第一章32 『怪物タンタロス』
アルタイル。
俺たちが助けたあのワシは、何者かに追われていた。
追っているのはモンスターだ。
体長二メートルはあるだろうか。
近づいてきて、名前も表示された。
タンタロス。
獣人型の魔物で、左右の手には、槍と剣とそれぞれ持っている。鎧まで着ているし、これは悪い魔物に違いなかった。
ただし、普通のモンスターと異なる点がある。それは、HPゲージがないこと。ゲームのボスキャラだけHPゲージが表示されないこともあるし、これもそんな感じなのだろう。
つまり、タンタロスはボスキャラだ。
「どうしたんだ?」
凪が驚きもせずアルタイルとタンタロスを見比べて、アルタイルに言った。
「追われているのかい? だったら助けてあげようじゃないか」
「後ろに隠れていてね」
逸美ちゃんにそう言われて、アルタイルはうなずき、俺たちの背後に回った。
よし。
こうなったら、アルタイルを助けるために戦うっきゃない。
俺たちパーティー四人が戦闘態勢に入る。
タンタロスは俺たちまで五メートルほどの距離まで来て、剣を俺たちに向けて、低い声で言い放った。
「我が名はタンタロス。そのワシを差し出せば、お主らに危害は加えぬ」
「手出しはさせない!」
好戦的に言い返してやると、
「ならば、仕方ない。魔王様の命令は絶対! 邪魔をする者は敵!」
タンタロスは槍を振り回した。
バトルが始まった。
さっきの三平くんたちのときに比べたら、だいぶ急な展開だ。
いきなりアルタイルが飛んできたと思ったら襲われているだなんて。
もしかしたら、さっきケガしていたのも、このタンタロスに襲われて、逃げてきたところだったのかもしれない。
それに。
タンタロスは「魔王様」と言った。
敵の敵は味方というように、魔王の敵は俺たちにとっては味方である可能性が高い。
また、ハネコやニャクゥなどの普通のモンスターはしゃべれないが、このモンスターはしゃべれる。やはりタンタロスは、特別なモンスターだ。
「この場所、このタイミング。どうやら、イベントが発生したらしいぜ」
凪が横目に俺を見た。
「なるほど。やっぱりそうか。なら、やるしかないな」
まず。
タンタロスの槍が、俺に向かって突き出された。
それを避ける。
パワーに強さの比重が寄っているからか、タンタロスの動きは特別早くはない。
見切れる。
だが。
タンタロスの戦い方は、少し厄介だった。
槍を振り回しつつ、剣で隙を狙う。
戦い慣れしている者ほどやりにくい相手といえる。不規則で読めない。その上、リーチもある。
俺はみんなに指示を出す。
「逸美ちゃんは後方から回復で補助と、アルタイルの保護をお願い! 鈴ちゃんは隙を見計らって魔法技を、凪は陽動だ!」
「わかったわ。任せて」
「はい。了解です!」
「おう。とはいえ。ぼくも隙を見たら仕掛けるぜ」
三人が応えてくれて、俺は凪にうなずきを返す。
「頼む」
補助役に逸美ちゃんを。
残りの三人がタンタロスとの直接バトルという形を取った。
避けては攻撃を入れ、避けては攻撃を入れの繰り返し。
相手はなかなかに頑丈な身体を持ち、簡単には倒せない。
これまでの野生のモンスターや三平くんと比較しても、明らかに強い。
気を抜いたらやられる。
ゲームオーバーだ。
「開、タンタロスは強いぜ。どうする?」
「いまそれを考えてるんだよ」
と、答えて、俺はタンタロスの攻撃を避けた。
ここは、とくかく観察だ。
タンタロスの不規則な攻撃。
しかしこれも、避けつつ相手の動きをしっかりとつぶさに観察すれば、完全な不規則ではないことがわかった。
判明したのは、腰より下には槍が行かないこと。つまり、槍による攻撃は、しゃがむだけで回避できるということ。
また。
剣は上から振り下ろすモーションでしか攻撃してこない。
この二点がわかっただけで、攻撃を避けるのは容易い。
タンタロスもNPCってことを考えると、わざわざ内密に情報を伝える必要もないと思い、俺は気づいた二点を三人に教えた。
「さすが開くんっ! みんなファイト!」
「槍へは、しゃがむだけでよかったんですか。ありがとうございます」
逸美ちゃんと鈴ちゃんが言って、凪が薄く微笑んだ。
「キミの洞察力は、やっぱり一級品だね。どれ、ぼくが隙を作ってやる」
凪のやつ、戦略でもあるのか?
でも、信じて待つ。
隙ができたとき、いつでもとどめを刺しにいけるように。
タンタロスは、槍を振り回す。
今度は剣を振り下ろした。
俺と鈴ちゃんはそれらを避け、凪は――
「さて、やってやるか」
つぶやいて、タンタロスから少し離れた場所から、なにか魔法を唱えた。
「ワープ――」
かざした《ケリュケイオン》の青い水晶が、ピカッと輝く。