54、聖地リガロ 〜巨亀族の領地へ
ミミット火山のあちこちで、キララとした一筋の光が空に上っていくのが見える。あれは、神が討たれて、自分の星に戻るときの光だ。
僕が、階段を上がって、地下の密談部屋から外へ出たときには、もうミミット火山を襲撃してきた神々は、魔王達によって撃退されていた。
(いつの間に?)
「魔王カイさんが、ダントツみたいだね」
クライン様は、ポツリと呟き、ふぅっと息を吐いた。彼の額には汗もにじんでいる。火山でゾンビの仮装は、暑いのかな。
僕と一緒に階段を上がってきた、ジャックさんとレンフォードさんは、ゾンビのコートを羽織っている。
「この服、バリアを張ってあるのかな」
「レンさん、子供用の簡易バリアっす。祭りのときには、水や火を使うから、安全のための仕様っす」
(暑くはないのかな)
僕達以外は、階段から外へ転移していったみたいだ。
この火山を領地としている魔王サラドラさんは、今回の作戦は、ただの牽制だと思っている。
彼女と親しい黒魔導の魔王スウさんが、バレないように上手く誘導しているみたいだ。
だけど、他の魔王達が、ここに襲撃してきた神々を撃退していることに、疑問を感じないのかな。
「ライト、今ごろ、来ても遅いよっ」
ゾンビ服に白いかぼちゃパンツの魔王サラドラさんが、僕をビシッと指差した。
「もしかして、もう撃退したんですか」
「あたしの領地に攻め込んでくる奴は、消し炭よっ」
「すごいですね、サラドラさん」
「そんなに多くなかったからねっ。この服で脅したら、怖くて逃げたみたいだよっ。あーはっはっは」
(サラドラさんは、神を殺してないみたいだな)
アンデッドの魔王カイさんが、一番多く倒したんだな。他にも、ドラゴン族の二人、黒魔導の魔王スウさん、ノームの魔王ノムさん、リザードマンの魔王……。
ここって、いま、地底のかなりの戦力が集まっているよな。彼らは、僕達の方へと戻ってきている。
『ライト、また向かってくる奴らがいる。魔王カイが、迎撃してくるとしよう。アンデッドを舐めている奴らには、心底、腹が立っていたのだ』
「あ、はい。気をつけてください」
魔王カイさんからの念話に返事をすると、彼は、配下を連れてスッと消えた。いま、僕にわざと行動の説明をしたのかな。
「ライトさん、すごぉい。もしかして、魔王カイを従えてるの?」
ドラゴン族の魔王マリーさんが、目を輝かせている。
「いや、別に、普通に話しただけですよ?」
「魔王カイと話せる人なんて、いないよ? アイツは、自分の結界内でしか話せないんだよ」
「あー、でも、念話ですから」
「いやいや、アイツは念話しかできないから」
(そうなのかな?)
「短気な奴だけだったな」
クライン様が、どこかを見て呟いた。
「そうっすねー。さっきの魔王サラドラさんの念話にカチンときた人達だけっすね。罠だと考えた神々には、動きがないっす」
ジャックさんも、何か考えながら話しているみたいだ。いや、念話しているのかな。
突然の襲撃は、そういうことだったんだ。魔王サラドラさんが、地底全体にあんなお知らせをしたから、僕の配下だと言われた他の星からの侵入者が怒って、攻めてきたんだな。
でも、罠にも聞こえるよな。ってことは、動きのない神々の方が、賢くて厄介なのかも。
「あっ、爺ちゃんが動くって言ってきたよ。ははは、これでだいたいが片付きそう」
クライン様は、他の魔王達にも聞こえるように声を張っている。クライン様の爺ちゃんって大魔王だよね。
「なぁに? メトロギウスが、うらやましくなっちゃったのかしら? ふふっ、狩りをする理由ができたものね」
ドラゴン族の前魔王マーテルさんは、楽しそうな……好戦的な笑みを浮かべている。
一方で、他の魔王達は、少し警戒しているみたいだ。地底の種族間の関係は、なんだかややこしいもんな。
この火山を領地としているサラマンドラの魔王サラドラさんは、ドラゴン族と親しいと言っていた。そして、女神様をめちゃくちゃライバル視している。
僕が世話になっていたリザードマンは、悪魔族に従っている。リザードマンの魔王も大魔王様の忠実な下僕みたいだ。
黒魔導の魔王スウさんは、種族に関係なく、みんなと親しくしたいらしい。そのために、ゴミ城を演出して、片付けられない彼女を、彼女の城に避難している人が助けている。
ノームの魔王ノムさんは、よくわからない。魔王スウさんとは普通に話すけど、他の魔王への警戒心が強い。頑固者のように見える。
