いた気がした。
それほどの戦いを目撃したにも関わらず、不思議と一真に対する恐怖は微塵もない。ただ、心身が衝撃に耐えられず固まってしまっただけだった。
柚葉もまた同じだった。
(封神拳……仙術……。昨日の牛の魔物を倒した時から普通じゃないとは思ったけど……。でも、あの戦いは……本当に神様を倒すための技、なの……?)
晶も固まっていたが、二人とは違う理由を抱えていた。
一真の強さが常人離れしているのは最初から分かっていた。今回の戦いでその認識はさらに塗り替えられたが、それでもまだ二人よりは素直に受け入れられる。
――では、なぜ動けないのか。
それは地面に横たわるダスクハウンドの死骸。いや、そこから放たれていた瘴気が原因だった。
その瘴気を感じた時、晶の中で得体のしれない不快感と恐怖、そして、この瘴気の大本を放おってはおけないという強い思い。
(なに……? どうして……? あの黒い靄を見たら、胸の奥がざわついて……『守らなきゃ』なんて……どうしてボクが……?)
自分でも分からない感情に囚われ、動けずにいたのだ。
一方、一真は気まずそうに頬を掻く。
(……怖がらせちまったか。悪いことをしたな。最初から魔石なんて諦めて、強力な技で一気に片をつけるべきだったかもしれん)
そう思いつつ三人の元へ歩み寄り、柔らかい声で呼びかける。
「怖い思いをさせてしまったな、すまなかった。……大丈夫か?」
二度目の問いかけで、ようやく三人の思考ははっきりと動き出した。
「あ、違うんだ一真さん! ちょっと驚いただけで……怖いとかじゃないって!」
紫音が慌てて声を張り上げる。
「そ、そうです! 紫音の言う通りです。……守ってくださって、ありがとうございました。ずっと……守ってくださって……」
柚葉もすぐに言葉を重ねる。
「ボ、ボクも……怖くなんてありません! 一真さんを怖いなんて……一度も思ったこと……」
晶も涙をにじませながら訴えた。
三人の言葉に、一真は小さく笑みを浮かべる。
「そうか。なら良かった」
気を取り直し、ダスクハウンドの亡骸に視線を向ける。
「じゃあ、あの魔物から魔石を取り出すから、少し待っててくれ。戦闘で傷んじまったが、甲殻なんかは売れるかもしれん。とっておこう」
そう言って死骸の傍らにしゃがみ、仙気で刃を作り出し、解体を始めた。
核の奥――そこに魔石は埋まっていた。
「……黒い魔石か。これまた初めて見るな」
手に取った魔石を光にかざしながら呟き、さらに硬い甲殻を剥ぎ取っていく。毛皮は傷みが酷く諦め、肉も食用にする気にはなれず森へと埋めた。
その後、ルナリスを呼び、湖の水で手を洗う。
「おーいルナリス、悪いが綺麗にしてくれるか?」
「キュ? キュ!」
元気を取り戻したルナリスが嬉しげに鳴き、一真の手を浄める。
汚れを落とした一真は、三人へ向き直り声をかける。
「さて……とりあえず飯だな! 仙気をかなり消耗したからな、腹が減って仕方がない」
そう言った直後――。
『グ~~~~』
大きな腹の音が鳴り響いた。
「……ははっ」
一真が照れくさそうに頬を掻いたその瞬間、重苦しかった場の空気がようやく和らいだのだった。
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