10.俺にいい考えがある
シルフさんとお別れして、洞窟の中に踏み入った。
中はシーンと静まり返っている。
いくら音が届いてないといっても、これだけ入り口でいろいろやっていたのに確認にすら来ないとは。
見張りを倒したことにも気づかれてないみたいだ。
「エチカはエルフだから暗視能力があるよね」
「ん、どんなに暗くてもばっちり見えるのだわ」
小声で話しかけると、エチカも察して囁いた。
「じゃあ、たいまつは使わないでおこう」
たいまつを買うお金ぐらいはあったから、二本ほど持ってきてあった。
「それだと、スラッドは暗くてなにも見えないんじゃないの?」
「多少は時間がかかるけど、目は慣れるよ。それにゴブリンも暗視能力があるから、灯りがあるとバレバレだし」
この手の洞窟探索だと斥候役を任される盗賊職は、人間よりもエルフやドワーフが断然有利だ。
もちろん、暗視能力を得られるマジックアイテムもあるけど、買うのに2,000ゴールドぐらいかかる。とてもじゃないけど今は無理。
「俺が少し先行するよ。洞窟に入って大地の精霊の力が充分強いって感じたらノームさんを呼んでね」
「任せるのだわ……っ、任せるのだわ~」
大声を出しそうになって、咄嗟に口を噤んで小声で言い直すエチカ。
思わず和んで笑ったら、エチカが照れ臭そうに俯いてしまった。
「さーて、と」
残念ながら俺は盗賊職でもなんでもない。
だから巧妙に隠されたトラップに気づいたり、罠を解除したりできない。
だけど盗賊職の仲間を後ろから眺めていたので見様見真似の動きならできる。
少し広まった場所まで進んだところで、俺は足を止めた。
「どうしたの?」
「鳴子がある」
通路の途中に、動物の骨か何かを紐で吊るした粗末な仕掛けがぶら下がっている。
触れたらカチャカチャ音が鳴って、侵入者を知らせる罠だ。
暗くて見えにくかったけど、特に隠されている感じではなかった。
「こんな見え見えの鳴子に引っかかる人はいないのだわ」
「いや、ちょっと待って」
嫌な予感がして丹念に地面を調べてみると。
「床に落とし穴がある」
「えっ……全く気付かなかったのだわ」
上と思わせて下。
ゴブリンにしてはだいぶ知恵の回る奴がいる。
「ひょっとしたらホブゴブリンか、ゴブリンシャーマンがいるかもしれない」
「シャーマン? それって強い?」
「うん、呪いとかそっち系の魔法が使えるはず」
「ゴブリンのくせに生意気なのだわ」
エチカがフンッ、と鼻を鳴らす。
それにしても落とし穴の位置が巧妙だ。
鳴子を迂回すると、どうしても落とし穴の上を通ることになってしまう。
鳴子は天井からぶら下がってるだけだから、匍匐前進すればギリギリ通れるかもしれないけど……万が一ゴブリンが通りがかったら圧倒的に不利な状況になる。
俺はともかくエチカにそんな危険を冒させたくない。
いや、でも……待てよ。
ひょっとして……。
「ねえ、エチカ。ノームさんを喚んで。できるだけ小さくて目立たないのを」
「いいの? 小さい姿で出てきてもらうと弱い子になるのだわ」
「うん、大丈夫」
不安そうなエチカに笑顔で返し、親指を立てる。
「俺にいい考えがあるんだ」