88、見知らぬ砂漠 〜転移事故?
暗い……。僕は、眠っていたのかな。
頭が痛い。気分が悪すぎる。転移酔いみたいな感じだ。自分に回復魔法を使ったところで、僕は、なんだか違和感を感じた。
迷宮の中の休憩所にいたはずなのに、外なんだ。空には星が見える。
(なぜ、星が見えるんだ?)
この世界では、昼間は黄色い太陽が昇り、夕方からは、赤い太陽が昇る。別の大陸では、夜は青い太陽が昇るらしいけど。
地底には、太陽はないけど、ずっと明るい月のようなものに照らされている。地底の空には、星はない。
(どういうこと?)
ゆっくり上体を起こすと、身体を覆っていた砂がサラサラと落ちた。いや、覆っていたというより、僕が砂に埋まっていたのかな。
周りを見回してみたけど、何もない。地面は、サラサラな砂しかない。しかし、暗いんだよな。
僕は、半分アンデッドなのに、なぜこんなに夜目がきかないんだろう? なんだか、目の前に、真っ暗な闇がまとわりついているかのようだ。
暗い砂漠にひとりぼっち……じわっと涙が出てきた。
(だめだ、泣いている場合じゃない)
立ち上がろうとすると、何かが引っかかる。
(えっ? 人形の手!?)
僕のズボンに人形の手らしきものが付いていて、ギョッとした。だけど、触れると温かい。
(ちょ、人間じゃないのか!)
慌てて砂を掘ると、僕のズボンをつかむ小さな手。暗くてよく見えない。少し引っ張っても動かないんだ。
僕は、身体がありそうな部分をゲージサーチしてみた。
(よかった、生きてる)
体力は、少し減って緑色になっているけど、魔力は青色だ。
確か、青は80%以上、緑は60%以上あるんだよな。その下がオレンジ色、そして赤色、体力が黒色のゲージになっていたら、死んでいるということだ。
小さな手を砂の中から引き抜くべきか、一瞬迷ったけど、霊体化すれば、問題ないよね。
僕は、小さな手を握り、霊体化! を念じた。僕の姿は、青い幽霊になっているだろうけど、小さな手も、壊れたテレビ画面のように見える。
重力魔法を使って、そーっと引っ張ると、やはり予想通りの姿が現れた。
僕が、霊体化を解除すると、小さな身体は砂の上に横たわった。
(一応、回復しておこうかな)
小さな身体に、手を半分霊体化してサッといれ、回復魔法を唱える。
すると、びっくりしたかのように、小さな身体は、跳ね起きた。
「父さん……あ、えっと、ライトくん」
(あー、そっか、名前を呼んではいけないんだっけ)
「ブルーくん、大丈夫?」
「は、はい。あれ? えーっと」
「僕も、今、目が覚めたばかりなんだ。状況が全くわからないから、名前は呼べない。ブルーくんって呼ぶからね」
すると、ブルーくん……僕の息子のシャインは、僕にパッと抱きついてきた。怖がっているのかと表情を覗くと、ニマニマしている。
(ふふっ、よかった)
「僕は、何て呼べば……」
「好きに呼んでいいよ。僕の名前は、珍しくないし」
「じゃあ……小さいから、ライトくん!」
僕が微笑むと、シャインは、ニヘラニヘラと笑う。照れているのかな。
確かに、今の僕は、シャインより少し背が低い5〜6歳児の姿だもんな。父さんとは呼ぶのも変だよね。
「ここは、どこなのかな?」
そう尋ねても、シャインは首を横に振る。わかるわけがないよな。
「どこかに転移したみたいです。ぐにゃっと景色が揺れたから、慌てて父さんをつかんで……」
(やはり、転移酔いだったんだ)
「そっか、何かの仕掛けが作動したのかな。でも、こんな風に星が見える砂漠なんて……」
シャインは空を見上げて、不思議そうな顔をしている。そうか、星の輝く夜空は、初めて見たんだよな。
僕の背中には、珍しくリュックくんが居る。迷宮で背負ったあとに、転移したからかな。
ジャックさんとレンフォードさんは、無事なのかな。迷宮の中で、僕とシャインが消えたから、心配しているよね。
(しかし、暗いな。星の光だけでは、暗すぎる)
ぐぅうぅ〜
シャインのお腹が、悲鳴をあげている。
「ブルーくん、お腹が空いた?」
「えっ、だ、大丈夫です。食べなくても……」
ギュルル〜
(うん? すごい音)
チラッと、シャインの方を見ても、首を横に振っている。
「今の音は?」
「僕じゃないです。父さんの方から聞こえた」
いや、僕のお腹じゃないよ? そもそも、僕は半分アンデッドだから、食べなくても平気なんだ。
しかし、ライトくんと呼ぶと言いつつ、父さん呼びだね。
「何の音だろう?」
周りを見回しても、砂漠しかないんだけどな。
「あっ、父さん、後ろ!」
振り返ると、大きな牛のような何かがいた。見たことがないな。魔物だろうか。
ビタン!
