7.あたしの名前はエチカ!
「疲れた……」
無事に再登録は終わったけど、ギルドマスターに根掘り葉掘り聞かれた。
体力も気力も一般人並みの俺だけど、それを抜きにしてもああいう人の相手は疲れる……。
「あっ、スラッド!」
何かと思ったら、さきほど絡まれていたエルフ女性だった。
こちらに駆け寄ってくると、大きな胸がばいんばいん跳ねる。
目の保養……いや、目のやり場に困る。
「俺に何か用?」
「いや、その……お礼を言いたくて」
エルフ女性が顔を赤くしながら、もじもじしている。
「お礼?」
「助けてくれて、ありがとうなのだわ」
恥ずかしそうに顔を赤くして、頭を下げるエルフ女性。
誰かに礼を言うのに慣れていなさそうだ。
交易共通語もたどたどしくて、相変わらず語尾が変だけど……なんだか一生懸命ないい子だなーって思った。
「どういたしまして」
お礼に遠慮で返したくないので、笑顔で感謝を受け取る。
余計なお世話かもしれないけど、一応忠告もしておこう。
「今後は気を付けてね。もし男からのセクハラが嫌なら女性限定のギルド支部もあるし、そういうところに行けば絡まれなくなるから」
まあ、そういうところには女同士の派閥争いがあるって話だけど。
「確かに嫌よね。みんなジロジロ見てくるし」
「まあ、そんな恰好してればね……」
こう言ってはなんだけど、彼女はほとんど下着同然の姿だ。
誰だって露出癖があるのかと疑ってしまう。
「これは仕方ないのだわ! 肌を出しているほど精霊との親和性が上がるから……」
「ああ、《精霊の巫女》か。レアスキルだね……っていうことは、自分の意志で取得したわけじゃないんだ」
「もちろんよ! あたしの場合は生まれつきね!」
《精霊の巫女》は女性限定のレアスキル。
なんでも精霊との意思疎通にボーナスが得られるらしい。
《精霊の巫女》を持っている状態で肌を晒していると、精霊との解釈違いが起きにくいのだとか。
「じゃあ、精霊使いさん?」
「そうよ! 精霊と仲良くなるのは氏族の中では一番得意だったんだから!」
精霊使いは精霊を使役するんじゃなくて、友人として頼んで力を借りられる『魔法職』のひとつだ。
精霊使いになった時点でクラススキルの《精霊召喚》を覚えて、周辺の環境に応じた精霊を喚べるようになる。
「ところで、ここで何をしてたのかしら?」
エルフ女性が不思議そうに首を傾げた。
「仕事を探してたんだよ」
俺は掲示板に貼ってある仕事を見繕っているところだった。
彼女が話しかけてきたので、作業は中断しているけど。
「へえ、これがそうなの?」
まじまじと掲示板とにらめっこするエルフ女性。
「うん。ここの掲示板に貼ってある仕事は恒常依頼っていって、いつも発注されてるんだ。ほとんどが簡単だし、受付に持って行けば誰でも受けられるよ」
「へぇ~……」
エルフ女性が一枚の紙をべりっと剥がした。
「これなんかどう?」
「ゴブリン退治だね。記載によるとEランク4人からが推奨らしいけど、Dランク以上なら一人でも受けられるみたいだ」
「そうなのね。だったらEランクとSSSランクのふたりだから問題ないってことよね」
「そうだね。SSSランクがパーティにいるなら受けられ……ん?」
EランクとSSSランク?
なにその不揃いなパーティ……。
「あっ、言い忘れてたのだわ!」
エルフ女性が俺に向き直って、爽やかに笑いかけてくる。
「あたしの名前はエチカ! 花の森シェントリード氏族のエチカよ! これからよろしくね!」
「これから? よろしく? んー?」
俺が困惑していると、エチカと名乗ったエルフは悪びれる様子もなく、自慢げにこう言った。
「あなたは自分の身も顧みず、見ず知らずのあたしを助けてくれたのだわ! もう家族も同然よ! つまり、あなたにはあたしとパーティを組む資格があるってこと!」
「あ~……」
そうだ、忘れてた。
エルフは排他的で余所者に厳しい代わりに、一度認めた相手とは深い友誼を結ぶ。さらに大きな恩には氏族単位で報いる情に厚い種族だってこと……。
そんな大それたことはしてないつもりだけど、エチカはそれぐらい感謝してくれてるってことか。
エルフなら当たり前の価値観なんだろうし、断るのも……う~ん……。
まあ、いっか。どっちみち誰かとはパーティを組むつもりだったし。
「じゃあ改めて。俺はスラッド。スラッド・マエスティ。よろしくね、エチカ」
「ええ!」
こうして俺とエチカは固い握手を交わし、パーティを組むのだった。