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神の園のリヴァイブ - 第四話 後編 宿題
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神の園のリヴァイブ  作者: くしむら ゆた
第一部 一章 異世界の少年
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第四話 後編 宿題

 打ち合いの稽古を始めてからしばらくした頃、一寸(いっすん)は動きを止めて桃に休憩を薦めた。

 言われてみれば日が高くなってから随分と打ち込みをしていた気がすると、桃も其れを承諾する。


 勇魚(いさな)はまだ事務仕事に苦戦中なのか、今のところ顔を出していない。

 領主の息子ともなれば桃とは責任の大きさも違うだろうし、本人は事務仕事が苦手な気質のようだから無理もない。


 一寸(いっすん)(なら)って桃が縁側に腰を下ろすと、彼は室内へ上がっていくなり丸盆をもって帰ってきた。

 盆の上には金平糖と緑茶。なんとも安心する組み合わせだ。


「遠慮なく食べられよ」

「あ、いただきます」

「桃殿は先日の魔猪退治で水の魔法を使ったとか」

「ええ。まだ練習中だったんですけどね。なんとかなりました。」


 桃は金平糖を舌で転がしながら一寸(いっすん)の唐突な話に答え、小さくなってきたころにかみ砕いて緑茶で流し込む。


「私も水の性質の魔法を扱う故、幹久殿から話を聴いた時は驚いたものだ」

「そうなんですか?」

「触れたものを凍結させるだけの単純な物故、桃殿のように器用な事はできぬがな」

「器用だなんて……、うちの爺様はたしか風属性の魔法でしたっけ?」


 幹久の扱う魔法について風の魔法を扱うことは桃も聴いていたが、実際に観たのは先日の魔猪退治の最後に観たあの一撃だけだ。

 それも一瞬だったので、あとから聴いて初めて魔法を使っていたことを理解したぐらいだった。


「うむ。幹久殿の魔法は風。矢羽根を媒体とし矢尻に呪文を刻む事で発動させておる」

「成程……、矢に刻んだ呪文自体が魔法を発動させるための下書きになってるのか……」


 幹久の風魔法が矢にどんな効果をもたらしているのかまでは分からないが、先日の威力もそれなら納得できる。

 桃も魔法を使って魔猪へ攻撃を加えたが、まだまだあの領域には遠い。

 

 桃が魔法を使った旨は当然、恵比寿(えびす)の元にも報告が入っており、魔猪退治の報告の際には特に細かく聴かれた。


 どんな魔法を使ったのか、どれほどの規模の物なのか等だ。

 使った本人は勿論、近くでそれを観ていた勇魚(いさな)視点の話も含めて根掘り葉掘りだったので、家中にもそれなりにどんな魔法を使ったか知れ渡っているだろう。


「ところで桃殿は魔法についてどこまでご存じかな?」

「え?んと。『魔法は自然界のマナを利用する』『誰にでも使えるが、魔力量や得意となる性質の数は血筋や本人の精神性に依存する』とか」

「あとは精密さと威力が想像力に依存すること、そして属性を連想する媒体を必要とすることですな」

「それと、『どの魔物の血が濃く出るかは運による』でしたよね」

 

 この世界……少なくともこの大陸の人間は全て魔物の血をついでいると言っていい。

 

 天災をも容易に起こす頂点の存在、祭魔(さいま)を筆頭として魔物は信仰の対象であり、時に生活を人と共にしてきた。

 人と魔物が子を成すことはこの世界では決して珍しくなく、長い歴史の中で魔物と人とは幾度も交わって来た。

 

 それ故に人はその血筋の中で、何かしらの魔物の血を濃く継ぐ。

 

 そして濃くなる魔物の血は、必ずしも近しい血族からでるとは限らない。

 何世代も前の魔物の血の因子が濃く出ることもある。

 

 古代から紡がれてきた血統の中で様々な魔物の血が混ざっているため、その性質や強さもランダムだ。

 

 先祖の中に強力な魔物と交わったものがいたとしても、その性質が受け継がれるとは限らない。

 強力な魔物の血を継げるかは運の要素も大きいのだ。


 いずれにせよ、引き継ぐ魔物の性質は例えるならソーシャルゲームのガチャのようなものであった。

 

 血筋はピックアップされているキャラクターやアイテムで、そのなかに強力なものが含まれているかはわからない。

 含まれていたとしてもその中から強力な血の性質を受け継げるかは、単発ガチャでSSRを引くようなものだった。


「左様。流石、よく理解しておられる。」

「理屈を理解してるだけですよ。実戦はまだまだです。」

 

「それでも先日の魔猪討伐の折には桃殿の魔法が大層役に立ったと勇魚(いさな)様が申しておった。その歳で話に聴いたような器用な魔法の扱いはなかなか……。天賦の才と言ってもいい。年齢に見合わぬ落ち着きといい、良き才をお持ちだ」