長い舌で、僕達を捕まえようとしているみたいだ。
(リュックくん!)
そう呼びかけると、鎧と剣が現れた。鎧を出すってことは、コイツ、やばいのかな。
『ここでは、魔法は使うな』
リュックくんの声がいつもとは違って大きく聞こえた。すると、シャインがビクッとしている。リュックくんは、シャインに言ったのかな。
僕と目が合うと、困惑した表情を浮かべている。
そっか、いつも、魔法を使って戦っているもんな。魔法を使うなと言われたら、困るよね。
「ブルーくん、僕がなんとかするよ」
「えっ? は、はい」
めちゃくちゃ困惑した表情だな。僕の戦闘力が低かったんだと、思い知らされる。
「リザードマンに剣術を習ったんだ」
「えっ? そ、そうなんですね」
僕は、もしかすると通常時は、息子に頼っていたのかもしれない。
(情けない……)
ギュルル〜
長い舌を振り回す魔物に向かって、僕は跳躍した。リュックくんの鎧があるから、身体能力がかなり増幅されている。
ビタン!
(ふっ、余裕でかわせる)
ビタン!
(げっ! シャインの方に向かった!)
だけど、シャインも動きは速い。余裕で攻撃を避けている。でも、避けるだけだな。人の姿では攻撃は、魔法でしかできないのかな。
「こっちだよ」
僕は、牛のような魔物を挑発し、隙をついて、奴の脚をスッと斬った。
ドドン!
巨体が支えられなくなったのか、魔物は砂の上に転がった。
(トドメを刺すか)
僕が剣を構え直すと、少し離れた場所に、火花が見えた。
『ライト、武装解除するぞ。現地人だ。シャインもライトのそばを動くなよ』
(えっ? リュックくん、何?)
僕の身体を覆っていた鎧が消えた。そして、手に持っていた剣は、小さなタガーに変わった。
タタタと、シャインが僕の近くに駆け寄ってきた。そして、僕の服を掴んでジッとしている。
「大丈夫か!? いま、助ける」
ダダダダダッ!
(銃声?)
ライフル銃かのような音と、火花のような光。立ち上がろうとしていた牛のような魔物は、砂の上に倒れた。
ツンと血の臭いがする。
暗くてよく見えないけど、魔物が倒されたことは明らかだ。
現れたのは、不思議なゴーグルをつけた人達だ。暗視ゴーグルか何かに見える。どう見ても、狩猟用の銃に見える武器を抱えている。
(この世界に、銃なんてあるの?)
火薬の臭いに、シャインは少し怯えているみたいだ。鼻を押さえている。くさいのかな。
「今度は、子供かよ。危なかったな。見回りに来てよかったぜ。言葉はわかるか? 目は見えているか?」
「はい、あの、ここは……」
「ここは、砂の墓場だ。いや、星の名前を尋ねているのか。スチーム星だ。黄の星系の端っこにあるせいか、転移事故でいろいろな種族がやってくる」
「えっ? スチーム星!?」
(そんな星は、知らない)
黄の星系ってことは、中立の星なんだよな。なぜ、ライフル銃を背負ってるんだよ。
「知っているか?」
「すみません、知りません」
「あはは、だろうな。坊や達は、イロハカルティア星から来たか?」
(頷くべきなのかな。でも……)
僕は、シャインの方をチラッと見てみた。相変わらず、鼻を押さえて、僕の服に顔を押し当てている。
「あー、わからないか。子供だもんな。昨日、イロハカルティア星から、かなり大きな箱庭が落ちてきたんだ。もう、すっかり、砂に埋まってしまったがな」
「箱庭、ですか?」
「うーむ、よくわからないが、迷路のような通路と小さな建物が……いや、イロハカルティア星の住人の大きさからすれば、町なのかもしれないが」
(まさか、迷宮ごと転移した?)
僕が首を傾げていたからか、彼らは何か話している。わからない言葉だ。
でも、別に彼らは、特別、大きなわけでもない。人としては大きめかもしれないけど、せいぜい2メートルくらいだよね。
「こんな場所で話していても仕方がない。我々は、転移事故の被害者を保護している。ここは、また、次の何かが落ちてくるかもしれないから危険だ。近くの町に案内する」
「ありがとうございます。でも、転移は苦手で」
「うん? あぁ、魔法のある星から来たのだな。この星では、魔法は使えない。いや、使わないでくれ」
「えっ……」
「魔法を使った場所に、何かが落ちてくる。だから、魔法は、神の社でしか、使ってはいけないんだ」