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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ - 苫小牧
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日本を未来へと導く者 ~陸上自衛官、江戸に立つ  作者: はぐれ火星人
徳川家宣政権…翔馬、伸び伸びとやりたい放題する

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苫小牧

冬の風が海から吹き抜け、苫小牧の埠頭に潮の匂いを運んでいた。波間には白い帆を張った連絡船が幾隻も並び、積み荷を降ろす掛け声が響く。木箱には「加賀行き」「江戸行き」と墨で書かれており、その中身はモシリ産の毛皮、干した昆布、缶詰の魚、そして冷凍された蟹でパンパンである。どれも本土では高値で取引され、いまや“北の富”として評判を呼んでいた。


毎週のように日本各地から移住者が押し寄せ、制度として課したモシリ文化の教育機関はパンク寸前。立ち見もでるくらいだ。宿舎も常に満杯。


苫小牧の港の脇には、公正取引所の大きな建物が立っている。かつて物々交換に慣れたアイヌたちは、いまや帳簿を広げ、硬貨を数える。

難易度の高い漢字教育は後回しにして、ひとまずカタカナの分かち書きがモシリの基本方針になった。漢字にはルビを振る事、それがルールになる。


アイヌ達は、初めは戸惑いながらも、文字の世界に徐々に馴染み、交易の手応えを感じていた。銀貨が音を立てて木の机に落ちるたびに、誰かの未来が動き出す。


交易船の積み荷が減ると同時に、別の船が米や塩、金属製の工具を運び込んでくる。鉄の鍬が手に入るようになり、開拓も進む。漁具も丈夫なものに変わった。暮らしは少しずつ明るくなり、苫小牧や釧路のような重要拠点町では、夜に灯る白熱電球の数が増えていった。


苫小牧の海辺に立つモシリ議事堂は、白の花崗岩を積み上げた重厚な建物だ。芸術的な装飾が施され、その完成には10年以上を要するだろうと言われている。部分的に稼働しているのが現状だ。

その前の広場から巨大ロータリーを経て一直線に延びる大通りには、学校、商館、役所、警察、仮滞在の宿舎群、巨大銭湯の大きい建物が整然と並ぶ予定だ。現在は仮設で凌いでいるが、随時建て替えをしていく。

物凄い勢いで町中が建設ラッシュに沸いている。舗装された道を、荷馬車と工事車両が往来し、制服姿の若者たちが教室へ急ぐ。

街を行き交うアイヌの子やいろんな日本の方言。街に文化融合の雰囲気を与え活気をもたらしていた。


街区はきちんと用途で区分され、今は住商隣接区域を開発中だ。

白壁と黒瓦を組み合わせた和風の高層アパートが一辺100mの街区をロの形で囲むように建てられていく。これは、パリの集合住宅を参考にした。

四階建てが標準で、外観は近代的でありながらも、どこか江戸の面影を残していた。幕府でお披露目された高層住宅の構想を、翔馬が苫小牧に持ち込んだものだ。

四角の内側の空き地には、落ち着いた公園と駐車場が置かれ、風通しの工夫もされている。


一階には飲食店や商店が入り、2階以降が住居になっている。煮炊きに関しては、苫小牧一帯で採れる天然ガスを都市ガスとして利用している。水洗トイレ、水道、電灯完備。そして温水循環暖房完備だ。一棟につき800~1000人の住民。とても効率的だ。

技術的には五階以上も可能だったが、電力供給がまだ不安定なのと、エレベーターの電子制御の技術が確立していない為、設置は先送りだ。それでも、家の窓から港を見下ろす住民たちは、未来を眺めるような眼差しをしていた。


街の発展は海辺だけに留まらない。巨大な防波堤が海へと伸び、巨大船が接岸できる港湾もコンクリにより形成されつつある。沖まで伸びる消波ブロックが波を砕いている。そのすぐ裏には鉄道が通り、南は室蘭へ、東は厚真へと延びていく。


苫小牧駅の一駅先は、煙と土埃の匂いが立ちこめる工業地帯が広がっていた。石炭の山、鉄鉱石の山、打ち鳴らされる鋼の音。天然ガス採取施設。巨大なクレーンが動き、製鉄所と乾ドックを備えた造船所が形を現していく。


ここ一帯は「苫小牧未来館」と呼ばれ、江戸の未来館を凌ぐ面積規模で設計されていた。翔馬はその視察のたびに、海風にあおられた図面を手に、黙って地平線を見つめていた。


「ここには、俺の理想の街を作るんだ。」

そう呟くと、傍らの技師が笑って答えた。

「大熊長官の構想は、よほど大きいものなんでしょうな。こんな街づくりは想像したことすらないです。まさに未来館… 未来の国にふさわしいです」

(…ま、事実そうなんだが…)


隣町の厚真では、新しい試みが進んでいた。久留里のものよりはるかに広い土地を丸々モシリ未来農場として管理している。

養鶏も当然やるが、この地では、念願の羊の育成も手がけている。

乳牛や食用牛、そして馬の交配も取り組まれている。

山手の間の平地は餌になる牧草が生い茂り条件がいい。ここを拠点にして、徐々に増やしていこうと思う。


他には、寒冷地でも育つ作物の研究、寒冷地での米づくり、トウモロコシやイモ類の栽培、温室を使った麦の周年栽培…ここは実験と夢の土地だった。研究所の裏では、試験栽培の畑に若いアイヌと和人の農夫が並び、同じ泥に手を入れていた。翔馬はその光景を見て、小さく頷いた。


さらに北、石狩や空知では、穀倉地帯の造成計画が急ピッチで進む。広大な平野に測量杭が打たれ、道路と鉄道のルートが碁盤のように引かれていく予定だ。十勝や中標津でも同様に、道路が線で描かれ、拠点に繋がっていく。


彼の胸中には、ひとつの確信があった。

この国の人口は、今は3000万人。だが、食糧事情を改善し、学びを広げ、医療技術を発展させれば、一世紀もすれば1億人を超えるだろう。前世で20世紀にようやく成し遂げた成果を18世紀に俺は達成させる。人が増え、土地が拓け、国が息づく…モシリはその起点になる。


港に戻ると、夕日が海に沈んでいた。防波堤の先で少年たちが釣り糸を垂れ、遠くでは汽笛が響く。翔馬は立ち止まり、街を見渡した。鉄とコンクリートの匂い、潮風、そして人々の笑い声。すべてが混じり合い、ひとつの音楽のように響いていた。


「なんか前世と違和感ないなぁ。ここは江戸時代なんだよな…」

翔馬はそう呟きながら、静かに帽子の庇を押さえた。モシリの鼓動は、確かに大地の底から響いていた。

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