34.勇者ってそこまで重要なの?
「わあ、急に出てきた~!」
「スラッドなのだわー!」
目を開けると、エチカとシーチャがこちらに走ってくるのが見えた。
どうやら現実に戻ってこれたらしい。
「あ、ここは……」
俺の隣にはレメリが立っている。
帽子こそ被っていないけど、怪我らしい怪我はない。
「レメリ、おはよう」
「スラッドです……!」
俺が笑いかけると、レメリが嬉しそうにはにかんだ。
でも、すぐに赤くなって俯いてしまう。
夢ではあんなに堂々としていたレメリだけど、これが本来の彼女だ。
なんだか現実に帰ってきたと実感できる。
「おっはよ~、レメリ! 数日ぶり~」
「あ、シーチャです。今までどこにいたのです?」
「それは話せば長いから、後で話すよ」
なんとなくレメリがいつもと違う気がする。
あ、わかった。帽子を被ってないからだ。
「レメリ。お母さんの帽子、シーチャが見つけてくれたよ」
「えっ……!」
シーチャに帽子の残骸を渡されると、レメリが悲しそうに顔をゆがめる。
しかし、そんな彼女を慰めるようにエチカが笑いかけた。
「大丈夫! これぐらいならブラウニーの友達に頼めば直してもらえるのだわ!」
「え、あなた誰です?」
「エチカ! スラッドの新しい仲間よ」
レメリが目を丸くしたかと思うと俺の顔をジッと見上げてくる。
そして自分のぺったんこな胸と、エチカの豊満なおっぱいを交互に見比べた後、今度は頬を膨らませたまま涙目で俺を見る。
えっと……何を言いたいのかはわかるけど、俺にどうしろと。
「ここには家がないから喚べないけど、どこかの子に手伝ってもらえば、帽子を元通りに縫い直してもらえるのだわ」
「それ、本当です!?」
任せてと言わんばかりに胸をぷるんと張るエチカにレメリが食いつく。
どうやらふたりは胸囲の格差を乗り越えて仲良くやれそうだ。
「さて、スラッド。もう一度屋敷に入る前に、ここで情報共有タイムといこうか」
シーチャの提案により、俺たちはこれまでのことを話し合うことにした。
屋敷から少し離れたところで野営を組んで薪火を囲み、そこでレメリを交えてお互いのことを話した。
「アレス、やっぱり嘘をついていたのです」
俺を騙して追い出したことを知ったレメリはぷるぷると震えながら、静かにつぶやいた。
顔には出てないけど、なんというか凄まじい怒りのオーラが漂ってきてる。
「それにしても、アレスはボクらがびっくりするぐらい予想通りの動きをしてるよね~」
レメリはこれまでのことを語ってくれた。
アレスのせいで、たった三人で希少種っぽいワイバーンと戦う羽目になったこと。
もう少しで死にそうだったこと。
危ないところを《二の打ちいらず》でディシアが助けてくれたこと。
自分を運んでくれている間、『聖女』のディシアがずっと励ましてくれていたこと。
アレスが屋敷に立ち寄ろうと強硬に主張したこと。
ディシアが反対していたけれど、自分を休ませるためにアレスに押し切られてしまったことなどなど……。
「会う前から印象最悪のやらかし勇者なのだわ!」
「人として最低の男です。それがアレスです」
完全に意気投合したエチカとレメリが互いに頷き合っている。
「ふたりとも。それでもアレスは勇者だよ」
俺が一言告げると、レメリがため息を吐いた。
「そうなのです……」
「あれでも勇者だからね~……本当に始末に負えない困った話だよ」
シーチャまでも同調する様子を怪訝そうに見ていたエチカが、おそるおそる挙手をする。
「なんだかあたしには話が見えないんだけど……勇者ってそこまで重要なの?」