「だと嬉しいですね。でもただ捻くれてるだけかもしれないし、落ち着いているってよりずっと余計なことを考えて鈍いだけかも」


 「ほう。余計なことを」


 実際他の同年代よりは精神的には落ち着いてると桃は自己評価を下している。生前生きた分を合わせれば当然だ。

 それでもその賞賛を素直に受け取れずに濁したのは、自分が素直に受け取っていいものなのか分からなかったからだ。


「うん。具体的に何をて言われると言葉にできないんですけどね。」


 それは嘘だった。

 

 具体的に言葉にできなくとも、どうしてそんな感情を抱いているのか桃は理解している。

 この世界で桃を大切にしてくれる人達に対して、まだちゃんと向き合えていないからだ。

 

 桃はある意味では彼らを騙して育てられ生きている。

 周りの人々に素直になれず、賞賛を受け取っても良いものなのかと考えていた。


 例えば本来の桃でないと分かって、桃として生きることを許されなくなった時、自分は果たして何者として生きていけばいいのだろう。

 なにより桃の本来の魂はどこにいってしまったのだろうか。

 

 考え過ぎなのかもしれないけれど、考えてしまう。

 その思いに対して答え等あるはずもなく、時折泡のように浮かんで消えていく葛藤を抱え込んでいるだけなのだ。


 そしてその葛藤に対する答えを、桃は魔猪の事件以降改めて次元穴(じげんけつ)に求めている。

 

 「今はそれでもよいのであろう。桃殿のこの先の人生で、答えを少しずつ掴み取って、折り合いをつけていけばよい」

 「この先……できますかね?」


「其方は私に何度転がされても立ち向かってくるひた向きさがある。そのひた向きさを忘れなければ大丈夫であろう。たしか以前から桃殿は次元穴(じげんけつ)に興味があるとか」


 「ええ。次元穴(じげんけつ)周りの話を調べれば、俺が知りたいことを知れる気がして。今はそれを知ることが目的、というか俺の夢ですね。ただ、それ以外にも俺魔猪の事件以降ちょっとした目標が出来たんです」


 「ほう?」


 桃の言葉に、一寸(いっすん)はほんの少し目を見開いて興味深そうに話を促した。

 

「俺は家族を失って嘆く人を減らしたい。俺自身も、家族のような蘇芳の人達を助けたい。だからもっと強くなりたい」


 桃が此方の世界に来てもう長い年月が経つが、前の世界で死んだときの両親の表情は今でも頭に焼きついている。

 

 あれはだめだ。


 親しい者に唐突に置いて行かれた、あの表情と声はだめだ。


 本来なら見ること聞くこともできないであろう、己が死んだ後の反応を桃は見てしまった。


 それ以来トラウマなのだ。


 そしてこの世界に来て、その光景はより身近な所で見るようになった。


 この世界は、かつて桃がいた世界よりも容易く命が失われる。

 

 戦争で、災害で、或いは病で。

 生前はニュースの向こうやドラマの光景だったものが、目の前で確かな温度と湿度をもって突きつけられるのだ。


 ただ、今の桃には力がある。

 体も丈夫で、魔法も使える。

 だからせめて成り代わってまで与えられたそれを、誰かの為に使いたかった。

 

「なるほど。それはよい目標だ」

「それに強くなれば次元穴(じげんけつ)に関わる任務も任されるようになるでしょうしね」

「そうですな。しかし、次元穴(じげんけつ)ですか」


 桃の言葉を、一寸(いっすん)も頷いて肯定する。

 けれどその言葉にはどこか含みもある様に感じられて、桃は少し無鉄砲な話だったかと焦ったように続けた。

 

烏滸(おこ)がましい、ですかね」


 桃はなんだか気まずくなってしまって、詰められた子供のように笑ってごまかしながら手に持った湯呑へ視線をおとした。

 視線を落としたことで一寸(いっすん)の表情は見えないが、こちらへ視線を向けていることは分かった。

 

 その気配は先ほどから変わらず穏やかだったが、今はこの少しの静寂がなんだかもどかしかった。


「其方に知りたいことがあるのならば、御館様も止められはすまい。いずれにせよ、今は力を付け、技を鍛え、心を磨いて御館様に其方の成長を見せることだ」

「とにかく鍛えろってことですか……」

「其方は強くなる。私が保証しよう。」


 空に目を向けたままそういった一寸(いっすん)殿は少し笑っているように見えた。


「……心に留めておきます」


 桃は金平糖を掴んで、湯呑の中身を口に流し込んで空にする。

 勇魚(いさな)はそろそろきりの良いところまで事務仕事を終えただろうか。

 貰った金平糖を残しておいて、あとで持って行ってやろうか。


 初夏の気配を感じるすこしぬるい風が通り抜けて髪を揺らすのを感じながら、桃は急須に残ったお茶を湯呑に移して飲み干す。

 飲み干したお茶は先ほどよりも幾分か濃く、渋くなっていた。

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