アンデッドの魔王カイさんは、アンデッドとしか話さないみたいだ。異常な女神信者に見える。女神様のためだと納得したからか、外来の神々の排除に一番積極的だな。
ドラゴン族の魔王マリーさんと母親のマーテルさんは、神族の街との関わりが深いみたいだ。魔王マリーさんは、元日本人で、マーテルさんはもともと外来のドラゴンらしい。強いんだろうけど、大魔王は悪魔族なんだよな。
クライン様は、悪魔族だけど、他の種族とそれなりに良好な関係を保っているみたいだ。リザードマンは、クライン様にめちゃくちゃペコペコしているけど、他の魔王は、クライン様を呼び捨てにする人も多いんだよね。
「……という感じでいこう。ライト、わかった?」
「へっ? クライン様、なんですか?」
「聞いてなかったの? これからの作戦だよ」
(考え事をしていたとは言えない……)
あっ、クライン様は苦笑いだ。僕の考えがわかってしまうんだった。えーっと……。
「ライトってば、そういう所は見た目どおりのチビっ子ねっ。大人の話がつまんないんでしょ。名探偵サラドラの目は、ごまかせないわっ」
僕をビシッと指差す彼女……ゾンビ服に白いかぼちゃパンツの魔王サラドラさんのドヤ顔に助けられた。
「す、すみません」
「ふふん、まぁ、ライトは、チビっ子だから仕方ないわねっ。クライン、説明してあげなさいっ」
(サラドラさんの方が、小さいじゃないか)
「ライト、爺ちゃんが、ライトの配下についた神々を潰すという理由で、動くことになったんだ。隠れている神々を捜し出して狩るって。死んだら生き返らない配下は、捕まえてハロイ島に送るらしいよ」
「ハロイ島に?」
「うん、ハロイ島には、この星への出入り口の門があるからね。その門のある草原を守る精霊ヲカシノ様が、大きな檻を作ったらしいよ」
「精霊ヲカシノ様……」
(知らない名前だ。精霊もたくさんいるのかな)
「ライトの協力者は、タイガさんの作戦どおりで動く。俺達は、巨亀族の領地に行くよ」
「巨亀族って、タトルーク老師の?」
「そうだよ。爺ちゃんも、元大魔王の領地には攻め込みにくいって。でも、ライトには、老師の所に行く理由があるだろ?」
「うん?」
(どういうこと?)
すると、ジャックさんが口を開いた。
「ハデナの件っすよ。女神様の警告を無視して、タトルーク老師は、ハデナの休憩施設に足を踏み入れたから、神族としても、制裁を加えることができるっす」
「ライトは、タトルーク老師を追うと言って、あのとき水に飛び込んだだろう? 女神様も追いかけたみたいだけど、魔族の国への道が閉じてしまったらしいよ」
レンフォードさんにそう言われて、地底へ逃れたときのことを思い出した。あのとき、誰かが追ってきたと思ったんだよな。女神様だったんだ。
「タトルーク老師は、青の星系の呪術系の神に操られているみたいだ。爺ちゃんが、地底にいる神々の中で一番危険だと言っている。俺は、ライトの主君として、一緒に行くから」
クライン様が、僕を安心させるような優しい笑みを浮かべた。僕は、コクリと頷いた。
「じゃあ、作戦開始よっ。みんな、行きなさいっ」
魔王サラドラさんが、ビシッと指差している。他の魔王達は、彼女には逆らわないみたいだ。怖いんじゃなくて、たぶん、面倒くさいんだろうな。
「じゃあ、私は、ハロイ島に戻っておくわねぇ」
ドラゴン族の前魔王マーテルさんは、セクシーすぎるゾンビ服のまま、スッと姿を消した。
(えーっと、大丈夫かな? あんな服で)
僕の魔王達も次々と消えていった。
そして、僕の足元には、生首達のクッションが出来上がっている。
「ライト、俺達も行こう!」
「はい」
僕は、生首達のクッションに乗った。すると、すぐに見える景色が変わった。
◇◇◇
「おい! 何の用だ!」
生首達のワープでやってきたのは、巨大な門の前だった。入り口から、ちゃんと入るんだな。
普通の人間の大きさの門番が、僕達に槍先を向けた。巨亀族なのに、人の姿なんだ。
ジャックさんが、一歩前に出た。
「あのー、ここって、タトルーク老師のいる場所っすか? 地名が全然わかんないんっすけど〜」
(うん? 知らないふり作戦?)
「おまえらは、何だ? ゾンビ2人に、後ろはグールか? そのチビは死霊? いや、リッチか。アンデッドが来る場所ではない。ここは、巨亀族の領地、聖地リガロだぞ」
(地底に聖地? 何それ)