53、ミミット火山 〜タイガの作戦
タイガさんは、魔王サラドラさんには、本当の作戦は伝えないつもりのようだ。
魔王スウさんも、それに同意して、魔王サラドラさんを、外にマナを集めに行かせたみたいだ。
僕達が今いる部屋は、魔王サラドラさんの火山の地中にある密談部屋だそうだ。
ここには、サラドラさんの結界だけでなく、生首達が認識阻害のバリアを張っているらしい。ワープや転移での出入りができないから、他のワープワームも偵察に入れない鉄壁の密談部屋だという。
(だから、ここに集まっているんだ)
「ほな、合図したら、隠れとる神々を殺して星へ追い返すんや。スピードが必要やで。まずは、地底や。ザコは、わざと逃がしとけ」
(僕は、作戦を知らない……)
タイガさんの話に、僕達より前からここに居た人達は、頷いている。
「ちょっと、タイガ、私達にもわかるように話してよぉ」
ドラゴン族の前魔王マーテルさんは、甘えるような声を出している。妖艶すぎる。男性はメロメロになりそうだよな。
「うるさいわ、おまえらには、ザコは寄って行かんから、関係あらへんやろ」
(えっ……ばっさりと……)
「やーね〜。短気な男は〜」
そう言いつつも、マーテルさんは、何も気にしてないみたいだな。
「地底が終わったら、地上や。ザコが逃げて行ったから追いかけて来たってことにするで。迷宮は、一番最後にしとけ。厄介な奴が溜まっとる」
タイガさんの作戦は、襲撃する順番ってことかな。うん? 襲撃? 一方的に、いきなり?
(それって、こっちが邪悪すぎない?)
「タイガさんも参加するのぉ? 女神様の側近すぎる側近でしょぉ? ジャックさんは、家出したことになってるわよぉ?」
(あー、そうだよね)
ジャックさんは、女神様とケンカしたことにするって言ってたけど、タイガさんは……。
「俺が動くわけにはいかんやろ。城に入ってくる奴がおったら、サクッと狩るけどな」
(だよね、作戦の確認に来たのか)
「じゃあ、ここには何をしに来たのぉ?」
マーテルさんの目つきが鋭くなった。
「おい、おまえ、睨むなよ。ちびるやんけ。俺は、衣装の納品や」
(ゾンビの服?)
「ふぅん、でも、サラドラちゃんを欺きつつ、狩りをするには、何か、キッカケがいるわよ」
「わかっとるわ。それを、サラドレに一斉送信させるんやんけ」
(また、名前間違えてる)
魔王サラドラさんが、戻ってきた。頭の上の花が眩しいくらい輝いている。
僕が見ていることに気づくと、彼女は、エッヘンとふんぞり返った。僕の半分くらいの背丈だから、他の人には彼女のポーズは見えていないみたいだけど。
(ちょっとかわいい)
そして、魔王スウさんに何かを返している。マナを集める魔道具なのかな。
魔女っ子のスウさんは、それを受け取りつつも、しかめっ面だ。タイガさんが持ってきた衣装が嫌なんだろうな。
僕が大魔王を狙う手伝いなら、他の魔王は、ゾンビ服を着る必要はないよな。
クライン様は、ゾンビに化ける気マンマンだけど、それは、大魔王様が悪魔族だからだよね。
「おい、サラドレ、俺の言う通りにしゃべれよ」
タイガさんは、わざと名前を間違えているんじゃなくて、間違えて覚えているのかな。
「ちょっと、あんた、あたしの名前、10回連続で間違えてるよっ」
「は? んなもん数えとるんか。おまえ、めっちゃヒマやのぅ。さっさと始めるで」
タイガさんはニヤッと笑った。あー、わざと間違えた名前を使ってるんだ。よくわからないけど……魔王サラドラさんが、ムキーッと怒るのが面白いのかな。
タイガさんは、何人かに目配せして、魔王サラドラさんの頭に手を置いた。彼女は、一瞬ムッとしていたけど、身体全体が、赤く光り始めている。
『魔族の国のみんな〜、名探偵サラドラちゃんからのお知らせだよっ』
(念話?)
めちゃくちゃ大きく聞こえる。近くにいるからかな。
『神族のライトさんが、大魔王の座を狙ってるっていうお知らせの続報だよっ。なぜ、狙ってるのか謎だったけど、わかったの。女神様とケンカして家出したから、城に帰れないみたいだよっ』
彼女は、タイガさんからの話を、自分の言葉に直して話しているみたいだ。彼女の頭の上の花が、激しくぴこぴこ動くんだよね。
『それでねー、ライトさんは死霊だから、配下ってだいたい弱いじゃない? だから、他の星から来た神々を全員配下にするんだって。うん? ちょっと……違うかぁ。もう、配下になったみたいだよっ』
(はい?)
