第一章33 『出るか!? 凪の超魔法』
「ワープ――鈴ちゃん」
魔法。
凪が唱えたのは、確かに魔法だった。
ワープ。
そして、鈴ちゃんの名前をそのあとに続けて言った。
俺は、背後にいる凪へと目をやったが。
その凪は、俺の視界の端からポッと消えてしまった。
思わずわずかに首を回しかけたとき。
「いけーっ! 開っ!」
俺の瞳は、鈴ちゃんのほうへと向けられた。
そこで俺が見たのは、鈴ちゃんの目の前で、両手で《ケリュケイオン》を持ち、タンタロスの顎を突き上げている凪の姿だった。
凪が魔法を唱えてワープしてから、わずかコンマ数秒で「いけ」と凪が言った。その姿を見た俺が、状況を把握し行動を起こすのに、一秒ほどかかってしまった。
ロスはコンマ五秒ほど。
戦闘中のコンマ五秒は命にかかわる大きさ。
あわやそれを逃してしまった。
だけど。
それでもおつりが来るよ、凪。
「ハッ!」
俺は剣を振り抜き、タンタロスを斜めに斬った。
「とどめだ! 鈴ちゃん!」
「はい」
鈴ちゃんは俺の声に返答して、技名を唱えた。
「《氷河を刈る鎌》」
俺たちパーティーの中で、現在、唯一の大技持ちの鈴ちゃんの攻撃。
冷気をまとった氷の刃。
これは――
「ぐぁぁあ!」
左半身に直撃した。
ドサリ。
氷の刃は見事、槍を持つタンタロスの左腕を切り落とした。
左肩は、切り口が凍りついている。
痛がり、膝をつくタンタロス。
これは、勝った。
そう思ったのは、凪や鈴ちゃんもだった。
「やりましたね!」
「なかなか手強かったですな」
と、鈴ちゃんと凪がしゃべっている。
が。
二人の背後にいるタンタロスは、ぬっと立ち上がって、二人に斬りかかった。
まずい。
「後ろ!」
俺が呼びかけると、凪と鈴ちゃんは振り返った。
ギョッとなって二人は避ける。
間一髪、攻撃を避けられた二人。
凪が鈴ちゃんを押し倒して伏せる形で、なんとかギリギリ。
もし、俺が一瞬でも声を上げるのが遅れたら、避けるのも間に合わなかった。
一方のタンタロスは、振り下ろした剣をぐるりと回して、次の攻撃モーションに移っていた。
凪と鈴ちゃんがここから攻撃に転換するのは不可能に近い。
俺が行くしかない。
地面をひと蹴り。
距離もそれほど離れていなかったから、一気に間合いを詰めた。
タンタロスは俺に気づき、攻撃の照準を俺へと向けた。
よし。
きっとここは、一撃勝負になる。
剣を後ろへ下げて、互いに斬りかかる体勢に。
どっちの剣が先に、相手の懐まで届くか。
相手の攻撃を紙一重で避け、懐を斬らねばならない。
「ハァッ!」
「ウオォ!」
剣尖を、見極める。
むろん、タンタロスの攻撃におけるパワーから来るスピードは相当なもの。
油断は許されない。
いや、これは相手のほうが動作に入るのが先――向こうのほうが速いか……?
が。
ほんの一瞬――
動きが鈍ったように見えた。
「そこだ!」
わずかな隙を見逃さない。
俺は、全力で斬りかかった。
タンタロスの身体を真っ二つにするように、俺は斜めに斬った。
「ぬぁああああ!」
タンタロスの悲鳴が響く。
そして。
一定以上のダメージを与えられたらしく、タンタロスのポリゴンが崩れ始める。
「おのれ……! 我が肉体が滅びようと、魔王様の野望は消えない……。貴様らはいずれ……完全復活した魔王様の前に散る……ぐぁあ!」
苦しむ声と共に、タンタロスが消え去った。
その場には、なにも残っていない。
これは、
勝ったんだ。
今度こそ、完全に、怪物タンタロスを倒せたらしい。
「やったっ」
俺がそう言って、鈴ちゃんが安堵の息をつく。
「ふう。危機一髪でした……」
逸美ちゃんは嬉しそうに胸の前で手を合わせて、
「みんなすごいわ。三人共ありがとう。みんな上手に攻撃避けるから、わたしなにも役に立てなかった」
「そんなことないよ。逸美ちゃんがいたから安心して戦えたんだしさ」
「そうですよ。アルタイルも守ってくれてましたし。むしろ、あたしは最後、油断してしまって」
鈴ちゃんの肩に、凪がそっと手を置く。
「ドンマイ、鈴ちゃん」
「ありがとうございます、先輩。て、先輩もでしょ!」
俺はあははと笑った。
「鈴ちゃん」
「はい、なんですか?」
小さく首をかけむけて俺を見上げる鈴ちゃんに、俺はお礼を言った。
「ありがとう。おかげで、最後なんとか、タンタロスを倒せたよ」
「え? なんの話ですか? 助けられたのはあたしのほうで……」
やや困惑顔の鈴ちゃんだったけど、俺がここで鈴ちゃんにお礼を言ったのには理由がある。
「いや。鈴ちゃんが《氷河を刈る鎌》で攻撃してくれたおかげだったんだよ。それによって、タンタロスの足下に、わずかに氷が付着し、それが動きを鈍らせ、一瞬の隙を作ってくれたんだ」
「そ、そうだったんですか」
鈴ちゃん自身、思いもよらなかった自らの攻撃による効果に驚いていた。
凪は腰に手を当てて、
「よくやったよ、鈴ちゃんも開も、逸美さんもさ。ぼくたちみんなでつかんだ勝利だ」
「だな」
と、俺は小さく微笑んだ。