6.早速ですがドラゴン退治などいかがですかな?
案内された部屋に入ると、ギルドマスターと思しき壮年男性がいきなり土下座をしてきた。
「本当にっ! 申し訳ございませんでしたーっ!! この度はウチの冒険者がとんだ失礼を!!」
「いや……その。本当にそういうのいいので……困るので……」
あたふたしつつもギルドマスターに土下座をやめてもらい、執務椅子に腰かけてもらった。
遠慮とかそういうんじゃなくて、土下座とかされると心苦しいのでやめてもらえると助かる……。
「それにしてもまさか、世界に三人しかいないSSSランク冒険者がうちみたいな零細ギルドに顔を出してくださるとは思いませんでした!」
「ああ、いや……ちょっと手違いがありまして。それに元冒険者ですので。今は違うので」
「ははは、またまたご謙遜をっ! “最弱の竜殺し”に“いるだけ無双”。そして“無敵無職”……これらの称号は海を挟んで新大陸のギルドにも轟いておりますよ!」
「そ、そうなんですか……」
困る、本当に。
そういうのから逃げたかったから『新大陸』に来たのに。
二つ名にもあるとおり、俺自身の能力はどこにでもいる一般人とそう変わらない。
だけど、俺が持っているふたつのユニークスキル……《全自動支援》と《全自動弱体化》は仲間を強くして、敵を弱くする。
そのせいで仲間が大活躍して噂にいろいろ尾ひれがついて、気づいたらSSSランク冒険者ということになっていた。
しかも秘密だったはずのユニークスキルが有名になったので、ものすごく困った。
引退後もいろんなところからのスカウトが止まなくて。
スキルだけ利用してやろうと変な組織が無理矢理に捕縛してこようとして。
名声を上げようとした他の冒険者達に命を狙われたりして。
そういうのが嫌になったから、海を渡って『新大陸』で細々と暮らしていたんだけど……。
いきなり呼び出されたと思ったら、実はその人が昔パーティを組んでた仲間で。
何だか知らないけど「勇者パーティに入ってほしい、いるだけでいいから」と言われて。
昔の仲間の頼みだけに断れず、なりゆきのままに魔王退治の旅に付き合って。
世界のためになるならと思って珍しくはりきっていたけど、結局は勇者にパーティを追放されてしまった。
勇者には俺のユニークスキルを秘密にしておくって話だったし、俺としても助かったから呑んだけど。
そのせいでサボりと勘違いされて追放されてしまったのは、俺を見込んで頼んでくれた友人に申し訳なく思う。
「それにしてもお若く見えますね。四十近いはずなのに、全盛期の肉体を保っておられるとは! 二十代にしか見えません!」
「童顔だとよく言われます」
「何か秘訣とかあるのですかな?」
「いえ、本当に何もしてないです」
勇者パーティの『聖女』と『魔女』にもめっちゃ聞かれたけど、美容のコツとか若返りの秘薬とかじゃありません。
ユニークスキルは《鑑定》スキルでも詳細不明だから《全自動弱体化》が敵対者の若さを吸収してるって説もあるけど、証拠はないです。
ないって信じたい。
「ところで、我がギルドにはどのようなご用件で?」
「えっ、聞いてないんですか?」
ギルドマスターが無言のまま、にこやかに笑っている。
どうやら俺の身元照会ができたところで話がいろいろすっ飛んだらしい。
「その、お金に困りまして」
「ハハハ、ご冗談を」
本当なんですけど。
「SSSランク冒険者ともなれば仕事は好きなものを選び放題、報酬は思いのまま。お金に困ることなどないでしょう」
「いや、俺はどんな冒険でも取り分とかほとんど受け取らなかったんで、お金はそんなに。それでもギリギリ田舎に一軒家を買えたんで、そこで自給自足で暮らしてました。でも、家に帰るだけの路銀もなくて」
「ハハハ、ご冗談を」
そのセリフはさっきも聞きました。
「まあ、とにかく冒険者に復帰して仕事をしたいというのは間違いないですな!」
「あ、はい。それは確かにそうです」
「では、SSSランクで再登録させていただきます! 早速ですがドラゴン退治などいかがですかな?」
「いや、そんな凄まじいのは結構です。こう、薬草採取とかゴブリン退治みたいな恒常依頼を受けられれば……」
一瞬の間。
「ハハハ」
「冗談ではないんですが」
「そうそう、こっちの大陸だとSランク以上の冒険者はギルド加盟店の宿代や飲食代がタダになりますよ」
「それはめっちゃ助かります」
こうして俺は十年ぶりくらいに再び冒険者となった。