物語序章 第一版 72章
台湾開発 ― 南洋の門を拓く
台湾強化の命が発せられてから数か月の歳月が流れ、台湾の北岸には次第に人の手による形が現れ始めた。
初めは仮設の桟橋と掘立て小屋ばかりだった基隆の入江も、
今では鉄骨の防波堤と、灰色のコンクリート製ドックを備える立派な港湾都市の原型を成していた。
港には補給艦が定期的に寄港し、
燃料・工具・医薬品・通信機器が次々と陸揚げされる。
波止場の上では、現地民と日本国の作業員が肩を並べ、
太陽の下で汗を流していた。
「思ったよりも人が多くなってきたな」
港の高台で、現地の青年が目を細めた。
傍らの技術士官が微笑みながら答える。
「それだけ、この島が重要ってことさ。
ここは南洋への“玄関”になる。」
明賢の指示により、台湾は南方の中継拠点として整備されていく。
まずは港の裏手に車両整備場と燃料貯蔵庫を設置。
続いて、肥沃な台地を利用して農業試験場が建てられた。
農作物の選定には、帝国大学農学部の若い学者たちが派遣され、
水田には日本米、畑にはサトウキビ・パイナップル・タバコ・ゴムなどが試験的に植えられる。
「熱帯の土地は病も多い。だが、薬草もまた多い。」
医療班の女医が記録を取りながら呟いた。
彼女らの手で、現地の薬草が次々と分類され、
その多くが新しい医薬品の研究材料として本国に送られることになる。
やがて、台北盆地には新しい町が形成され始めた。
計画都市として区画が整備され、電信線と街路灯が立ち並ぶ。
清助塾出身の教師が赴任し、教育所が設立された。
現地の子供たちが日本語を学び、日本の文字を書き始める。
町の一角では、活版印刷所が試運転を始め、
“南方新聞”と題された週報が刷り上がっていった。
港湾施設もさらに拡張される。
造船用ドック、冷凍倉庫、軍の補給基地――
南へ伸びる日本国の航路を支える重要拠点としての形が整った。
地元民との交易も軌道に乗り、
島は活気に包まれていた。
ある夕暮れ、旗艦の艦橋で、
第三調査隊の隊長が双眼鏡を下ろし、静かに息を吐いた。
「ようやく“門”が開いたな……」
副官が問う。
「これから、どちらへ?」
隊長は南を見つめた。
「次はグアム、そしてパプアだ。
この島に残る者たちが、きっとこの場所を南洋の柱にしてくれる。」
夜、出航準備の汽笛が湾内に響く。
台湾に残る先遣隊が港の灯りを掲げ、
去りゆく艦隊を静かに見送った。
こうして、南方第三調査隊は新たな航海へ――
南洋のさらなる未知へと舵を切ったのだった。
南洋の果て ― 新南島
軍馬島を発ってから数日、艦隊はさらに南へと針路を取った。
海の色は濃紺から深い藍へ変わり、やがて熱帯特有の強烈な太陽が
甲板を焦がすように照りつけはじめた。
艦隊の指揮官は艦橋で六分儀を覗きながら呟いた。
「南緯十度を越えた……もう間もなく陸影が見えるはずだ」
昼下がり、見張りの声が響いた。
「陸地、発見――東の彼方に高い山影!」
全員が視線を向ける。
雲の切れ間から、緑に覆われた巨大な山塊が姿を現した。
それが、彼らの目的地――**新南島**であった。
艦列は入り江を探しながら南東部の平地を確認し、
波の穏やかな湾を見つけると、そこに錨を下ろした。
ディーゼルエンジンが静まり、代わりに波と鳥の声が響く。
「ここを港にする」
短い号令のもと、上陸用舟艇が次々に海面に降ろされた。
兵たちは熱帯の湿った風の中、
汗を拭いながら木杭を打ち込み、仮設の桟橋を組み始める。
地面は柔らかく、すぐに泥に沈むが、
日本から運ばれた鉄骨の支柱でしっかりと固定された。
最初の港湾施設が立ち上がると、今度は背後の丘に測量隊が向かった。
「湿地が多いな……川も多い」
「だが水は豊富だ、農地にも使える」
測量官たちはノートに地形を記し、
地図を描きながら水系と標高を細かく記録していく。
やがて、森の奥から人影が現れた。
褐色の肌に槍を持った原住民たち――慎重に距離を取る。
先頭の通訳役が穏やかな声で呼びかけた。
「我らは敵ではない。この島を共に豊かにしたい」
言葉は通じずとも、
彼らの手渡した果実や布、金属の装飾品で警戒は次第に和らいでいった。
やがて、村の長と思しき男が前に出て頷く。
「……共に暮らすことを、許す」
その瞬間、兵たちの間に小さな歓声が上がった。
調査隊は原住民の協力を得て、山間部や川沿いを探索し始めた。
鉱石を含む岩肌や、燃料資源の可能性を持つ地層を確認し、
標本を採取して船へと持ち帰る。
海辺では港湾施設の拡張工事が続き、
燃料庫と冷蔵庫、発電設備、通信所が次々と立ち上がっていく。
森を切り拓いた場所には、
将来の飛行場予定地として広い滑走帯が整地され始めていた。
「この島は……南方の守りとなる」
現場監督が汗を拭いながら呟く。
「羽合から軍馬島、そしてここ新南島へ――
南洋を結ぶ日本の道ができるんだ」
夕暮れ、海の彼方に太陽が沈む。
港に並ぶ船のシルエットが黄金色に染まり、
初めて灯った発電機の明かりが、島の夜に静かに輝いた。
こうして新南島は、
正式に日本国の保護下に入り、
次代の南方資源開発と防衛拠点の中心として
歴史の第一歩を踏み出すのであった。