『外来の魔物は、ライトさんに言えば、全部駆除してくれるかもねっ。名探偵サラドラちゃんでした〜』
(あれ? 宣戦布告じゃないの?)
「おい、サラドレ、何をすっ飛ばしとんねん」
「だって、意味わかんないもん。配下にならない神々を殺すなんて、絶対にライトは言わないよっ」
(確かに言わない……でも)
「脅しとかんと、神々は暴れよるで。まぁ、ええわ。今ので、結果は悪くないやろ」
魔王サラドラさんは、手をブンブン振り回して、タイガさんを威嚇している?
彼女は、曲がったことが嫌いみたいだな。
「少し作戦が変わりますね。やることは変わらないけど」
クライン様の言葉に、魔王サラドラさんは首を傾げている。彼女がこういう性格だから、みんなは、彼女に本当の作戦を隠すんだな。
「サラドラちゃんも参加する?」
魔王スウさんが、しかめっ面のまま、彼女にゾンビ服を見せている。
「スウちゃん、何、それ? 全然かわいくないよっ」
「脳筋が持ってきたの〜。さっき、サラドラちゃんが言ってたみたいに、アンデッドって、ほとんどが弱いからさ〜」
すると、魔王サラドラさんの頭の上の花がピコっと動いた。もう、さっきみたいに輝いてはいない。やはり、マナを溜めてあったのかな。
「もしかして、そのかわいくない服を着て、ライトの配下のフリをして街を歩くの? えー、やだ、かわいくないっ」
(リアルにハロウィンだな)
「おまえら、知らんのか? ハロイ島の神族の街でやってる祭りのひとつやで」
タイガさんがニヤニヤしてる。
「ゾンビ祭り? かわいくなーいっ」
魔王サラドラさんは、断固拒否って感じだ。魔王スウさんも、そのために、ずっとしかめっ面をしているのかな。
「そーかー。まぁ、それならええわ。ティアは、喜んでゾンビの服を着て、チビっ子達と怖がらせ争いをしとったけどな」
すると、魔王サラドラさんの目つきが変わった。
「ちょっと、あんた! イロハちゃんが、その服を着てゾンビのフリをして、怖がらせっこして遊んでいたのっ!? 誰が優勝したのっ?」
(あちゃ……ライバル心に……)
「さぁ? まぁ、ティアの優勝はないわ。優勝は、だいたい魔導学校の学生ちゃうか?」
「そう、イロハちゃんは、優勝できないのね?」
「当たり前や。アイツのやることは、中途半端やからな」
魔王サラドラさんは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そう、イロハちゃんには無理なのね。あははっ、できないのねっ。あーはっはっはっは」
(あーあ、知らないよ)
魔王サラドラさんは、タイガさんをビシッと指差した。
「ふふっ、うふふっ。名探偵サラドラに、不可能はないわっ! あーはっはっは」
彼女は、躊躇なく、ゾンビ服を着ている。小さな身体に合わせて、服が縮んでいくんだよな。魔法かな?
そして、赤いワンピースの長さになると、そこで縮むのは止まった。白いかぼちゃパンツがチラッと見えている。
(ゾンビに、かぼちゃパンツはないだろ)
だけど、彼女はドヤ顔で、僕にかぼちゃパンツをチラ見せしてくる。うーむ、どうしよう……。
「それなら、かわいいわね〜」
(えっ? スウさん?)
まさかの魔王スウさんまで、ゾンビ服を着て、魔力で白いかぼちゃパンツを作り出している。そして、まんざらでもなさそうだ。
「ふぅん、魔王のハロウィンって、面白いかも」
振り返ると、ドラゴン族の魔王マリーさんまでが、ゾンビ服にかぼちゃパンツだよ。ちょ、日本人だったんでしょ? ハロウィンのゾンビは、かぼちゃパンツは、はかないだろ。
(でも、そう言うと、台無しか……)
「ふふっ、女の子3人は、仲良しねぇ」
前魔王マーテルさんは、めちゃくちゃセクシーなゾンビ服だ。ドラゴン族二人は、魔法で作り出したんだな。
「マーテルがそんな服を着ると、エロすぎるで。俺はそろそろ消えるわ。なんか、ごちゃごちゃ来よったで」
タイガさんは、そう言うと、階段を上っていった。この場所は、転移できないんだっけ。
「ほんとだ。神々が来ましたね。天使ちゃんのすみかに乗り込んでくるなんて、許せないな」
クライン様も、いつの間にかゾンビ服を着ている。女子魔王達とは違って、本格的だな。一瞬、ゾンビかと思った。
「あたしの領地だよっ。侵入者は消し炭にするんだからねっ」
カタリと音がした。
そこに居たはずのスケルトンの姿はない。見たことのない数人の人も消えている。
「魔王カイが、抜けがけしたわっ。待ちなさいっ!」
魔王サラドラさんも、姿を消した。